県庁舎の観光拠点化、手法にきわどさ 市街化調整区域レストラン・コンビニ・カフェ、名目は職員の福利厚生施設
県庁に設置されたコンビニ。通りから直接出入りでき、年中無休。名目は職員の福利厚生施設=2015年7月15日、奈良市登大路町
許可に関わる文書 | 2013年3月15日付事務連絡「県庁舎に設置するレストラン・カフェ等の建築基準法上の取り扱いについて」(照会) | 福利厚生施設 | 奈良市は建物について、「用途変更に該当せず」と回答 | 建築確認や開発許可が不要に |
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実際に整備を進めるため作成した文書 | ・2012年6月県庁観光拠点空間づくり基本計画策定業務の業務説明書 ・2013年度コンビニ出店者公募要領 |
観光拠点 | 用途変更に該当するとみられる | 建築確認や開発許可が必要 |
県奈良公園室が奈良市建築主事に提出した2013年3月15日付事務連絡文書
(赤字は「奈良の声」)
県庁舎に設置するレストラン・カフェ等の建築基準法上の取り扱いについて(照会)
奈良県では、県庁舎を改修し、レストラン・カフェ等の設置を計画しています。つきましてはこのことについて、建築基準法上の取り扱いがどのようになるかご教示いただきたく、照会します。
計画概要
- 県庁舎本棟6階にある食堂及び事務室の一部を改修し、レストラン・カフェを設置
- 県庁舎内にある売店を撤去し、県庁舎東棟1階の県民ホールを改修し、コンビニ・カフェを設置
施設利用等について
- 改修後の施設は、主に、職員が利用する福利厚生施設である
- 平日・休日とも、警察職員や水防対応職員など緊急時に対応する職員がいるため、やむを得ず、閉庁時間や休日も開放する
- 来庁者等も利用を拒むことができない
- 運営は民間が行うが、建物管理は奈良県が行う
対象施設 | 評価項目 | 評価の着目点(判断基準) | 小計(点) |
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施設全体(30点) | 出店料率 | 出店料率が最高である者を10点とし、2番手を8点、3番手を6点とし、4番手を4点とし、それ以降を1点差で評価し、最低0点とする | 10 |
コンセプト・店舗計画 | 施設全体が奈良公園の観光交流拠点としてふさわしい | 5 | |
魅力ある店舗づくりに配慮されている | 5 | ||
店舗運営 | 施設全体に対する従業員の配置体制が優れている | 5 | |
観光客へのもてなしに配慮した従業員の教育・訓練の取り組みが評価できる | 5 | ||
施設全体もしくはコンピニ、カフェの各施設(30点) | 観光 | 観光交流拠点として観光案内等の取り組みが具体的でかつ実現性が高い | 5 |
観光交流拠点として観光案内等の取り組みが効果的で観光面への寄与が大きい | 5 | ||
防災・防犯 | 県庁舎内の施設であることを踏まえた防災・防犯面の取り組みが具体的でかつ実現性が高い | 5 | |
県庁舎内の施設であることを踏まえた防災・防犯面の取り組みが継続的な実施に向けた体制が整っている | 5 | ||
環境・衛生 | 来訪者へのおもてなしに配慮した環境・衛生面での取り組みが具体的でかつ実現性が高い | 5 | |
来訪者へのおもてなしに配慮した環境・術生面での取り組みが継続的な実施に向けた体制が整っている | 5 | ||
コンビニ(20点) | 地場産品 | コンビニ内に販売コーナーを設けるなど県内の地場産品の販売が見込める | 5 |
県内の地場産品の効果的なPRが可能である | 5 | ||
店舗実績 | 県内出店数が最多である者を10点とし、2番手を8点、3番手を6点とし、4番手を4点とし、それ以降を1点差で評価し、最低0点とする | 10 | |
カフェ(20点) | 商品 | 提供する商品構成が施設全体のコンセプトに整合するなど特徴的である | 5 |
提供する商品がリーズナブルで魅力的である | 5 | ||
店舗実績 | 利用者にとって魅力あるカフェの継続的な運営実績がある | 10 |
奈良市の奈良公園に隣接する奈良県庁。その立地を生かそうと県が進める県庁舎の観光拠点化は、手法にきわどさが見え隠れする。これまでにカフェを併設したコンビニエンスストアを設置、続いてレストランの工事に取り掛かろうとしているが、名目はいずれも職員の福利厚生施設の改修。県庁は市街化調整区域にあり、一般客対象の店舗を名目にすれば、設置は困難が予想される。県は知恵を絞ったかもしれないが、県民は行政による開発許可の判断が不安定なものにならないか、影響を心配しなければならない。【続報「職員食堂改修、観光拠点レストラン掲げず」】
問題は、2014年3月の県庁内コンビニの開店で顕在化した。出店したのはセブン-イレブン。国道369号の通りから直接出入りでき、年中無休。休日は奈良公園などを訪れる観光客でにぎわう。こうした実態に対し、同年11月、奈良市議会建設企業委員会で議員から「一般のコンビニとして立地審査を行うべき」との指摘があり、市も都市計画法に抵触する恐れがあると見解を述べた。
ことし6月30日の県議会6月定例会一般質問では、 宮本次郎議員(共産)が「職員の福利厚生施設で閉庁日の営業や酒、土産の販売は疑問」と県にただした。金剛一智まちづくり推進局長は「もともとあった職員の福利厚生施設の売店をリニューアルした。奈良市の了承を得ている。市に示した通り営業している」と答えた。酒や土産は、職員のニーズに応えるべく品ぞろえを豊富にした結果だと説明した。
異なる目的、許可に関わる文書と整備進めるための文書
レストラン・コンビニ・カフェの設置に関する県と奈良市の協議の内容は、県奈良公園室発、奈良市建築主事あての13年3月15日付事務連絡「県庁舎に設置するレストラン・カフェ等の建築基準法上の取り扱いについて(照会)」と、市の同月18日付回答で確認できる。「奈良の声」は県への開示請求で入手した。
それによると県の計画は2つで、1つは「県庁舎本棟6階にある食堂及び事務室の一部を改修し、レストラン・カフェを設置」、もう1つは「県庁舎内にある売店を撤去し、県庁舎東棟1階の県民ホールを改修し、コンビニ・カフェを設置」。いずれも「改修後の施設は、主に、職員が利用する福利厚生施設である」とし、同法律上の取り扱いがどのようになるか教示を求めた。
開発許可が不要に
奈良市は、県の説明通りレストランやコンビニを県庁内の一施設と了解し、「県庁舎の福利厚生施設と考えられることから(建物の)用途変更には該当しない」と回答した。県はこれで建築確認や都市計画法の開発許可なしで整備に着手できた。
県は同時に、県庁の観光拠点化を打ち上げていた。「県庁観光拠点空間づくり基本計画策定業務」の委託業者を募るため12年6月、業務説明書を公表した。県庁6階のレストランや県民ホールのコンビニ・カフェの整備を想定したものであることが説明されていた。
基本計画策定の目的は、奈良公園基本戦略が「奈良公園のゲートウエーとなる県庁舎などでの飲食・物販機能を強化させ、周遊環境を向上させる」と掲げていることを踏まえ、「県庁内に観光に必要な機能を付加し、観光拠点とすることで、県庁自体の魅力を向上させる」こととした。
13年に公表されたコンビニ出店者公募要領で、コンセプト・店舗計画について応募者に求められた提案は、「奈良公園の観光交流拠点としてふさわしい」だった。レストランについては、県の奈良公園地区整備検討委員会の14年2月第7回会議で配布された資料では、「県庁舎6階からの眺望を生かしたレストランやカフェを整備」とした。予想平面図には「生駒山・夜景」などの説明書きがある。
奈良市開発指導課によると、レストランやコンビニが一般客対象であれば、店舗部分は建築基準法上、異種用途区画に該当し、建築確認が必要。シャッターや防火扉で区切るなど独立した構造にしなければならない。
加えて、県庁は都市計画法の市街化調整区域にあることから、区画の用途変更に伴って、店舗については開発許可の審査基準も満たさなければならない。日常生活に必要な店舗であれば、市街化区域から500メートル以上離れているかどうかなどが、運転者の休憩所機能を備えたコンビニであれば、駐車場を設置しているかどうかなどが条件になるとみられる。
奈良市「説明あれば同じ回答出せないと思う」
市開発指導課の中原達雄課長は「コンビニの今の実態を見る限り、この通り(観光交流拠点を掲げた出店者公募要領)なのだと印象を受ける」と述べ、県から市への照会当時、要領にあるような説明があったら、「これ(『用途変更に該当せず』との回答)は出せないと思う」とする。レストランについても「一般向けであれば問題が出てくる。コンビニ同様、話をさせてもらわなければならない」とする。レストランは14年度中に基本設計と実施設計を終える予定だったが、終了したのは基本設計までで、工事費用もこれまでのところ県の15年度予算には計上されていない。
県奈良公園室はしばしば、福利厚生施設の明確な定義はないとする。しかし、職員の福利厚生施設と観光客のための観光拠点施設を、同一の目的ととらえるのは困難だ。実際、県が奈良市に提出した許可に関わる照会の事務連絡文書は、レストランやコンビニが観光拠点化のための施設であることに触れていない。
県、観光拠点は「付加的な機能」
コンビニやレストランの目的について、県が実際に整備を進めるために作成したコンビニ出店者公募要領や「県庁観光拠点空間づくり基本計画策定業務」の業務説明書では「観光拠点」としたのに対し、許可に関わる奈良市への照会文書では「福利厚生施設」としたのはなぜか、こうした分かりにくさは県行政への信頼の喪失につながらないか、県奈良公園室に聞いた。
回答は7月31日、文書であった。同室は「リニューアルする売店は、福利厚生施設としての充実を図ることを前提に、付加的な機能として来庁者にも喜んでもらえるようサービス向上を目指した。県庁が奈良公園に隣接していることもあり、売店やトイレを来庁者にも利用してもらおうと、奈良公園基本戦略に位置づけた。公募などの資料の記載は、付加的な機能を強調した表現になっているが、福利厚生施設であることを否定しているものではない。奈良市への照会文書にも『来庁者等の利用を拒むことはできない』と記載しており、奈良市からはこのことも含め、『福利厚生施設と考えられる』との回答をもらっている」とした。【下に回答全文】
コンビニの在り方については、県と奈良市の間で協議が継続している。
県奈良公園室の回答全文
県庁舎東棟内に整備したコンビニ・カフェは、もともと県庁舎にあった福利厚生施設としての売店のリニューアルとして整備したものです。
そして、その主たる利用者は、リニューアルの前も後も職員であることに変わりはありません。
ニューアルに至った経緯は、職員から品数の増加や営業時間の延長など、売店に対する福利厚生の充実を求める要望が従来から多くありました。
また、県庁舎には観光客を含む多くの来庁者が来られ、その来庁者も売店を利用されてきました。そして、来庁者の方々からも、売店の利便性の向上を求める声が多くありました。
このことから、リニューアルする売店は、職員の福利厚生施設としての充実を図ることを大前提とした上で、付加的な機能として、来庁者の方々にも喜んでいただけるよう、更なるサービス向上を目指したいと考えました。
一方、県庁が奈良公園に隣接して立地していることもあり、折角の売店やトイレなどを来庁者の方々にも利用してもらおうと、奈良公園室が中心となって部局横断で検討を行い「奈良公園基本戦略」に位置づけました。
このため、公募等の資料の記載は、付加的な機能の部分を強調した表現となっていますが、決して福利厚生施設であることを否定しているものではなく、福利厚生施設であることは大前提であります。
このことは、予定している県庁食堂のリニューアルも同じことです。
なお、平成25年3月の奈良市への照会文書にも、「改修後の施設は、主に、職員が利用する福利厚生施設である」ことや、職員の福利厚生施設とは言え、「来庁者等の利用を拒むことはできない」ことを記載させていただいており、奈良市からもこのことを含めて「福利厚生施設と考えられる」との回答をいただいています。