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地域の身近な問題を掘り下げて取材しています

発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一
ジャーナリスト浅野詠子

奈良県)ため池が水道水源 県域一体化の波の中 料金安さ県一の葛城市

青空を湖面に映し、優れた景観の内池=2019年9月9日、葛城市南藤井

青空を湖面に映し、優れた景観の内池=2019年9月9日、葛城市南藤井

ため池とつながる竹内浄水場=2019年9月9日、葛城市竹内

ため池とつながる竹内浄水場=2019年9月9日、葛城市竹内

 奈良県葛城市(人口3万7400人)の水道の主要な水源は市内のため池。江戸時代に造られた市内10カ所の農業用ため池を3カ所の浄水場につないでいる。大和の原風景ともいえる地域資源のため池。上水道事業でこうしたため池を積極的に活用する自治体は、県内では珍しい。同市の水道料金は現在、県内の市町村で最も安い。

築造は江戸期

 市農林課によると、10カ所すべてが江戸時代に築造された池で、同市南藤井の内池など3カ所は1730年代、同市山口のダブ池など2カ所は1780年代に造られた。少雨の対策として、農業用水を確保するための昔ながらの貯水施設だ。市内8つの水利組合が管理している。

 葛城市は2004年、新庄町と当麻町が合併してできた。ため池を浄水場につなぐ取り組みは、両町が水道事業を開始した昭和30年代から行われている。この間、地下水を利用したこともあったが、深井戸の取水量が減少し、また所有権の確保が困難になったことなどから、05年、ため池を主要な水源にした。現在、ため池を供給元とした自己水源が市の水道全体の77%、奈良県川上村の大滝ダムを水源とする県営水道からの受水が23%となっている。

 20トン当たり月2260円(口径20ミリ、消費税込み)の水道料金は県内で一番安価だ。その理由として、豊富な自己水源が中心であることを市は挙げる。県営水道が市町村に販売する価格は1トン当たり130円で、これに自治体ごとの諸経費が加算され水道料金になる。ため池の利用について葛城市水道課の福森伸好課長は「日ごろの水利組合の協力が欠かせない」と話す。

 同市が水源とする10カ所の池の貯水容量を合計すると、32万9000立方メートルに上る。さながら小規模なダムの容量を思わせる。しかし、これらのため池は、河川をコンクリートの堰堤(えんてい)で遮断し貯水する通常のダムとは大きく異なる。金剛山地を水源とする谷川(大和川水系)の水を利用している。環境への負荷が小さい。

 市が利用するため池の水は、市道の地下に埋設した導水管によって浄水場に運ばれる。最古の国道といわれ、飛鳥の都と難波を結んだ竹内街道(国道166号)沿いにある上池は、7万トンの水を貯め、竹内浄水場と接続する。ここで急速ろ過などの処理を経て、各家庭に運ばれる。山口地区のダブ池の水は、約2キロの地下の導水管を経て、同市新庄の屋敷山浄水場へと運ばる。ここから寺口受配水池までの間は登り坂の地形のためポンプアップによって送水されている。

 田植えから稲刈りの農繁期は、ため池の貯水は農業用水の使用が優先されるが、市内の農地は、川上村の大迫ダムから発する吉野川分水も得ている。水量にはゆとりがありそうだが、いったん豪雨に見舞われると、ため池の水は泥臭さがなかなか抜けないといい、市は飲料水に適するよう細心の注意を払って浄化している。

 周辺の自治体は現在、地下水などの自己水源を次々と廃止し、ダムを水源とする県営水道100%に切り替えている。奈良県は県域水道の一体化を目指し、葛城市も一体化推進のための協議会に参加している。周辺の小さい町などが今後の人口減少予測を踏まえ、水道設備を単独で維持することの難しさを葛城市も理解していないわけではない。

 市の将来を見据え、今年3月に策定した「葛城市水道事業基本計画」(地域水道事業ビジョン)においては施設の地震対策はもとより、「複数の自己水源を保有していることにより、地震などの災害リスクの低減に有効」と明記した。主水源をため池利用に転じた15年間のメリットを認識したものといえ、池を守る上での汚濁監視や森林保全などの大切さにも言及する。

 奈良盆地を中心に県内3000個といわれるため池。古くは記紀万葉の世界に登場し、土木遺産として注目される池もある。海のない奈良県の貴重な水辺であり、生物多様性にも貢献してきた。しかし、宅地開発などの廉価な用地として転用され、その数は減少する一方だ。二上山や当麻寺に象徴される歴史の里、葛城市の上水道事業は、市民に身近な水源を生かすユニークな先例といえそうだ。【関連記事へ】

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