リニア懸念の市民、回答に選択肢なし 大和郡山市の駅誘致ウェブアンケート 未入力あると参加できず
リニア中間駅誘致を掲げた大和郡山市設置のPR看板=2021年12月24日、同市北郡山町
リニア中央新幹線中間駅誘致に取り組む奈良県大和郡山市が駅候補地の選定に向け、市民らの意見を聞くためこのほど実施したアンケート調査が、駅への期待など誘致を前提にした内容だったことが分かった。回答は選択式で、リニアや駅誘致に懸念を抱く人を想定した選択肢は用意されていなかった。
市はスマートフォンやパソコンなどからの回答を呼び掛け、すべての質問について回答必須とする設定をしていたため、未回答があると入力完了とならず、該当する回答を見つけられない人はアンケートに参加できなかった。
アンケートは市が無作為抽出した市民1500人に依頼しており、さまざまな考えの人がいたと思われる。
大和郡山市民である記者の元にアンケート依頼の郵便が届いたことが取材のきっかけになった。リニアに懸念を抱く者として意見を伝えたいと考え、パソコンから回答を開始したが、該当する選択肢がないだけでなく、回答しないと入力を完了できないことに気付いた。
市企画政策課によると、市は駅誘致に向けて本年度、市内の候補地を選定する事業に取り組んでおり、アンケートはその一環。対象は市民と市内の事業者で、12月14日に市民に依頼の郵便を送ったほか、昭和工業団地協議会加盟80社弱と市商工会会員のうちの約100社に協力を求めた。1月10日まで回答を受け付けていた。
回答者には、アンケートの依頼書に記したQRコードをスマートフォンなどから読み取ってもらうか、または同様に記したURLをパソコンから入力してもらい、アンケート画面にアクセスしてもらった。インターネットを利用できる環境のない人に対しては、問い合わせがあれば回答用紙と返信用封筒を送る用意もしていたという。
質問は全部で9つ。年齢、職業、在住地域に始まり、リニア中央新幹線の開業や市内に中間駅を設置することについて「期待すること」や「課題だと考えること」、また「開業に伴い、市のまちづくり(インフラ整備など)は、どのように進めるべきか」「中間駅の候補地を検討するに当たり、最も重要だと考えること」などを尋ねている。
これに対し用意された回答は、「期待すること」を尋ねる質問であれば「観光客やビジネス客など交流人口が増え、市が活性化」「新たな企業が立地し、雇用が確保される」「東京方面や大阪方面への移動がしやすくなる」「大都市などからの移住などが増えて、定住人口が増加」など利点を挙げたものばかり6つ。リニアや駅誘致に懸念を抱く人の意見が伝わるような選択肢はなかった。
同課課長は12月21日の取材で「誘致活動の中でのアンケートであるため、こうした傾向になった。指摘は受け止める。今後、アンケートをするとすれば、きっちりと参考にさせていただく」と話した。
この新駅候補地調査検討業務は外部の業者に約299万円で委託している。
アンケートの依頼書の資料や同課の説明によると、リニア中央新幹線は奈良市付近を主要な経過地とする整備計画が決定されており、県内ではほかに奈良市と生駒市が駅の誘致活動に取り組んでいる。計画では名古屋・大阪間の開業は2037年と決定されている。
リニアを巡っては、静岡県が整備事業には賛同するとしながらも「県の北部にある南アルプスと大井川上流部の地下をトンネルで通過する計画であり、トンネル工事による環境への影響が危惧される」(同県ホームページ)として懸念を表明している。 関連記事へ