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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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浅野善一

傍聴市民への報告、政治演説とみなす 応接室使用の議員に中止命じる 奈良県香芝市議会、出席停止議決巡り

香芝市役所入り口に掲示された庁舎管理規則の第15条=2023年1月12日、同市本町

香芝市役所入り口に掲示された庁舎管理規則の第15条=2023年1月12日、同市本町

庁舎管理規則改正し禁止行為に

 奈良県香芝市議会が昨年12月、青木恒子議員(共産)に出席停止の懲罰を科した問題で、同議員が懲罰議決の当日、議会応接室で議決結果について議会を傍聴していた市民に報告。これが、市庁舎管理規則が禁じた「政治的問題に関する演説行為」とみなされ、議会事務局長に中止を命じられる出来事があった。記事の筆者もその場にいた。 青木議員への懲罰を巡る問題の経緯

 議会の中心となる議場では、日常的に「政治的問題に関する演説行為」が行われている。同議会議員の一人は「議会の応接室で議員が市民を応接するのに政治的会話がないのは考えられない」と指摘した。規則の一部改正により「政治的問題に関する演説行為」が禁止行為とされたのはこの1カ月前。

 青木議員は2021年12月の福祉教育委員会で、国民健康保険料や生活保護の窓口への同行を巡る川田裕議長の発言に反論したことが侮辱に当たるとされた。 検証記事 青木議員は陳謝の懲罰を科されたが、陳謝を拒否。以後、陳謝の懲罰と陳謝の拒否という状況が繰り返され、昨年9月、6度目の懲罰動議が提出されていた。

 しかし、懲罰の可否や処分内容を決める懲罰特別委員会は開かれていないかった。青木議員が昨年11月7日、奈良地裁に対し、議会が処分を行わないよう仮の差し止めを求める申し立てを行ったことから、地裁の決定が出るのを待っていたためとみられる。地裁は同月30日、「出席停止処分なら裁量権乱用の疑いが強い」と指摘するも申し立てについては却下した。

 出席停止議決当日の12月5日は定例会の初日。市が提出した議案の提案理由説明や総括質疑などが予定されていた。本会議開会前の午前9時からの議会運営員会で確認された日程には、懲罰動議の審議はなかった。ところが、当初の日程が終了した午後4時ごろ、休憩を入れ、急きょ懲罰特別委員会が開かれた。委員会は青木議員の処分を出席停止4日間と決めた。

 午後7時ごろ、本会議が再開され、委員会の決定通りに懲罰を科すことを賛成多数で可決した。出席停止の期間はこの日から8日までとされた。7、8日には代表質問と一般質問があり、青木議員は予定していた一般質問ができなくなった。

 本会議終了直後の午後7時半ごろ、青木議員は応接室で市民ら十数人を前に報告を始めた。記者のICレコーダーの録音によると「私は一般質問で、生活保護や就学援助、補聴器の助成、放課後児童教室の問題を追及しようと準備をしていた」などと述べた。そこへ議会事務局長が姿を見せ、「ここで政治的発言はやめて」と中止を求めた。

 これに対し、青木議員や市民は「政治的発言はしていない」「議員活動は政治活動なのか」「議員報告だ」「今までもここでやっていた」などと反論したが、議会事務局長は「議員活動も議員報告も(政治的発言と)同じ。演説は禁止」「やめなければ退去命令になる」「11月に庁舎管理規則が改正になり、はっきり駄目だと書かれた」などとして受け付けなかった。

 市庁舎管理規則の一部改正・公布は昨年11月1日付。規則は、市長が議会の議決を経ずに定めることができる。主な改正点は庁舎内での禁止行為の種類の追加。第15条で定められていて、それまでの9種類に6種類を加え15種類とした。「宗教、政治的問題に関する演説行為」のほかには「事務室内への無断立ち入り」や「指定された場所以外での喫煙」などが追加された。

 同規則では、庁舎管理者は禁止行為を行った者に対し、行為の中止、庁舎からの退去を命じることができる。庁舎管理者は庁舎の区分ごとに決められていて、議会は議会事務局長となっている。

改正後の市庁舎管理規則第15条が定める禁止行為
(9~14号が追加分、文面は「奈良の声」が要約している)

1)庁舎の損傷、汚損行為
2)銃砲刀剣類、爆発物その他の危険物の庁舎への持ち込み
3)粗暴な行動、精神錯乱、泥酔等により他人に迷惑をおよぼす行為
4)放歌高唱、ねり歩く等の行為
5)座り込みその他通行の妨害
6)金銭、物品等の寄付の強要、押し売り
7)職員への面会の強要、乱暴な言動
8)火災予防上危険を伴う行為
9)示威、喧騒(けんそう)にわたる行為
10)事務室内への無断立ち入り
11)指定された場所以外での喫煙
12)物品等の放置
13)宗教、政治的問題に関する演説行為
14)正当な理由なく長居し、執務を妨害する行為
15)前各号に掲げるもののほか、この規則に違反する行為、庁舎の秩序の維持、災害の防止に支障を来す行為

判断基準「ケース・バイ・ケース」

 管財課は、禁止行為を追加した理由について「明文化されていない部分があった。庁舎を管理していく上で、あった方が有利と考えた」と説明。

 また、「政治的問題に関する演説行為」はどのようなことを想定しているのかについては「常識的な範囲の中で、最終的には庁舎管理者の判断になるかと思う」と述べ、具体例を示したような手引などは「作っていない」とした。

 県内全12市がそれぞれホームページで公開している庁舎管理規則を「奈良の声」がこの1月中に確認したところ、「政治的問題に関する演説行為」を禁止行為として掲げているところは香芝のほかになかった。全国的にはインターネットによる検索で1市を確認できた。

 議会事務局によると、議員への通知については規則改正後、応接室入り口横の壁に、禁止行為を定めた第15条の条文を掲示したという。

 議会事務局長は、応接室の設置目的について「設置当初のことは分からないが、議員が市民からの相談を受ける場所かと思う」と述べた。「政治的問題に関する演説行為」に当たるかどうか、政治的発言かどうかの区別については「ケース・バイ・ケースの判断になる」とし、12月5日の青木議員の場合は「前後の状況から演説行為と判断した」と述べた。

 議会事務局から規則改正を要望したことはないとする。今回の改正について、新しく禁止行為を追加したのではないと述べて、「あいまいだったことを具体的に明記することが改正意図だったと思う」との考えを示した。

議会開会中の使用自粛も

議会開会中の応接室使用自粛を求める通知

議会開会中の応接室使用自粛を求める通知

 応接室の使用を巡っては、規則改正とは別に議会開会中の使用自粛も決めた。議会事務局長名で、11月16日付で各議員に通知した。「奈良の声」が開示請求で得た通知文書によると、応接室の使用に当たっては、これまで通り事前に使用日時を議会事務局に届け出ることを求めるとともに、議会開会中は傍聴者が議会中継を見るための部屋として位置付けていることを理由に使用自粛を求めている。

 12月5日の応接室使用を巡るやり取りでは、川田議長も途中から姿を見せた。記者は市民が残していたそのときの記録を確認した。議会開会中の使用を認めないことについて、市民からの「(本日の)本会議は終了しているではないか」「理由を説明して」などの問いに対し、川田議長は「22日(定例会最終日)までは開会中」「今までも委員会中に廊下で大きな声を出して何回も注意している。迷惑が掛かるから、そう判断した」などと答えた。

 定例会最終日の12月22日には5日の出来事を捉えて、「香芝市議会議員の庁舎管理規則を順守する決議」が提案された。提出者の下村佳史議員は「庁舎の会議室(応接室)を許可なく無断で使用するなど、あり得ない行為」と非難。「庁舎管理者、議会事務局の事務執行を妨害する行為は、今後二度とあってはならない」などと提案理由を説明した。

 これに対し筒井寛議員(enjoy香芝)は「議会フロアの応接室で、市議会議員という政治家が市民を応接するのに政治的会話がないのは考えられないが、それをもって使用禁止とされたのか」とただした。下村議員は「この期間は12月議会中なのでその趣旨を尊重されただけ」とし、演説行為の禁止に抵触したのかどうかについては答えなかった。

 反対討論を行った中井政友議員(共産)は「青木議員の個人の議員資格についての大切な報告をされていた。内容の点で庁舎管理規則に何ら反していない」と訴えた。決議は賛成多数で可決された。

青木議員「政治活動を幅広く捉えて制限」

 青木議員は応接室の使用を巡る問題について「議員が政治活動をしないなどということは考えられない」と述べる一方で、「政治活動を幅広く捉えて、活動を制限しようとしているように見える」と批判。議会開会中の使用自粛についても「全議員の共通認識になっていない」として納得していない。

 12月22日の決議には、報告の中止を命じられたときの青木議員のものとされる発言が複数取り上げられている。その中には攻撃的、身勝手などの印象を与える発言があるが、記者のICレコーダーの当日の録音ではそれらの存在を確認できなかった。発言してもいないことが非難の対象にされていないか、続報で詳細を伝える。 続報へ

青木議員への懲罰を巡る問題の経緯

2021年12月14日 福祉教育委で川田議長が「国民健康保険料や生活保護の窓口への議員の同行は禁止。断っても帰らない場合は議会に報告を」と述べたことに対し、青木議員が「議員に対する圧力と感じた」と発言。

2021年12月16日 青木議員の発言を議長への侮辱に当たるなどと問題視した議員が懲罰動議を提出。

2022年2月28日 3月定例会初日。陳謝の懲罰可決。青木議員は陳謝を拒否。

2022年3月2日 陳謝拒否に対し2回目の懲罰動議提出。

2022年3月24日 3月定例会最終日。陳謝の懲罰可決。青木議員は陳謝を拒否。3回目の懲罰動議提出。

2022年6月6日 6月定例会初日。陳謝の懲罰可決。青木議員は陳謝を拒否。

2022年6月8日 4回目の懲罰動議提出。

2022年6月23日 6月定例会最終日。陳謝の懲罰可決。青木議員は陳謝を拒否。5回目の懲罰動議提出。

2022年8月18日 懲罰特別委は処分を出席停止8日間と決定。

2022年8月24日 青木議員は奈良地裁に対し、議会が出席停止処分を行わないよう、仮の差し止めを求めて申し立て。

2022年9月1日 地裁は「裁量権の乱用と認められる」として仮の差し止めを決定。

2022年9月5日 9月定例会初日。予定していた出席停止の懲罰の採決を見送る。

2022年9月29日 9月定例会最終日。懲罰の内容を出席停止より軽い陳謝に変更し、可決。青木議員は陳謝を拒否。6回目の懲罰動議提出。

2022年11月1日 市庁舎管理規則が一部改正され、庁舎内での禁止行為に「政治的問題に関する演説行為」が加えられる。同日公布。

2022年11月7日 青木議員は6回目の懲罰動議提出を受け、奈良地裁に対し、議会が陳謝または出席停止の処分を行わないよう、仮の差し止めを求めて申し立て。

2022年11月16日 議会開会中の応接室使用自粛を求める通知。

2022年11月30日 地裁は青木議員の申し立てを却下。一方で「出席停止処分を科すとすれば裁量権乱用の疑いが強い」とも指摘。

2022年12月5日 12月定例会初日。出席停止4日間の懲罰可決。本会議終了後に青木議員が議会応接室で傍聴の市民に報告していたところ、政治的発言とみなされ中止を命じられる。

2022年12月22日 「香芝市議会議員の庁舎管理規則を順守する決議」で青木議員を非難。

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