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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一
浅野善一

奈良市西ふれあい広場住民訴訟、市長表明の問題解明に「全面的協力」は実行されたのか 判決4月26日に

 奈良市の西ふれあい広場計画で市土地開発公社(2013年3月解散)に不必要な土地を高額で先行取得させたのは違法として、市を相手取り、当時の大川靖則・元市長らに損害賠償請求するよう求めた住民訴訟が結審、判決が4月26日、奈良地裁で言い渡される。仲川元庸市長は、裁判による問題解明に「行政として全面的に協力したい」と表明していた。「奈良の声」は判決を前に、仲川市長の「協力」はどう実行されたのかなどについて、市の「市長への手紙」コーナーを通じて質問した。

 26日までに、「審理を尽くすことで真相究明に協力した。真実を明らかにすることは市としても望むところ」などとする市長名の回答(記事の最後に全文)があった。

「市長のへの手紙」コーナー通じ質問

 記者は質問に当たって、定例市長会見への参加や個別のインタビューを通じて、仲川市長に直接、尋ねたいと市に希望したが、認められなかった。市政記者クラブに加盟していない個人のニュースメディアについては、要望を受けかねるとした。市は、市民向けに開設している「市長への手紙」コーナーを案内してきた。

 仲川市長の「協力」表明があったのは、2013年7月の市長選の折、市民団体主催の立候補予定者公開討論会のとき。

 別の立候補予定者が仲川市長に対し、「一部の人物がぼろもうけをして、その付けを市民が払わなければならない。徹底的に責任を追及し、少しでも金を回収すべきだが、住民が訴訟を起こさないと裁判にならない。現職市長としてどう考えているのか」と問うた。市長は「公社の問題は市の歴史に残る失政。市土地開発公社経営検討委員会で調査したが、行政の調査では限界がある。司法で徹底的に議論していただき、(原因を)オープンにしてもらえれば」と答え、「全面的な協力」を明言した。

 市長選は提訴の直後だった。仲川市長は同選挙で2期目の当選を果たした。市は裁判では、住民の請求の棄却を求めている。「奈良の声」は、市長が具体的にどのような「協力」をしたのか尋ねた。

「審理尽くすことで協力」

 市の回答は、公社の土地取得をめぐる法的責任追及について、「検討委の(2011年3月の)報告書において、土地取得からかなりの時間が経過していること、聞き取り調査関係者の供述は非公表を前提に得られたことなどの理由により困難とされている」と釈明。

 その上で、仲川市長が表明した「協力」について、「住民訴訟を機会に、司法の場で法的責任の有無について判断をいただくべく、原告・被告ともお互いに審理を尽くすことが裁判所の機能であり、行政として真相究明に協力したことになると考え、裁判に臨んできた」と述べた。

市検討委指摘の疑惑、裁判では認めず

 もう1点、市土地開発公社経営検討委員会が報告書で指摘した疑惑について、市が裁判では認めなかったことについて質問した。

 検討委は、公社のそれまでの運営内容を精査し、存続の是非を問うため、市が設置した第三者委員会。報告書は公社の土地取得をめぐる数々の疑惑を指摘した。西ふれあい広場についても、「必要性がない土地について、高額な取得価額をもって、特定の個人の便宜を図る趣旨で取得したのではないかという点が問題になっている」とし、取得に当たっては市議の「圧力があったことが推察される」と述べている。

 原告住民は、報告書で同土地取得の違法性を認識し、これを根拠の一つに訴訟を起こした。しかし、市は裁判では、大川元市長が公社に買収を委託した土地が1筆を除いて特定の一族所有の土地であったとしても、それは事業計画に従っただけのことで、一族所有の土地買い上げを目的としたものではないとし、買収価額も適正であったと主張。報告書の信用性について、争う姿勢を貫いている。

 市が公表した報告書の信用性について、市民はどう受け止めたらよいのか。裁判での市の主張が報告書と食い違う理由を尋ねた。

「真実明らかに、市も望むところ」

 市の回答は、「食い違いが生じているということではなく、真実を明らかにすることは市としても望むところであり、そのためにも弁論を尽くし、責任を果たすことが市の役割であると考えている」と述べた。

 裁判は2013年6月の提訴から結審までおよそ2年半に及んだが、この間、市から真相究明につながる事実が明らかにされることはなかったといえる。一方、地裁は、土地の取得価格が適正だったかどうかを判断するため、不動産鑑定を実施したが、高額の鑑定費用は、鑑定実施を申し出た原告住民が負担した。

原告住民「腹が立つ」

 訴訟を起こした市市民オンブズマンの1人、白川忠志さん(71)は、市が裁判で報告書指摘の疑惑を認めなかったことなどについて、「報告書は、土地開発公社解散について市議会を通すためだったのか。ものすごく腹が立つ」と話している。

 判決言い渡しは当初、2月25日予定されていたが、4月26日午後1時10分に延期された。

 訴えなどによると、西ふれあい広場計画は、地元の地主が1991年、障害者福祉のためにと市に寄付した同市二名7丁目の山林内の土地約2000平方メートルが発端となった。土地に進入路がなかったことから、周辺の土地を買い足して公園にする計画に発展したが、周辺の土地も大半がこの地主一族の所有だったため、94~2000年、一族の土地を中心に、山林など計約4万8000平方メートルを約18億円で取得する結果になった。しかし、計画は頓挫し、土地は塩漬けとなった。

 裁判で市は、大川元市長らは広場建設実現のため、土地の取得を公社に委託したもので、大川元市長らに裁量権の逸脱乱用はないなどと主張している。

 土地開発公社をめぐる問題では、奈良市の報告書は県内他自治体の同様の報告書に比べると、取得をめぐる疑惑まで踏み込んだ内容になっている。また、公社解散前に、取得土地の取得先の住所・氏名、取得額の公表に踏み切ったという側面もある。しかし、報告書が指摘した疑惑について、経緯の解明、関係者への責任追及、損害賠償請求には至っていないのが実情。

「市長への手紙」の回答の全文

平成28年2月18日
ニュース「奈良の声」
浅野 善一様
奈良市長仲川げん

「市長への手紙」への回答について

 この度は、「市長への手紙」をいただきましてありがとうございます。

 さて、お問い合わせの西ふれあい広場建設事業に係る住民訴訟への対応についてでございますが、土地開発公社経営検討委員会の報告書において、土地取得からかなりの時間が経過していること、聞き取り調査関係者の供述は非公表を前提に得られたことなどの理由により法的責任の追及は困難とされているところでございます。

 一方で、この度の住民訴訟を機会に、当時の土地取得に際しての真実を明らかにするとともに、司法の場で法的責任の有無について公平・公正な判断をいただくべく、原告・被告ともお互いに審理を尽くすことが裁判所の機能であり、行政として真相究明に協力したことになると考え、今回の裁判に臨んできたところでございます。

 従いまして、裁判での主張と報告書の関係について、食い違いが生じているということではなく、真実を明らかにすることは市としても望むところであり、そのためにも弁論を尽くし、責任を果たすことが市の役割であると考えております。【続報へ】

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