記者クラブと小さなメディア)奈良市「市長コメントはクラブ以外に提供できない」 土地開発公社めぐる訴訟の判決取材に
今月26日、奈良市土地開発公社(2013年3月解散)の市西ふれあい広場用地取得をめぐる住民訴訟の判決を受けて、「奈良の声」が市に仲川元庸市長のコメントを求めたところ、市は「奈良市政記者クラブ以外には提供できない」として応じようとしなかった。なぜ、記者クラブを通じての公表にこだわるのか、市の対応に合点がいかなかった。
訴訟は、市市民オンブズマンが仲川市長を相手取って起こしたもので、奈良地裁は判決で住民の請求を棄却した。市広報広聴課は「奈良の声」の求めに応じられない理由について、「市長コメントは市政記者クラブに向けて提供するもので、それ以外には提供できない」と説明した。
「奈良の声」は一市民が個人で運営する小さなニュースメディアだが、市土地開発公社の塩漬け土地をめぐる疑惑、とりわけ西ふれあい広場については、裁判の展開を追うだけでなく、独自の取材に基づいて埋もれていた事実を発掘してきた。コメントの提供を記者クラブに限定することに道理があるとは考えにくく、引き下がることはできなかった。市に対し、強くコメントの提供を求めた。
市広報広聴課は最終的に「コメントを提供する」とした。しかし、同課の説明では、市ホームページに掲載するタイミングに合わせ提供するとのことだった。一般市民へのお知らせと同時に提供するという趣旨だった。記者クラブ以外には提供できないという、市の当初の考え方に変わりはなかった。
この日、判決言い渡しは午後1時10分。夕方の段階では、コメントは出来上がっていないとの説明だった。「奈良の声」にファクシミリでコメントの送信があったのは午後10時ごろ。市のホームページに掲載されたのは翌27日だった。
新聞各紙には載らず
市長コメントの内容は「現時点では判決の詳細を把握していないが、原告の請求が棄却されたと聞いており、一定の司法判断があったものと理解している。今後も引き続き市政改革に努めてまいりたいと考えている」というものだった。「奈良の声」はコメントを含む記事を判決のあった26日中に掲載した。一方、翌27日、奈良、朝日、産経、毎日、読売の新聞各紙の朝刊には判決を伝える記事が載ったが、市長のコメントはいずれの新聞にもなかった。
市は、市第4次総合計画後期基本計画(2016~20年度の5年間)の第7章「基本構想の推進」で、「市政情報の発信・共有」を挙げ、「しみんだよりやホームページなど多様な広報手段を利用して市政情報を発信する」と掲げている。市長コメントを効果的に市民に周知するのであれば、取り得るすべての手段を選択すべきだ。
新聞協会見解「記者クラブは開かれた存在であるべき」
記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解によると、「記者クラブは、公的機関などを継続的に取材するジャーナリストたちによって構成される『取材・報道のための自主的な組織』」で、「日本新聞協会加盟社とこれに準ずる報道機関から派遣された記者などで構成され」る。「日本新聞協会には国内の新聞社・通信社・放送局の多くが加わって」いる。
同見解は、「記者クラブは、『開かれた存在』であるべき」と述べている。「記者会見参加者をクラブの構成員に一律に限定するのは適当では」ないとし、「より開かれた会見を、それぞれの記者クラブの実情に合わせて追求していくべき」「公的機関が主催する会見は、当然のことながら、報道に携わる者すべてに開かれたものであるべき」としている。