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浅野善一

奈良県香芝市 5月市長選間近、前職・現職の市政運営に停滞の判定 市検証会議の報告書 広報紙で公表 会長の議長は新人推す

奈良県香芝市長選挙投票日当日の候補者ポスターの掲示板=2024年5月19日、同市内

香芝市長選挙投票日当日の候補者ポスターの掲示板=2024年5月19日、同市内

 奈良県香芝市が設置した市政運営検証会議(会長・川田裕市議会議長)が過去10年の市政運営を検証した報告書を市広報紙などで公表したのは、このたびの市長選挙が1カ月後に迫った4月だった。報告書は、公立保育所民営化が計画通り進まなかったことを「反故(ほご)事案」と呼ぶなど、この間の市政に停滞の判定を下していた。市長選はこの間の市長だった現職、前職に新人2人が挑む形だった。

 検証会議の委員は川田議長ら市議会議員と市上層部の職員のみで、学識経験者など市や議会から独立した立場の外部委員はゼロだった。市に検証会議の設置を求め、会長として検証を主導した同議長は、市長選で新人への支持を呼び掛けた。

 5月19日に投開票が行われた市長選には、現職の市長だった福岡憲宏氏、その前の市長だった吉田弘明氏、新人の三橋和史氏と中瀬弘氏の計4人が立候補し、川田議長が支持を呼び掛けた三橋氏が当選した。

香芝市ホームページで公開されている市政運営検証会議報告書(左)と市広報紙に掲載された報告書の概要

香芝市ホームページで公開されている市政運営検証会議報告書(左)と市広報紙に掲載された報告書の概要

 報告書は前書きで、検証会議について「過去10年間(2013~22年)の市政運営の内容を検討し、課題と対応策を協議することを目的に設置された」とした。この間の市政を担ったのは、2012~20年が前市長、2020~24年が現市長であることも明示した。

 8ページにわたる報告書には、検証した5事業それぞれについて「事案の概要」「市民生活等に与えた影響」「今後の方向性」が示された。公表に当たっては、市内に全戸配布される市広報紙「広報かしば」の2024年4月号(同月22日発行)に概要が掲載され、同時に報告書全文が市ホームページで公開された。

 広報紙への掲載では、報告書について「市民生活に影響があった主な事案5つについて、経緯や原因を検証し、同じような失敗を繰り返さないために、今後どのような姿勢で市政運営に当たるべきかを話し合い、報告書を作成した」との説明を付け、5事業の検証の概要を箇条書きで列記した。

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広報紙に掲載された市政運営検証会議報告書の概要

【公立保育所民営化計画の反故事案】
第2次行政改革大綱総括報告(2010年)に基づく今後の重点取り組みとして保育所民営化が計画されていたが、十分な検討がされないまま計画が中断され財源確保に大きな影響を与えた。

【防災会議未開催事案】
防災対策の核となる「防災計画」について、計画修正の必要性を認識しながら、8年間防災会議が開催されず、防災事務の大幅な停滞となった。

【市民図書館予算上限8000万円事案】
市民1人あたり約1000円を目安とし、全事業費8000万円で図書館運営するよう見直しを行ったことにより、図書の更新が滞ることになった。

【市民プールの建設大幅遅延事案】
総合プール老朽化に伴い、スポーツ公園内にプール施設を建設し令和2(2020)年度からは供用開始する計画をしていたが、計画が大幅に遅延したため、建設予算が上振れした。

【完成度が低い学校施設等長寿命化計画(個別施設計画)策定事案】
財政計画を含め今後の児童数推計、地域分布および文部科学省補助指針等に基づく検討も不十分なまま令和2年3月に香芝市学校施設等長寿命化計画を策定したが、議会からの指摘を受け、長寿命化計画そのものを再検証し、新たに「香芝市学校施設の再編等に関する基本方針」を策定することとなった。

市政運営検証会議報告書全文(本文、検証会議設置要綱、会議録)

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 検証会議設置の発端は、2022年12月の市議会総務建設委員会の質疑。川田議長は委員の一人として質問、市の人員体制についてこの10年間に民生、教育の人員が膨らみ、一般行政事務の人員を圧迫、事務執行に支障が出ているとし、また市の行政改革大綱通りに公立保育所の民営化進んでいないことなどを挙げて検証の必要性を主張。「検証して広報に載せて。失われた10年検証委員会をつくって僕も入れて。背景に一番詳しいのは僕」と福岡市長(当時)に迫った。川田議長は2012年の市長選に立候補し、吉田氏に破れている。

 市は翌月の2023年1月、議会の議決が不要な設置要綱の制定のみで検証会議を設置した。このため設置の是非や目的、委員の構成、選任についてあらためて議会で議論する機会はなかった。要綱により委員は市議会議員と市職員とされた。市職員では堀本武史副市長、危機管理監、企画部長、総務部長が選任され、議員枠では川田議長と下村佳史議員(当時副議長)が選任された。委員による「互選」を経て、川田議長自ら会長に就任した。

 会議は非公開の上、報告書と共に公開された会議録によると、開催も2023年1月30日(会議時間40分)と同年5月18日(同1時間)の2回だけ。会議録の記述も会議の進め方が簡単に記されているだけだった。最終回の2回目の会議録は「今後、検証する案件については、所管において必要な資料などを整理することを確認」との記述で終わっている。検証期間を過去10年とした理由、検証対象の5事業はどのような検討を経て選ばれたのか、議論の中身など、検証の過程が具体的に分かるものはなかった。

 検証会議事務局の市企画政策課によると、公開した会議録が記録のすべてという。検証の客観性については「報告書は各事業の所管からの聞き取りを基にまとめたものとなっていて、それ以上でもそれ以下でもない」と説明する。

 一方、市の別の諮問機関の例では、市の総合計画や行財政改革について調査審議している市都市経営市民会議は、市付属機関設置条例に基づいて設置されており、議会の議決も経ている。7人いる委員についても、そのときの議長を充てる枠もあるが、ほかはすべて外部の委員で会長は大学教授。公開されている議事要旨には出た意見が箇条書きで列記されている。

 検証会議は公立保育所の民営化が進まなかったことを「反故事案」とした。しかし、全国では、東京都文京区が2007年、公募の区民や学識経験者、児童福祉関係者を委員とする検討委員会の報告を受けて策定した保育ビジョンで、「公設公営保育園を維持する」と明記した例もある。

 また、学校施設等長寿命化計画については「香芝市学校施設の再編等に関する基本方針」を基に進めるとした。しかし、3小学校が統廃合の対象となる同方針を巡っては、反対を訴える市民の声によって、今回の市長選の争点となり、当選した三橋氏は投票日直前のSNS「X(エックス)」への投稿で「人口が減ったからといって学校を統廃合するのではなく」と見直しを表明した。

 市企画政策課によると、報告書が当時の福岡市長に提出されたのは市長選2カ月前の3月27日。同課はこれを受けて、4月22日発行の広報紙への掲載をめどに原稿を作成、広報紙担当の秘書広報課に提出したという。

 選挙直前の報告書公表が選挙に及ぼす影響は考えなかったのか企画政策課に尋ねた。同課長は「選挙への影響について検討はしていない。報告書は(過去10年に)こうした点もあったという反省の面もある」とし、「2023年度中に結論を出したいということもあり、(年度が変わってすぐの)この時期の公表となった」と説明した。

 記者は「X」への市長選関連の投稿を点検した。川田議長は4月24日に検証会議報告書の公表を伝える投稿をした。投票日前日の5月18日には川田議長のこの投稿を引用する形で「公式に香芝市が今までの市政を検証してます。前市長からつづく市政が市に与えた損失について報告されてます」と記述し、「香芝市長選挙」のハッシュタグ(#)を付けた投稿があった。

 新聞報道によると、5月12日の選挙告示に向けた4氏の立候補表明は、福岡氏が3月6日、三橋氏が4月2日、吉田氏が4月12日、中瀬氏が4月22日だった。

 川田議長は投票日前日の「X」への投稿で「明日の投票日には、三橋かずしに清き一票を託して頂きますよう、伏して重ねてお願いを申し上げます」と三橋氏への支持を呼び掛けた。検証会議のもう1人の議員の委員、下村議員についても、選挙期間中の三橋氏の街頭演説でマイクを手に同氏への支持を呼び掛ける動画が、三橋氏の「X」のアカウントに投稿されている。

 香芝市選挙管理委員会が発表した市長選の投票結果によると、4候補の得票数は、三橋氏9215票、福岡氏8187票、吉田氏7542票、中瀬氏2021票。大きくは三橋、福岡、吉田の3氏で票を分けた。検証の対象とされた10年間の市長にも一定の支持があった。

 検証会議は当初、いつ設置されたのかや委員名、審議内容は明らかになっていなかった。「奈良の声」は昨年8月、市への開示請求で設置要綱や委員名簿、会議録を入手した。市企画政策課は当時の取材で、検証会議の性格について「懇話会のようなもの」としたが、こうした機関の設置に当たっての統一的な決まりは設けていなかった。一方、奈良県生駒市は「付属機関及び懇談会等の取り扱いに関する指針」を制定して、設置に関し公平性や透明性の確保に努めている。委員については「第三者機関としての位置付けを踏まえ市議会議員や市職員を選任しない」と定めている。

 香芝市企画政策課によると、検証会議は4月1日付で廃止された。設置の根拠となる設置要綱を同日付で廃止した。市長に報告書を提出し、役割を終えたためという。

 川田議長に対し5月21日、議会事務局を通じて文書で次の質問した。(1)報告書の公表が選挙前となったことをどのように考えるか。検証会議の会長として公表時期について市に対し、意見を述べることもできたのではないか (2)検証会議は外部委員ゼロで非公開。独立性や客観性を説明できるだけの運営体制になっていなかったのではないか。そうした中で報告書は公表できるだけの作成過程を経たものといえるか。6月3日現在、回答はない。

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