生活保護暖房費の傷病など常時在宅者への上積み、対応に差 奈良市は相談受け検討、大阪市は条件該当なら職権認定
府県庁所在地 | 特別基準への対応 | 生活保護世帯への周知 |
---|---|---|
奈良市 | 適用の申し入れ受け、県に相談 | なし |
大阪市 | 条件に該当すれば職権で認定 | ― |
京都市 | 条件に該当すれば職権で認定 | ― |
神戸市 | 条件に該当すれば職権で認定 | 全世帯に通知 |
大津市 | 相談あれば認定するかどうか判断 | なし |
和歌山市 | 相談あれば個別に検討 | なし |
生活保護費のうち、暖房費などを想定して設定される冬季加算。その例外措置として、傷病や障害による常時在宅者に対し、加算額を上積みする特別基準の適用をめぐって、自治体間で対応に差が出ていることが、「奈良の声」の取材で分かった。【続報~奈良市、職権で一律認定へ】
同特別基準は本年度から設定された。近畿の府県庁所在地6都市を例にすると、大阪市などが要介護度3以上など特別基準の条件に該当すれば、申請によらず職権で認定しているのに対し、奈良市などは相談を受けて条件に該当するかどうかを検討している。
生活保護法の下では、全国どこに住んでいても生活保護利用者の権利は等しく保障されなければならないが、奈良市などでは特別基準が設定されたことは周知されておらず、相談を受けて検討する方式だと、こうした権利が損なわれる恐れがある。
同特別基準の設定に当たっては、厚生労働省は「生活保護法による保護の実施要領について」と「同実施要領の取り扱いついて」を一部改正し、昨年5月、都道府県、指定都市、中核市に通知した。
改正では、傷病、障害などによる療養のため外出が著しく困難な常時在宅者または乳児(0歳児)が世帯員にいる場合で、通常の冬季加算額で困難なときは、同加算額を1.3倍の範囲内で認定して差し支えない、などとした。「傷病、障害などによる療養のため外出が著しく困難な常時在宅者」に該当するのは、重度障害者加算の算定者または要介護度3~5で常時介護を必要とする人、医師の診断書などにより保護の実施機関が認めた人、などとした。
厚労省保護課によると、同特別基準の設定は、昨年1月の同省社会保障審議会生活保護基準部会報告書を反映させたもの。報告書は、冬季加算に関する検証結果を踏まえ、傷病・障害などで、常時在宅しており、暖房費が一般的な世帯より多くかかる特別な事情がある場合に、必要最小限度の額を別途設定できる仕組みが必要、と答申していた。
奈良市のほか、大阪、京都、神戸、大津、和歌山の各市の担当課に冬季加算の特別基準への対応について聞いた。冬季加算は、地区や世帯人員によって期間や額が異なる。年度単位で額が改定されることもある。6市いずれも期間は11~3月で、本年度は1人世帯なら月額2580円。特別基準の1.3倍が適用されると同3354円で、774円の上積みとなる。昨年度の冬季加算は月額2800円だった。
奈良市は対応を決めていなかった。市民団体「奈良生活と健康を守る会」(堀内栄三郎会長)によると、特別基準に該当するとみられる2人ついて適用が受けられるよう支援するため、昨年11月末、会員が市保護課に申し入れたところ、「県に問い合わせるから待ってほしい」との回答だったという。
同課は取材に対し、「県に相談したのはこのときが初めて。一律に出すとは判断していなかった。入院している人やデイサービスに通っている人は在宅とは違う」とした。2人については、特別基準を適用する方向で考えているとした。奈良市と同じ全国の中核市の対応を調べているといい、「職権による認定は半分くらい」とした。今後、申請に基づくのか職権認定とするのかについては「県との協議を通じて判断したい」と述べた。
一方、職権で認定しているとしたのは大阪、京都、神戸の3市。
大阪市保護課は、本人から申請がなくても条件に該当していれば特別基準を適用しているとした。1歳の誕生日前の子がいるかとか、要介護度3以上でも入院しているかなど、世帯の状況は把握できるとし、必要な人はほぼ分かるとした。
京都市地域福祉課は、福祉事務所のケース診断会議で検討した上で職権で認定しているとした。条件に該当していれば基本的に認定しているとした。
神戸市保護課は、条件に該当する世帯について、職権で認定しているとした。また、全ての生活保護世帯に対し、今年度は冬季加算額が下がることや、特別基準の設定があることを通知したともいう。
大津、和歌山の2市は奈良市とほぼ同様で、相談があれば個別に検討するとの考え方だった。
大津市生活福祉課は「今のところ該当はない。暖房費がかさむなどの相談があれば認定するかどうか判断する」とした。生活保護世帯への周知については、大きな変更があるときは知らせるが、冬季加算の特別基準については通知した記憶がないとした。
和歌山市生活保護課は「現在のところ認定のケースはない。相談があれば個別に検討する」とした。改正された実施要領では、通常の冬季加算額で困難な場合は、との前提があり、条件に該当すれば認定とは考えていないとした。生活保護世帯への周知については、生活保護費に特別基準はいくつもあり、これだけを知らせることもできないとした。
2人の特別基準適用を支援している「守る会」の会員は「要介護度3~5の人と乳児がいる世帯は、一律に特別基準を設定すべき。職権で特別基準を設定しないのなら、受給者に周知し、申請援助を行うべき」と話している。【続報~奈良市、職権で一律認定へ】