奈良市西ふれあい広場訴訟 地裁、住民の請求棄却 「不必要な土地、高額取得」の主張認めず
奈良市の西ふれあい広場計画で市土地開発公社(2013年3月解散)に不必要な土地を高額で先行取得させたのは違法として、市を相手取り、当時の大川靖則・元市長らに損害賠償請求するよう求めた住民訴訟の判決が26日、奈良地裁で言い渡された。木太伸広裁判長は、土地の取得について違法とは認められないとして、原告の請求を棄却した。
原告は、土地の取得目的は個人的なもので計画は見せかけにすぎないとした主張したが、「事実を認めるに足りる証拠はない」と退けた。土地の買い取り価格については、地裁が実施した鑑定の評価額より最大51%高かったが、「社会通念に照らして許容できる範囲内」との判断を示した。
原告は市内の桐山幸矩さん(79)ら市市民オンブズマンの4人。代理人の石川量堂弁護士は判決に対し、「使用目的がない土地を取得したことは明らかなのに、その主張が認められなかったのは遺憾。控訴して争いたい」と述べた。
公社の土地取得をめぐっては、市が設置した第三者機関「市土地開発公社経営検討委員会」が、問題点が象徴的に現れている5件を調査、2011年の報告書でそれぞれ疑惑を指摘した。西ふれあい広場計画はそのうちの1件で、今のところ住民訴訟になった唯一の事例とみられる。市は公社解散に伴い、塩漬け土地の借金約173億円を肩代わり、13年度から毎年約10億円ずつ返済している。返済には20年掛かる。
訴えなどによると、西ふれあい広場計画は、地元の地主が1991年、障害者福祉のためにと市に寄付した同市二名7丁目の山林内の土地約2000平方メートルが発端となった。土地に進入路がなかったことから、周辺の土地を買い足して公園にする計画に発展したが、周辺の土地も大半がこの地主一族の所有だったため、公社は94~2000年、一族の土地を中心に、山林など計約4万8000平方メートルを約18億円で取得する結果になった。
しかし、計画は頓挫し、土地は塩漬けとなった。市は公社解散に当たり、利息を合わせた土地取得の借金約21億5503万円を肩代わりして返済した。大川元市長らは市に同金額の損害を与えたとしている。
原告は、土地の取得について、所有者の相続税負担軽減や事業救済という個人的な目的を図るためだったと主張していた。
これに対し判決は、計画案が実際に作成されていた点などを捉え、「その用地として本件土地を確保する必要があった」と認定した。検討委員会の報告書で指摘された、個人的目的や市議の口利きについては、「内容はあいまいで、裏付けとなる的確な証拠もなく、容易に採用できない」として認めなかった。
また、原告は、地裁が実施した土地の鑑定について、市街化調整区域の山林や田という利用価値の乏しい土地を買い手市場ではなく、売り手市場を前提に評価したのは妥当性に欠けると指摘。買い取り価格が鑑定の評価額より最大で51%、平均で33%高かったことについても相当性を欠くと主張していた。
これに対し判決は、売り手市場を前提にした評価について「鑑定の信用性は左右されない」と述べ、買い取り価格と鑑定の評価額の差については「必ずしも小さいものということはできないものの、ただちに買い取り価格の相当性を失わせるものとは解せない」とした。
その上で判決は、「大川元市長の判断が裁量権の範囲を逸脱し、またはこれを乱用するものと評価することはできず、地方自治法や地方財政法に違反するものということはできない」との判断を示した。地方自治法などでは、地方公共団体は最小の経費で最大の効果を挙げなければならないと定めている。
原告代理人「市報告書否定した市の主張に裁判所追随」
石川弁護士は「市長も検討委員会の報告書の内容を尊重する旨の談話を出しているにもかかわらず、市が報告書の内容を否定する主張を行い、裁判所がそれに追随したことも納得できない。裁判では、裁判所の鑑定によって出された鑑定価格よりも、最大で50%を超える価格で売買されたことが明らかになり、取得価格について不当性が明らかになったにもかかわらず、裁判所がこれを認めなかったことは非常に残念」と話した。
仲川元庸市長「一定の司法判断あったものと理解」
市は判決を受け、26日、次のような仲川元庸市長のコメントを出した。
「現時点では判決の詳細を把握していないが、原告の請求が棄却されたと聞いており、一定の司法判断があったものと理解している。今後も引き続き市政改革に努めてまいりたいと考えている」【続報へ】