ニュース「奈良の声」のロゴ

地域の身近な問題を掘り下げて取材しています

発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

最新ニュースをメールで受け取る【無料】

コラム)持続可能な地域とは 統一地方選挙を問いなおす/川上文雄のじんぐう便り…4

筆者のアートコレクションから工房ソラ(京都市東山区)メンバーの作品

筆者のアートコレクションから工房ソラ(京都市東山区)メンバーの作品

 3月23日に始まった統一地方選挙。翌日の毎日新聞「社説」の見出しは「地域の持続性考える機に」でした。「地元の社会を持続するための取り組みが急務」であるとして、「学校や病院などの公共施設や社会インフラをどのように維持するか」など、いくつかの課題を提起しています。個別の課題を考えることは重要ですが、私は「持続可能性」という語それ自体の基礎的な意味を考えることも重要であると思います。その意味を知って、それを個別の課題を考える際の「基礎(支え)」にしたいです。

 「持続性、持続可能な」は国連のSDGsを意識した語句です。SDGs(エスディージーズ)はSustainable Development Goals(サステナブル・デベロップメント・ゴールズ)の略称で、日本語訳は「持続可能な開発目標」。sustainable(持続可能な)の基礎的な意味を知るには、英和辞典(とくに語源の記述のあるもの)が最適です。なぜなら、人々の生活の歴史のなかで新しい意味が加えられながらも、原初の意味(原義・語源)を維持してきた経緯が分かるからです。

サステナブル=下から支える

 「サステナブル(持続可能な)」という語には「下から支えるようにして生命・生計(生活)を維持することが可能な」の意味がある。私の辞書の「sustain(サステイン、動詞)」の記述からの示唆です。

 辞書の冒頭に「下から保持する」という語源の説明があります。「保持する」は「支える」と同じであると考えます。そのあとに意味の記述。第1の意味は「支える」。英語例文があって「この橋を支えるには重い柱が必要だ」の訳がある。柱の役割は語源そのままに「下支え」。第2の意味は「(困難などに)耐える」。たしかに、下から支える柱があって橋は耐えられる。第3は「(人が家族などの生命を)維持する;生計を支える」。支える人がいて生命・生計が維持され、困難に耐えることができる。

 「下から支えるようにして生命・生計(生活)を維持する」を「地域」に当てはめると「地域に支えられて生命・生活を維持できる」になります。そのためには、地域が基本的な生活資源―食料、エネルギー(水資源を含む)、住居、ケア(医療、福祉)、教育、芸術・芸能)など―を持ち続けることが必要です。

 私たちが地域の持続可能性に関心を持つのは、私たちの生活の持続可能性がそれに依存しているからです。でも、地域の持続可能性はそこに暮らす人たちのさまざまな活動に依存しています。地域資源を維持する、更新する、創り出すことに人間は貢献できる。地域と人間、それぞれの持続可能性は2つのあいだの支え合いで可能になります。

 一見すると自分の利益になりそうな政策、しかし地域を支える大切な資源を手放す結果になるような政策。選挙ではそのような政策につられて投票したくありません。

調整し続ける

 「地域の持続性」をめざす政治。それは「維持の政治」です。「維持の政治」は何も変えないのではなく、大切なものを維持するためにこそ、継続して変更を加える。この変更には、改革ではなく調整という語がふさわしいでしょう。

 継続して調整する必要があるのは、社会がすこしずつ変化しているから。その変化をしっかり把握できるのは、現場(教育、医療・福祉、生産業、ボランティアなどの現場)で働く人たちです。調整の仕事で重要なのは、生活と仕事の現場で新たに発生したニーズや地域の特性にていねいに対応することです。

 とはいえ、ていねいな調整を長いあいだ怠ってきたから、問題を先送りしてきたから(小手先の調整だったから)、現在の日本全体と地域の困難・苦境がある。そう考えると、かなり大胆な変更(=改革)が必要になります。しかし、仕事の現場・ものづくりの現場を疲弊させる政策、経済的格差をひろげ、取り残される人たちを生み出すような社会を分断する政策は、「維持の政治」にふさわしくありません。

疑いながら投票し続ける

 そのほか「維持の政治」から見て疑わしいと思われること。東京オリンピック(2021年開催)にむすびつけて2つあります。

 まず、大規模プロジェクト・イベントで地域発展をめざす政策(候補者・政党)には注意が必要です。膨大な経費を使った後に、何が残るのか。「サステナブル」の基礎的な意味に合致していて、大切に維持していくべき地域資源を残せるのか。

 オリンピックは経費の大幅な水増し、汚職・談合など、お金の使い方に関わって問題の多い大会でした。その原因の1つは情報開示がきわめて不十分だったことです。これまで誠実に情報開示してきた実績のある候補者・政党に期待しています。今後のこととしては、徹底した情報開示・文書保存のための法律・条例の改正を約束していただきたい。

 「情報なくして参加なし」。県民・住民の声を聞くまえにしっかり情報開示する。聞くだけなら一方通行で、ほんとうの住民参加にならない。持続可能な地域社会を下支えするうえで、法律・制度は不可欠。その1つが情報開示・文書保存に関する法律・条例です。

 国連SDGsの文書に「誰一人取り残さない」の語句があります。希望の標語といっていい。では、政治に希望を託せるでしょうか。英和辞典を見たらsustainの第5の意味は「(希望などが人を)元気づける」でした。しかし、これは第1から第3までの意味があってのもの。「下から支えるようにして生命・生計(生活)を維持する」つもりのない政治からは、空(から)元気をもらうだけでしょう。国連の標語と同じ語句を使っている候補者のパンフレットを見かけることがあります。ぎょうぎょうしく政策を総花的に並べたものは、かえって心配になります。

 でも、しっかり疑いながら投票し続けましょう。「維持の政治」の基本であるていねいな調整のために必要です。投票して自らの考えを伝えましょう。

【追伸】

 「維持の政治」のことは、「憲法と政治の風景」第29回「『維持する』が政治の基本」でも取りあげました。

 本文中に「持続可能な地域社会を下支えするうえで、法律・制度は不可欠」と書きました。これについては、国連SDGsの「17の目標」の「目標16 平和と公正をすべての人に―制度はどこに?」を解説した山田美和氏の文章「目標16はSDGsすべての基盤」から示唆を得ました。報道の自由、言論の自由に関わる制度保障、人権擁護の視点からの司法制度改革などは「目標16」に関わる問題です。袴田事件をめぐる証拠捏造(ねつぞう)を指摘した東京高裁の「再審決定」(2023年3月13日)を知るにつけて、「目標16」の重要性が分かります。なぜか日本(とくに政府の文書)では「法律・制度」の議論が低調であると、山田氏は指摘しています。https://www.ide.go.jp/Japanese/IDEsquare/Column/ISQ000015/ISQ000015_018.html

 私の英和辞典は2001年刊の「ジーニアス英和辞典(第3版)」(大修館)です。最新の辞書でなくても、sustainのような基本語の語源と基本的な意味を知るためには問題なしと思います。

(おおむね月1度の更新予定)

川上文雄

 かわかみ・ふみお=奈良教育大学元教員、奈良市の神功(じんぐう)地区に1995年から在住

政治と憲法の風景バナー

読者との対話