共産議員に「天皇いた平城宮跡は嫌いか」繰り返す 知事、昨年3月県議会予算委で 関連施設整備の必要性問われ
宮殿の復元や関連観光施設の整備が進む平城宮跡。正面は朱雀門、奥は建設中の第一次大極殿院南門=2021年7月2日、奈良市
昨年3月19日の奈良県議会2月定例会予算審査特別委員会(12人)で、平城宮跡(奈良市)の整備を巡って、県計画の歴史体験学習館の必要性を問うた共産党の議員に対し、荒井正吾知事が「天皇がいた平城宮跡は嫌いですか」と繰り返す一幕があった。
委員会でのやりとりは、県議会がホームページで公開している委員会会議を記録した文書と録画を確認した。
歴史体験学習館は平城宮跡入り口の朱雀門前に計画されている。3棟で構成され、正面の正倉院を模した校倉(あぜくら)式風の意匠の建物は、正倉院宝物の複製を見たり触れたりできる施設が検討されている。事業費は、建設費や用地買収費など合わせて約50億円が見込まれている。
共産党の山村幸穂議員は質問で、学習館整備には巨額の費用が掛かる上、朱雀門周辺ではすでに多くの施設が整備されているとして、「本当に必要なのか大変疑問。見直す必要があるのではないか」とただした。
答弁に立った荒井知事は冒頭、「天皇がおられた平城宮跡はお嫌いですか」と切り出した。山村議員がすぐに「何もそんなことは言っていません。全然違います」と反応すると、「推察してしまい恐縮です」と答えたが、発言はやまなかった。
「現在も現地に都の跡が残っているのは平城宮跡だけであり、こんなに値打ちのある場所は世界にもないのです」などと持論を展開した後、再び「その点については、少し意見が違うかもしれませんが、天皇家がおられたからお嫌いなのかと、勘ぐって悪いですけれども、大変失礼いたしました」と同趣旨の発言を繰り返した。
さらに「天皇が奈良におられた最後の都の跡が平城宮跡であることを、県民にもっと知ってほしいと思って仕事をしております」などと述べた後にも、「もしかしてお嫌いかもしれませんが」と前置きして、「値打ちがあるということは何度も強調したいと思います」と答弁した。
荒井知事の口調は終始やんわりとしたものだった。荒井知事のこれらの発言に対し、委員会の他の議員の間から笑いが漏れることもあった。
荒井知事は、共産党の天皇制に対する立場を暗に持ち出して、山村議員をやゆした。共産党は綱領で天皇制について「民主主義および人間の平等の原則と両立するものではなく」と述べている。
「奈良の声」は荒井知事の発言について県の見解を確かめるため、ことし4月、県ホームページの意見・提案コーナー「県政の窓」から、「天皇を好きか嫌いかは質問内容と関係なく、発言は質問者の思想信条に立ち入るもの」とする意見を投稿した。
県は先月28日、ホームページ上で4月分の意見・回答の概要を公表したが、「奈良の声」への回答はなかった。意見を取りまとめている県広報広聴課に回答がなかった理由を確認した。
同課は、すべての回答を公表しているわけではないとした上で、「意見は平城宮跡事業推進室に通知した。意見にどう対応したかの報告は求めなかった。人の態度に対するものなので、所属でも対応するのは難しいと判断した」と説明した。県平城宮跡事業推進室は取材に対し「指摘は受け止めている」と話した。
山村議員は取材に対し「共産党は憲法を順守する。憲法に位置づけられた天皇の存在を認めている。将来、議論する中で国民の総意になれば、なくしていくという立場」と述べ、「荒井知事は正面から反論せず、関係のない話を持ち出して共産党を攻撃している」と批判した。
ただ、発言に対する抗議については、「話をすり替えて攻撃するのはいつものことなので」しなかったという。
一方、委員会の委員長を務めた小泉米造議員(自民党奈良)は「2人の意見の相違はしょっちゅうで、山村議員から反論はなく、他の委員から“おかしい”という声もなかった。荒井知事は平城宮跡の整備に力を注いできた。批判されてそういう発言になったのではないか」と述べた。
「奈良の声」は、歴史体験学習館の建設に伴う住民の立ち退き問題の取材で、県議会での過去の議論を調べていて、荒井知事の発言を知った。 関連記事へ