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ジャーナリスト浅野詠子

関西広域)奈良県大淀町の近代記録フィルム文化財指定に大阪の研究者も注目 町の学芸員招き文化講座

大正、昭和初期のフィルムの保存について映像を使って解説する学芸員の松田さん=2025年1月11日、大阪市此花区西九条5丁目の「本のある工場」、浅野詠子撮影

大正、昭和初期のフィルムの保存について映像を使って解説する学芸員の松田さん=2025年1月11日、大阪市此花区西九条5丁目の「本のある工場」、浅野詠子撮影

 大正・昭和初期の奈良県吉野郡内を捉えた35ミリフィルムの大淀町文化財指定に大阪の文化政策研究者も注目している。大阪市此花区西九条5丁目、アカデミックスペース「本のある工場」(主宰、松本茂章・文化と地域デザイン研究所代表)が1月11日、フィルムの文化財指定に携わった町教育委員会学芸員の松田度さんを講師に招き、文化講座「大正昭和の日本の光景がフィルムの中でよみがえる」を開催した。

 フィルムは2021年、文化財に指定された。松本さんは講座の冒頭、開催の狙いについて「文化財といえば埋蔵文化財や神社仏閣の保存などがよく連想される。大正・昭和の記録のアーカイブに取り組む松田さんの仕事は大変貴重だが、新聞の奈良県版などにしか取り上げられていない。もっと広がってほしい」と述べた。

 松田さんはフィルムが文化財指定に至った経緯を紹介。松田さんの専門は考古学で、森浩一の最後の弟子といわれたという。「人生が変わった」というぐらいの出来事が2016年にあった。吉野熊野国立公園指定に奔走した大淀町出身の岸田日出男(1890~1959年)のひ孫から町役場に連絡があり、大ボール箱58箱分、4179点の資料について、寄贈を踏まえた相談を受けた。

 資料には珍しい動植物の標本などがあり、1939年に上北山村内の住民から譲り受けたニホンオオカミの頭骨も入っていた。また、内務省が大正時代に撮影した大峯山系や大台ケ原の映像や、十津川村の依頼で東京の技師が撮影した無声映画「瀞八丁実写」(1923年)のイカダ流しの記録などもあった。

 大淀町は、これらのうち近代の映像を文化財(ニホンオオカミの頭骨も町有形文化財・天然記念物に指定)として認識し、保存に動いた。松田さんはその業務の中心となった。これを機に奈良県立大学の水谷知生教授との共同研究により、県内の地域映像の調査や分析、上映会にも取り組んでいる。

 講座では、大正時代に大台ケ原を訪れた女学生の姿を捉えた映像なども紹介された。松田さんは「失われつつある原風景を近現代の映像を通して再構築することで、奈良を見直し、価値づけるきっかけになれば」と文化財指定の意義を語った。

 会場には、松田さんたちが取り組む映像記録保存の世界を知ろうと、遠く静岡県からも参加者が訪れ、同志社大学名誉教授の新川達郎さん(京都市民)や帝塚山大学名誉教授の中川幾郎さん(大阪府豊中市民)の姿もあった。

 会場の「本のある工場」は、読売新聞記者を経て大学教授になった松本さんが定年退職後、父ゆかりの築55年の工場の内部を、当時の雰囲気を残したまま2022年に改装したもの。文化講座は今回で14回目。参加者が相互に交流することを大切にし、毎回定員を20人程度にしている。

右手前の工場から3軒目が文化講座を開いた「本のある工場」=2025年1月11日、大阪市此花区西九条5丁目、浅野詠子撮影

右手前の工場から3軒目が文化講座を開いた「本のある工場」=2025年1月11日、大阪市此花区西九条5丁目、浅野詠子撮影

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