コラム)3枚目の投票用紙 選挙結果がすべてか?/政治と憲法の風景・川上文雄…30
「たんぽぽの家」(奈良市六条西3丁目)製作の厄除鬼(やくよけおに)。黒鬼が除ける厄は「愚痴」。赤鬼、青鬼など色ごとに異なる厄がある
自民党・公明党政権が圧倒的多数の議席を保有し続ける最近の国政選挙。筆者には「ずっと投票しているけれど、政治は変わらないのか」という思いがあります。国会の活性化のためには、そろそろ与野党伯仲とか、政権交代はあったほうがいいのではないか。実際に、国会では虚偽答弁がまかり通ってきたし、憲法の規定に違反して野党の要求にもかかわらず臨時国会召集しなかったことが何回もあった。投票に関して「無力感はまったくない」と言えばウソになります。2枚の投票用紙を使った後、今回の選挙結果にがっかりした読者が(理由は筆者と異なるとしても)たくさんいると思います。無力感を根づかせないために必要なことを考えました。
まず「選挙結果がすべてではない」と考える。そして、3枚目の投票用紙を使う。実際には存在しない用紙ですが、投票所で受け取る2枚になぞらえてみました。私たちの社会が直面する課題の解決をめざして活動している団体から選んで、支援する。
次の選挙を待つだけ?
選挙結果がすべてである。結果に不満のある(野党に投票した)有権者は、次の選挙で与党を政権の座から引きずりおろせばいい。しかし、そう考えたのでは「次の選挙まで待て」になってしまいます。
あるいは、次の選挙までの期間、政権与党は野党のことは眼中になしに何でもできることになるのでしょうか。そのように考えている国務大臣がいました。「野党の人から来る話はわれわれ政府は何一つ聞かない。本当に生活を良くしたいと思うなら、自民党、与党の政治家を議員にしなくてはいけない」(山際大志郎経済再生担当相、7月3日青森県八戸市での街頭演説)。これでは、野党候補者に投票した人たちは―当選した候補に投票した人を含めて全員―行き場のない難民のような存在です。
さらに「民主主義=代表制の基本から見ても、選挙結果がすべて」という見解があります。選挙結果は主権者である国民の判断・民意である。だから、次の選挙で新しい国民の判断・民意が表わされるまで待たなければならない。民主主義の権威を掲げられると反論しにくい。反論できないと、無力感から脱出できません。
しかし、民主主義をそんなふうに考える必要はまったくありません。次の選挙まで待たずに、だれもがあらゆる機会をとらえて要求・要望・提言その他をおこなってよい。選挙で争点になったかならなかったかに関わらず、どんなことでも基本的に例外はない。選挙を勝ち抜いてその職にある公務員はすべて、それに対してていねいに対応しなければならない。
そのことは、そもそも立候補する時点で、すべての立候補者が有権者に対しておこなう約束です。立候補の際に供託するのはお金だけではありません。なお、この約束は当選しても供託金のように返してもらえない。ずっと預けたままです。
実際に「要求・要望・提言」をおこなうことは簡単ではないにしても、そのように考えるだけでも、その分無力感が少なくなります。
自分から始める充実感
3枚目の投票用紙。そもそも自治体から郵送で届く「投票所入場券」もないので、自分から行動をおこさないと何も起こりません。実際の投票所にある「候補者・政党」のリストも用意されていません。各自が自由勝手に名前を記入します。その意味で、本当に自発的です。権利でも義務でもなくボランティアです。自分自身がすべての始まり。自分の力で始めるという充実感をもてます。次の選挙まで待たないで、今からできます。筆者が個人的に検討中のことを取り上げて説明します。
70歳代の高齢者として、若い人たちの現状・将来を心配しています。若者が直面する仕事・労働問題に取り組むNPOに関心があります。そのような団体から1つ選んで会員になる、あるいは寄付する。この行為が投票するということです。「若者、労働、NPO」などの語を組み合わせて検索してヒットした団体は、1000円から寄付を受け付けていました。
すでに「次の選挙まで待たずに、あらゆる機会をとらえて要求・要望・提言その他をおこなってよい」と書きましたが、筆者に代わってそのことを実行できるスタッフ体制のある(あるいは将来的な見込みのある)NPOを選ぶつもりです。ただし、これはまったく個人的な考えです。
各自の思いで、日本社会が直面する重要課題に取り組んでいる団体の名前を書けばよいのです。自分から始める充実感は同じです。
最後に一言。もっとメディアが(とくにテレビは)しっかり選挙報道をしてほしいと強く思います。「選挙は結果がすべて」は一面では正しいのですから、なおさらです。当落予測・政党別議席獲得数予測ばかりの観があります。だから、3枚目の用紙は、もっとしっかりした報道をしている独立メディア(記者クラブ制度外のメディアなど)の名前を書く、という選択もありえます。
【追記】
メディアの選挙報道については、内田樹氏の以下のツイート(2022年7月3日)がある。「今日本のメディアは必死になって(必死さがばれない程度にではありますが)『参院選を話題にしない』ように努力しているように見えます。『投票しても何も変わらない』という無力感の宣布にメディアがこれほど懸命になるのは、もちろん政権がそう望んでいるからです」
なお、内田氏は「参院選とメディアの傍観者的報道」という文章を「週刊金曜日オンライン」(https://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/2022/07/08/uchida/)に寄せている。
(おおむね月1回更新予定)
かわかみ・ふみお=客員コラムニスト、元奈良教育大学教員