平城宮跡歴史公園の体験学習館整備 識者の検討委、過去9回すべて非公開 奈良県、「委員らに圧力、不利益の恐れ」理由に
県がホームページで公開している歴史体験学習館(右手前)のデザインイメージ
奈良県が奈良市の平城宮跡歴史公園に計画している歴史体験学習館について、識者の意見を聞くため設置している整備検討委員会の会議が、過去9回すべて非公開だったことが分かった。同検討委運営要領が定める会議の原則公開は一度も果たされていない。
県のホームページで公開されている議事概要の9回すべての冒頭に「多くの利害関係者がおられることにより、委員の率直な発言に支障が生じる恐れがあるため非公開で開催」との記載がある。
県は「奈良の声」の取材に対し、「例えば、(歴史体験学習館の)校倉(あぜくら)式意匠は賛否など議論の分かれるところなので、委員個々の意見が公開されると、委員に不当な圧力がかかる可能性がある」などと非公開の理由を説明した。
歴史体験学習館は平城宮跡入り口の朱雀門正面右手に計画されている。3棟で構成され、正面の建物は正倉院を模した外観にして、正倉院宝物の複製を見たり触れたりできる施設が検討されている。県は2026年度の開館を目指す。事業費は建設費や用地買収費など合わせて約50億円が見込まれている。計画地には住宅地があり、県は立ち退き交渉を進めている。
「奈良の声」は、担当の県平城宮跡事業推進室から運営要領の提供を受けた。それによると、検討委の会議では、歴史体験学習館の機能やデザインなどについて委員から意見を聞く。会議は原則公開とし、一般の人の傍聴を認める一方、審議に支障を及ぼす恐れがあると認められるときは非公開にできるとしている。
各回会議の開催後に県ホームページの同室のページで議事概要と会議資料が公開されており、それによると、1回目の会議は2018年7月で、9回目はことし8月3日に開かれた。
議事概要にあるのは意見の概要で、意見ごとの発言者名も明らかにされていない。また、議事概要には出席委員が記載されているものの氏名のみ。委員の名簿が公開されていないため、全委員の氏名や役職名、委員長が誰なのかを確かめられない。
「奈良の声」が平城宮跡事業推進室に対し、全委員の氏名と役職名について情報提供を求めたところ、同室は応じた。それによると、委員は大学教員や行政関係者ら計12人で、委員長は増井正哉京都大学大学院教授が務めていることが分かった。
歴史体験学習館整備検討委員会が会議を非公開としてきた一方、同じ県でも奈良公園室が担当する奈良公園地区整備検討委員会は公開で開かれている。委員の名簿も県ホームページの同室のページで公開されている。
奈良公園地区整備検討委は、2019年4月に開業した奈良公園バスターミナルの整備、昨年6月に開業した高畑町裁判所跡地の宿泊施設「ふふ奈良」の誘致、吉城園周辺地区で進行中の「最高級インターナショナルブランド」のホテル誘致などを検討対象としてきた。施設の整備という点は歴史体験学習館と共通している。
県まちづくり連携推進課が2008~10年度に、平城宮跡前の大宮通りを対象に取り組んだ景観まちづくり事業で掲げたのは「住民主体」の景観まちづくりだった。しかし、歴史体験学習館整備検討委員会の委員に、計画への一番の協力者である立ち退き住民も周辺の住民もいない。住民が会議を傍聴する機会もなかった。
平城宮跡事業推進室によると、今後の検討委の会議は、11月に10回目、来年1月に11回目が予定されている。
「奈良の声」は平城宮跡事業推進室に対し、会議を非公開としてきたことについて書面で質問した。
以下に質問と回答。
質問1 非公開を最初に提案したのは誰か。委員長か、委員の誰かか、または事務局である平城宮跡事業推進室の意向か。
回答 過去の資料、当時の職員への聞き取りなどにより探したが、分からなかった。
質問2 運営要領で原則公開と定めた意味はいつ、どこで発揮されるのか。
回答 公開非公開については、審議内容とその他のさまざまな状況により判断される。
質問3 「多くの利害関係者」とは具体的にどのような人たちを指しているのか。また、「多くの利害関係者がおられること」が、どのように「委員の率直な発言に支障が生じる恐れ」につながるのか。検討委員会の検討対象は歴史体験学習館の機能やデザインなどに関することだが、これらとどう関係するのか。
回答 例えば、校倉式意匠化建物については、賛否など議論の分かれるところなので、委員個々の意見が公開されると、校倉式意匠化建物について特別に意見をお持ちの方などから委員に不当な圧力がかかる可能性がある。
また、委員会では歴史体験学習館での体験内容について議論していただいているが、導入するAIなどの最新技術やコンテンツの最新情報などにかかる資料や意見が公開されると、技術や情報を提供いただいた委員や法人などに不利益が生じる場合がある。
質問4 今後、公開へと改める考えはないか。
回答 公開非公開については、審議内容とその他のさまざまな状況により判断される。 関連記事へ