「起訴された方が良かったくらい」 医療観察法の入院者に聞き取り、兵庫の市民団体が刊行 専用病棟完成した県にも波紋
殺人や放火などの重大事件を起こし、心神喪失や心神耗弱が理由で不起訴や無罪になった人を強制的に入院させる医療観察法の専用病棟で、2年5カ月もの間、入院生活を送った若者に聞き取り調査をした貴重な記録「保安病棟からの生還~人生を返せ」を兵庫県尼崎市内の市民団体が刊行した。全治2週間の軽微な傷害事件を起こした障害者に対し、こうした長期の拘束がなぜ可能なのか、制度の矛盾を浮き彫りにしている。近畿初の専用病棟が大和郡山市内に完成し、国は「手厚い医療」を強調する中、県内でも反響を集めそうだ。
入院者の聞き取りは、尼崎市立花町4丁目の「保安処分病棟に反対する有志連絡会」(高見元博代表)メンバーが取り組み、刊行した。入院を経験した若い男性から寄せられた苦情がきっかけとなり、今年2月、3日間にわたり計約6時間の聞き取りを行った。初回の聞き取りには医師も同行し、心を開いた男性が病棟の様子について記憶の限り語り、日記の一部も開示した。
男性は2005年の同法施行後、心神耗弱などの状態にあるときに人を殴って2週間のけがを負わせてしまい、警察官に保護された後、精神科病院に約2カ月間入院。退院後、検察官の申し立てと地裁裁判官の合議による審判の結果、医療観察病棟への入院処分を受けた。当時、被害者とは示談も成立し、退院して体調も戻り、普通の生活を送っていた矢先の出来事だという。
この処分により、厳重に施錠された急性期病棟に送られ、「内省プログラム」の実施を強いられた男性。事件当時は心神耗弱などの病状ゆえに起訴されなかったのに対し、病棟の臨床心理士からは「どういう要因があって事件を起こし、どうすれば事件を起こさないか」などの命題が与えられ、患者らの前で発表することが課せられた。入院者たちは早く退院したいばかりに、自分の評価をしきりに気にするようになり、「ストレスがたまる」と男性。数度の自殺未遂を図るほど、追い込まれてしまったという。
退院後も監視は解かれず、社会復帰調整官が決めた病院への3年の通院を余儀なくされる。聞き取りには、こうある。「ふつうの傷害っていうことで罰則受けて、刑務所でも何でも刑を受けて、その方が全然あとくされなくて、今みたいなまわりのスタッフの監視とか気にしなくて生活できる、そっちの方がよかったんじゃないかなって思いますよね」。
こうした点において医療観察法の運用は、地域で普通に暮らしたいと願う精神障害者の自由な意思とは反対の方向を向くことになる。厚生労働省は、充実した医療や社会復帰の促進など制度の利点をホームページで紹介している。民主党は野党時代、同法案に強く反対していた。
高見さんは「心身喪失で事件を起こした人に刑法では罪を問えないことに対し、あえて罰を与えるために、それを医療だと言いくるめてしまうのは疑問。収容された障害者は早く出たいために、いい子でいようとし、しんどいこともしんどいと言えない。それは病気を治すことにはならないし、社会復帰を遅らせるだけだ」と話している。
記録は62ページ、400円(送料込み)。希望者は郵便振替00960-1-140519で。名義は共生舎。問い合わせは高見さん、電話090(3054)0947。