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地域の身近な問題を掘り下げて取材しています

発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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鳴き声)縄張り主張 争い回避/連載 野鳥~自然を生きる知恵・与名正三…1

つたの絡まる小枝の先端に止まりさえずるウグイス=写真はいずれも筆者

つたの絡まる小枝の先端に止まりさえずるウグイス=写真はいずれも筆者

鳴きながら縄張り上空を旋回するハチクマ

鳴きながら縄張り上空を旋回するハチクマ

広葉樹の横枝に止まりさえずるオオルリ

広葉樹の横枝に止まりさえずるオオルリ

広葉樹のこずえに止まり縄張りを主張するサシバ

広葉樹のこずえに止まり縄張りを主張するサシバ

 野鳥たちにとって鳴き声には、どのような意味があるのだろうか。疑問を持っている人も多いと思う。そこで「野鳥 自然を生きる知恵」第1回目は野鳥の声を取り上げてみる。

 通常、私たちの日常生活で野鳥の声を耳にする時間帯は、ほとんどが早朝である。季節によって異なるが、日本各地の農村部では春になると明け方から「ホーホケキョ」とウグイスのさえずりが聞かれ、初夏には「テッペンカケタカ」と鳴く、ホトトギスの声。秋には「キイー、キイー、キイー」といったモズの高鳴きなどが聞こえる。

 また、都市近郊でも1年を通して早朝には、カラスやヒヨドリ、スズメなどの声が、「カアー、カアー」「ピュー、ピュー」「チュン、チュン」と、ほぼ同時にあちらこちらから聞こえてくる。野鳥たちがなぜ早朝から一斉に鳴き始めるのか、いくつかの理由を挙げてみよう。

 野鳥たちにとって、お互いのコミュニケーションの手段は鳴き声である。それぞれに、ある一定の縄張りを持ち、その中で採餌や繁殖活動を行って生活を送っている野鳥にとって、鳴き声による「縄張りの主張」は、最も重要な行為である。したがって寝起きとともに、自分の縄張りを他の仲間に知らせる必要がある。そのため、ほとんどの種類の野鳥たちが早朝から同時に鳴き始め、にぎやかに騒ぎたてるのだ。

 一通り鳴き終えた後は採餌をし、その後休息をとる。採餌や休息の途中、縄張り内に仲間の個体や天敵が侵入した場合は、鳴き声で「威嚇」し追い払う。ウグイスの場合、さえずりとは違う、「ケッキョ、ケッキョ」と鳴く短い鳴き声が、相手を威嚇する鳴き声である。そして夕方、再び縄張り主張のためのさえずりを行い、眠りにつく。これが多くの野鳥たちの、日々の暮らしなのだ。

 鳴き声には縄張りの主張、威嚇以外にも繁殖期の求愛の鳴き声である「さえずり」、天敵が飛来したことを群れの仲間たちに知らせる「警戒」の鳴き声、幼鳥が親鳥に餌をねだる鳴き声などがある。

 また、鳴き声の中にはある一定の時期にしか聞くことのできない鳴き声もある。8月下旬、本州各地の田んぼや、畑近くの低山上空で「ピューゥー、ピューゥー」と、か細い鳴き声が聞こえてくることがある。

 これは、ハチクマ(タカの仲間)の親鳥が、地上の林内にいる巣立ったばかりの幼鳥に、飛翔を促す場合の鳴き声だ。夏鳥であるハチクマは9月下旬には中国南西部に渡って行かなければならない。そのために一刻も早く大空を飛べるようにと、親鳥は必死になって鳴きながら旋回を繰り返すのだ。

 このように、野鳥たちはさまざまな場面で状況に応じて鳴き声を発する。もし、それぞれが縄張りを持たず、むやみやたらに鳴き声を発していたら、頻繁に仲間同士争うことになる。そうならないように、鳴き声に変化をつけ、常に自分の意思や感情を伝えながら生活していく。このような生き方こそが、野鳥たちにとって採餌や休息に多くの時間を充てるための、最善の方法であり知恵なのである。(よな・しょうぞう=野鳥写真家、月1回更新予定)