視点)奈良・佐保川の県治水ダム計画 凍結理由を公文書に残す努力が必要だ
歩いて感じの良い佐保川の堤防。上流の奈良市側は桜の名所になっている=2020年7月、大和郡山市
佐保川ダムの必要性を強調する1999年発行の県民向け冊子の記述
奈良県が1992年、奈良市中ノ川町付近の佐保川で洪水調節を目的としたダム建設計画の予備調査を開始しながら、その後、凍結した理由について、記者が県情報公開条例に基づき開示請求したところ、県からこのほど、文書不存在の通知があった。
不存在の理由について県河川整備課は本年3月16日付で「現存する文書を探索した結果、該当する文書が発見されなかった」とした。
県は1999年、県民向け冊子「大和川水系における奈良県のダム―大和あおがき治水システム」において、佐保川の沿川は都市化に伴い治水安全度が著しく低下していると警告し、ダム建設の必要性を強調した。しかし計画は宙に浮き、その5年後に策定した県河川整備計画に盛り込まなかった。
河川政策における重要な変更に当たる。事業の見直しに関する記録を残し、県民と情報を共有すべきではなかったのか。取材に対し同課は「予備調査は、着手するかしないかの検討をするための調査。国庫補助の適用を受ける段階に至らず、中止する理由を文書に残す必要はなかった」と話す。
現在、県は奈良市・大宮通りの大宮橋付近において、不急の親水護岸工事を実施しており、上流に治水ダムを建設する根拠は乏しくなった。万葉ゆかりの河川であり、ダム建設が回避され、環境や景観から歓迎する意見は少なくないに違いない。佐保川ダムの計画を巡っては、治水を名目とした多額の投資に疑問も出ていた。
一方、国内では長らく凍結されていた大戸川ダム(滋賀県)、川辺川ダム(熊本県)など治水を主目的とするダム計画が自治体の意向により復活する事例も出てきた。流域治水のあり方は長年、論争が尽きない。まして河川法は、住民参加を重んじる改正を行っており、公文書の管理徹底に使命感がないとすれば、形式的な参加にすぎなくなる。