高い金利の一方でそれに伴う不確実さも指摘されている仕組債や仕組預金を、奈良県が出資する外郭団体の県暴力団追放県民センターと旧なら・シルクロード博記念国際交流財団が基本財産の運用で導入していたことが「奈良の声」の調べで分かった。
暴追センターは5億円超を仕組債などで、旧シ財団はことし3月31日の解散まで8億円超を仕組預金とも呼ばれる特約付き大口定期預金で運用していた。これまでの取材で明日香村、県市町村総合事務組合、県市町村振興協会の仕組債保有が分かっており、県内でこれらの金融商品を導入していた地方公共団体や外郭団体は少なくとも5団体になった。
取材では、県が出資する外郭団体23団体(うち3団体はことし3月31日に解散)の決算書の財産目録を確認するなどした。さらに、仕組債や仕組預金の導入が分かった暴追センターとシ財団清算人に関連する文書を開示請求した。
◇県暴力団追放県民センター
暴追センターは暴力団対策の相談事業を行う公益財団法人で、基本財産7億6851万円の運用益が収入の柱。うち5億3400万円を仕組債などで運用している。円建て外債を中心に6銘柄(ことし3月31日現在)を保有、リパッケージ債、クレジット・リンク債、期限前償還条項付き無担保社債(劣後特約付き)などと呼ばれるもので、満期は多くが5年まで。現在保有している債券の金利は3%を切るが、直前には4.5%、3.5%といったものもあった。残る基本財産で保有している国債の金利1―1.5%に比べるとかなり高い。
保有仕組債の一つ、リパッケージ債は、外債の元利金を円に交換する通貨スワップを取り入れたもの。こうした債券は、さまざまな金融取引の手法を取り入れて高い金利を期待できるようにしているが、それに伴い不確実さも増す。
県監査委員は、県の財政的援助団体に対する2010年度の監査で、センターが当時保有していた30年満期の1億円の仕組債に対し、「仕組債は為替の変動などで金利が低下したり、中途換金で元本が保証されないなどのリスクが伴っている」と検討の必要性を指摘した。同仕組債はまもなく期限前償還となったため、これを機に特に長期の仕組債の運用はやめた。
同センターの今西一喜・事務局長は仕組債を利用する理由について、「公益性を鑑みると低いリスクで止めておくことが大切と認識している。しかし、低金利の環境では定期預金、国債、地方債だけで公益事業を永続していくことは不可能。従って一定のリスクをとって、収益を得ることも事務局、理事会の責務である。逆に活動資金が賄えない状況に陥った場合、公益財団としての存続意義が問われることになり、県民の期待に応えられなくなる」と説明する。
センターの運営には年間1200―1300万円が必要という。これに対し、基本財産全体の運用益は年間約1500万円。今西事務局長は「金利のより高い仕組債もあるが、それに伴いリスクも高まる。費用を賄えるぎりぎりのところで金利を選択している」とする。
◇旧なら・シルクロード博記念国際交流財団
旧シ財団は国際文化交流事業などが目的の財団法人で、基本財産20億1088万円の運用益で事業を行っていた。2011年度の時点で計8億1000万円を4件の特約付き大口定期預金で運用していた。08年度にはさらに多い9億6000万円を運用していた。
4件のうちの一つ、銀行解約選択権特約付きリバースフローター型定期預金は、初回の利払い日の金利が0.75%と高く設定されていて、2回目以降の利率は短期金利に連動して上下、短期金利が一定の数値を超えると下限の0.1%まで低下する。2012年度の実績は0.49%だった。他に金利が1.16%とさらに高い預金もあった。
特約付き大口定期は、通常の定期預金に比べ高い金利が期待できるが、解約、継続の選択権が銀行側にあるうえ、預金者側が中途解約をした場合、清算金により元本割れする恐れもある。財団解散時、契約中の預金は解約したが、元本割れはなかった。
同財団の清算人によると、旧財団の基本財産運用方針では、不透明な経済環境、超低金利の状況下で長期の運用は好ましくないとして、短中期では大口定期などを活用、長期の県債、金融債、貸付信託などでは期間を最長5年と決めていたという。特約付き大口定期については「中途解約の可能性についても十分考慮し、特に財団のあり方が本格的に検討され始めて以降は、満期後速やかに定期預金に移行するなどした」とした。
◇明日香村
――仕組債5億 円高で連動の金利下限の0.1%
総務省が2009年5月に全国の自治体を対象に実施した調査で、県内では明日香村が5億円の仕組債を保有していることが分かった。
村によると、村特別措置法に基づく村整備基金32億円の一部。3銘柄あり、いずれも円建て外債で満期は30年。2007年から08年にかけて買った。満期が長いため金利も高い。特に1年目は銘柄別にそれぞれ6.5%、5%、3.75%と高く設定されているのが特徴。2年目以降はいずれも米ドルに対する円相場に連動して変わる。円高になると不利で、2010年度以降は下限の0.1%の状態が続いている。円が82―85円まで円安になれば国債並みの金利が付くという。時価評価すると2割減の約4億円という。
基金全体の運用益は年間3000―4000万円。村の脇田康弘・企画政策課長は「最近の低金利では事業ができない。少しでも運用益を上げたい。仕組債を購入して5年になるが、最初の6.5%の金利によって、平均すれば年1%以上の金利を確保。現在の国債の0.8%を上回っている。長い目で見れば回復の見込みがある。最低でも国債並みの金利が期待できる」としている。
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仕組債の満期前売却により20億円が消失した県市町村総合事務組合は、退職手当基金と市町村会館管理基金を合わせ最大で77億円の仕組債を保有していた。同組合とは別団体になるが、組合が事務局業務を行っている県市町村振興協会は基金で約11億円の仕組債を保有。4億円は期限前償還となったが、7億円は金利がゼロのまま塩漬け状態となっている。