市長の方針検討する会議の会長に議会議長 奈良香芝、小学校の統廃合計画などけん引 二元代表制の立場違いあいまいに
香芝市役所=2022年10月、同市本町
議会議長が市長の意思決定に密接に関われば、議会と執行機関の立場の違いはあいまいになり、二元代表制が機能しているかどうか分かりにくくなる。奈良県香芝市では、公共施設の効率的な運用などを検討するため、市長が庁内に設置した市公有財産有効活用検討会議の会長に、議長が就任している。検討会議で決定された小学校の統廃合計画は今年3月、議会に提出され、賛成多数で可決された。
議員と市長はそれぞれ選挙で選ばれており、議会と市長の関係は対等独立。香芝市議会の責務を明らかにした市議会基本条例は、市長との関係について「二元代表制の下、常に緊張ある関係を構築し、事務の執行の監視、評価、改善を行う」「執行機関との立場、権能の違いを踏まえ、議会活動を行わなければならない」と定めている。
検討会議の活動は2023年5月初め、1人の市民が市への開示請求で会議録を入手するまで、外部にほとんど知られていなかった。「奈良の声」は、同会議録のほか、市が情報提供した検討会議の設置要綱や市ホームページで公開されている議会の会議録、解釈書の地方自治関係実例判例集、ウェブ上で閲覧可能な地方公共団体など公的機関の関連情報を調べ、市幹部や議員に取材した。
議長が提案
検討会議の設置は川田裕議長の提案だった。2022年6月8日の市議会定例会の代表質問で市に対し、学校施設長寿命化計画の問題点などを挙げて、財政面で公共施設管理計画全体の整合性が取れていないと批判、原因は縦割り行政にあるとして「プロジェクトチームを設置していただきたい」と求めた。
市企画部長は「課題解決に向け、部門横断的に仕組みづくりを強力に進めていく必要があり、プロジェクトチームを組織できればと考えている」と応じた。
川田議長は定例会最終日の6月23日、ツイッターに「学校施設改修等と市全体の施設管理計画の方針を定めるプロジェクトチームを作る事になった。これは香芝市の未来を決める重要な作業。全力を尽くす!」と投稿した。
翌月の7月7日、福岡憲宏市長は要綱を定めて公有財産有効活用検討会議を設置した。プロジェクトチームとは、特定の問題解決のために各部・課から人を集めて編成される組織。要綱は検討会議を構成する委員について、公有財産の活用または運用に関係する部局の長、市議会議員などと定め、計14人が委員に就任した。議会事務局長を除く、市の部長級職員が丸ごと構成員となった。議員枠では16人の議員のうち川田議長ら3人が委員を委嘱された。
7月15日の第1回会議で、互選により、会長には川田議長、副会長には堀本武史副市長を選んだ。扱う案件は会長、副会長に一任された。川田議長はこの日、ツイッターに「本日は、今後の会議の進め方、優先順位、調査事項等の方針を伝え承認頂いた」と投稿した。公有財産の活用に関する市長の方針が、議会を代表する立場にある議長がけん引する会議の下で検討されることになった。
案件となったのは、(1)近鉄五位堂駅前の市営駐車場土地の運用 (2)小学校の統廃合計画 (3)文化ホール「モナミホール」解体に伴う新たな文化施設の計画 (4)上水道施設の未利用地の活用―の4件。川田議長がそれまでに議会で指摘してきた問題などが取り上げられた。検討会議は2023年2月7日までに全体会議、案件ごとの分科会合わせて計6回開かれた。福岡市長は検討結果を受け、議決が必要なものは順次、議会に提案した。
市の公共施設管理計画で大きな位置を占める小学校の統廃合計画については、鎌田小を閉校にし、三和小、五位堂小に統合▽関屋小を高山台グラウンドに移転、新築し、二上小の一部を受け入れて小中一貫校を検討▽志都美小を閉校にし、旭ケ丘小に統合―などとする方針を決定、教育委員会に示した。教育委員会は2023年3月の議会定例会に「学校施設の再編に関する基本方針」を提案し、可決された。
統廃合の対象になっている小学校。左上から時計回りに志都美小、鎌田小、関屋小=いずれも2023年8月7日、香芝市
議員の間で情報格差
こうした検討の過程で検討会議委員の議員とそれ以外の議員の情報格差は著しかった。
2022年12月5日の議会定例会質疑で青木恒子議員(共産)は、提案されていた一般会計補正予算のうち財産管理費の「調査委託料530万円」について「詳しい内容を教えて」と質問した。
これに対し、総務部長は「近鉄五位堂駅北側にある市営駐車場用地の後継計画の作成に当たり、その土地に対する市場調査、民間事業者の意向調査などからどのような事業スキームが最も適しているのか、また事業者を募集するについての募集要件や基準の作成の支援を委託する業務」と説明した。
しかし、次の点は明らかにされなかった。検討会議の会議録によると、検討会議はこの定例会より前の同年11月16日の第2回会議までに、市立五位堂幼稚園、同保育所を閉園し、駐車場跡地に私立こども園を含む複合施設を建設する方針と、そのための「こども園に係る市場調査業務委託」料を12月の定例会に提案する補正予算に計上することを決めていた。検討会議委員の議員ならすでに知っている内容だった。2023年3月の定例会で提案、可決されることになる「公立幼稚園および公立保育所の再編に関する基本方針」の改定もこの時点で検討されていた。
具体的な説明を受けられなかった青木議員は「調査がその地域にとってどういうものがいいのか、住民の声も参考にしながら進めていただきたい」と要望して、質疑を終えた。補正予算案は調査委託料の核心部分の議論をできないまま、定例会最終日の12月22日、全会一致で可決された。
私立こども園を含む複合施設の建設が検討されている近鉄五位堂駅前の市営駐車場(上)と同こども園への統合が検討されている五位堂幼稚園(左下)、同保育所(右下)=いずれも2023年8月7日、香芝市
地方自治法では、執行機関は諮問のための付属機関を置くことができるとしている。ただ、構成員に議員を加えることについては「違法ではないが適当ではない」と、国は1953年1月21日、地方公共団体からの問い合わせに回答している。
全国市議会議長会都市行政問題研究会は、「『分権時代における市議会のあり方』に関する調査研究報告書」(2006年)で「議員が市長の設置する審議会等に参画することは、立法機関と執行機関との機関対立型をとる民主的な地方制度の趣旨に反する」と指摘した。
全国には、議員の付属機関委員就任を規定や要綱で制限している議会もある。京都府京丹後市議会は2009年に制定した規定で「二元代表制による議事機関としての議会と執行機関との関係を明確に分け、相互に牽制(けんせい)しながら均衡の取れた行政運営を確保するため、原則として付属機関等の委員に就任しない」と定めた。
地方自治法は付属機関について、条例によらなければ設置できないとしている。この点について、国は1953年1月16日、審議会などが職員以外の部外者を交えて構成される場合は条例で定めるべきと、地方公共団体からの問い合わせに回答している。
市は検討会議について、市付属機関設置条例を適用しなかった。企画部長は、付属機関としての位置付けが必要ではないかとの「奈良の声」の質問に対し、「検討会議は意見交換の場。市長からの諮問は受けていない。懇話会のようなもの」と述べた。また、議員を委員に加えることは執行機関、議会相互の独立性を損なうことにならないかとの質問に対しては「われわれが知らない考えをお持ちの議員も含めて話し合いをしている」と答えた。
市が条例の適用を提案すれば、検討会議の設置目的、委員構成、必要性について公開の議会で議論できた。検討会議に議員が参加することの是非も議論できた。付属機関であれば会議の公開も検討される。
人選、議会に諮らず
検討会議の議員枠の委員の人選に当たって、委嘱者の福岡市長も議会代表の川田議長も議会全体に諮っていない。検討会議が設置されたことについても説明はなかった。会議は非公開で、委員以外の議員にも公開されなかった。筒井寛議員(enjoy香芝)が検討会議の存在を知ったのは、2023年3月の定例会で小学校の統廃合計画が可決された後といい、「説明があってしかるべきだった」と述べた。
検討会議事務局の企画政策課長は取材に対し、議員枠の人選については「議会に一任した」と述べた。企画部長は「議長に助言をいただいた」と述べた。委員の一人、木下充啓議員(自民)は「議長から声を掛けていただいた。理由は聞いていない」と述べた。
もう一人の委員、眞鍋亜樹議員は第2回検討会議が開かれた2022年11月16日、ツイッターに「会議の内容はお伝え出来ませんが、疑問に思う点については、意見していこうと思います。市民の方の幸せを想うとき、未来を見通す時に、どの道を選んでいくのかは非常に重要です」と投稿した。
賛否がある小学校の統廃合計画について、大半の議員は検討の過程に加われず、検討会議が決定した計画に対する議会での採決でしか関与できなかった。採決では反対議員もいた。閉校または移転となる3校の校区住民は「地域の学校を守る会」をつくって統廃合反対を訴えている。
木下、眞鍋両議員は川田議長が主催する1期目議員の新人研修の参加者。眞鍋議員は川田議長が代表を務める会派「無所属の会」にも所属していた(現在は所属会派なし)。2023年度以降は眞鍋議員に代わって別の議員が委員を務めている。
木下議員は、議員枠の人選について「全員入れば公平性はあるが、検討の時点ではそこまで必要ないのでは」と述べた。また、検討会議は議会、執行機関相互の独立性を損なうことにならないかという点については「仕組みとしては否めないが、独立性を損なうような議論があったわけではない」とした。
検討会議の会場は、初回については市の会議室が使用されたが、2回目以降はすべて議会の委員会室だった。検討会議は市長が設置した市主催の会議。委員も大半は職員。企画政策課長は委員会室使用の理由について「議員が委員としておられるので配慮した」と述べた。
市議会基本条例は、川田議長が2021年3月の市議会議員選挙立候補時に選挙公約として掲げ、当選後の4月、市議会臨時会に提案し、可決された。
「奈良の声」は2023年7月20日、川田議長に対し、議会事務局を通じ文書で以下の点について尋ねているが、8月10日時点で返答はない。
1)議長が執行機関の方針決定と密接に関わる検討会議の会長を務めることは、市議会基本条例の考え方に反するのではないか。
2)検討会議委員の議員枠で議長をはじめ計3人の議員が委員を委嘱されているが、どのような基準で人選をしたのか。誰を委員にするのか議会全体に諮る必要があったのではないか。
3)検討会議について、市に対し、市の付属機関として条例で設置するよう求めるべきではないか。議会の関与を通じて付属機関の設置に民主的な統制を及ぼすことができる。 関連記事へ