奈良県橿原文化会館の存続を 署名活動に2万5000筆 知事の閉館方針受け
奈良県橿原文化会館=2025年6月29日、橿原市北八木町3丁目、浅野詠子撮影
山下真奈良県知事が昨年1月、橿原市北八木町3丁目の県橿原文化会館を閉館する方針を打ち出したことに対し、存続を願う県民らの署名が2団体で計約2万5000筆集まっている。知事は、2031年の国民スポーツ大会(県内開催)に向け、県が橿原市四条町に建設するアリーナでコンサートは可能などとしている。
団体の一つは吹奏楽や合唱の担い手らでつくる「橿原文化会館存続を求める会」で約1万3000筆の署名を集めた。もう一つは観劇会を開いている「奈良演劇鑑賞会」の有志らで約1万2000筆の署名を集めた。署名はさらに増える見通し。
「存続を求める会」は7月6日午後3時30分から同文化会館大ホールで総決起集会を開き、存続への思いを県民らに訴える。賛同団体が増えており、地元の「近鉄八木駅名店街」のほか、県吹奏楽連盟、県合唱連盟、橿原市合唱協会などが集会に参加。音楽コンサートがあり、シンガーソングライターの西浦達雄さんもゲスト出演する。
山下知事は昨年1月の定例会見で、新しく造るアリーナで音楽コンサートは実施できるとし、「築40年以上経過した橿原文化会館の機能を保持するための必要最小限の改修をした場合、約22億円かかり、建て替えはしない」と述べた。
同文化会館が担っていた機能のうち、クラシックの大きなコンサートなどは、整備中の奈良市登大路町の県文化会館(国際ホール1200席)が吸収するとした。
さらに、なら歴史芸術文化村(ホール272席)、奈良公園バスターミナル(同296席)、県コンベンションセンター・天平ホール(約500席)の3ホールの活用も念頭に置いていると述べた。
これらのホールは、荒井正吾前知事の強い方針の下、矢継ぎ早に建設された箱もの施設の一部で規模も小さい。「存続を求める会」会長で指揮者の福島秀行さん(県吹奏楽連盟理事長)は「なら芸術文化村のホールはアクセスに課題。天平ホールはピアノや反響板がないために、本格的な音楽コンサートは開催しにくく、規模も中途半端。結果的に使い勝手が良いとは言いにくい小ホールを県が林立させてしまったことは、利用者の想定、あるいは利用想定者からの意見聴取が不十分であったためと考えられる」と指摘する。
このほかにも音楽関係者らから意見が出ている。日ごろ中学・高校生らが吹奏楽などのコンクールに使用する上でも、また大規模な音楽フェスティバルを行う上でも、県内最大1300席の音楽ホールのある橿原文化会館は利用しやすく、利用料金も廉価、立地も近鉄大和八木駅前で良いという。コンクール当日などには客席が足りなくなることもあり「廃止はもってのほか」という。
昨年9月の県議会定例会でも議論となった。若林かずみ議員(自民党・無所属の会)は、県立奈良高校時代に吹奏楽部の一員として活動した経験があり「(奈良市の)なら100年会館大ホールは1476席あるが、舞台部分を完全に覆う形状の音響反射板が存在せず、クラシックイベントには不向きとされ、実際にもクラシック系の貸し館利用は少ない状況にある」と指摘。「1500席以上のホールを持たないのは日本中で奈良県のみ。1300席を有する橿原文化会館を廃止すべきではない」と訴えた。
「奈良演劇鑑賞会」の有志は昨年、閉鎖反対を訴えるちらしに俳優の仲代達矢さんや栗原小巻さんらのメッセージを盛り込んだ。「存続を求める会」の福島さんは「橿原文化会館の存続署名は『存続を求める会』だけでも最低で5万筆を目指して8月いっぱい集め、知事に提出したい」と話す。
県文化振興課は「知事の方針に変わりはない。橿原文化会館の在り方を第三者の識者らで検討する予定はない」と話している。
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