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発行者/奈良市・浅野善一
ジャーナリスト浅野詠子

医療観察法、強制治療処遇中の対象者52人が自殺

 精神疾患がもとで行動をコントロールする力が低下して傷害などの事件に及び、刑事責任能力が問われず、不起訴や執行猶予になった人たちを強制的に治療する医療観察法の対象者のうち、法施行の2005年7月以降、処遇中の自殺者が52人に上ることが分かった。同法は対象者を社会復帰させることを目的とし、収容病棟の医師、看護師らのスタッフの数は、一般の精神科病棟より圧倒的に多い。支援のあり方が問われそうだ。

 自殺者の数は、精神障害者の権利拡張運動をしている兵庫県在住の高見元博さんが法務省、厚生労働省の医療観察法担当課に照会して先月つかみ、「52人が自殺した」と記者に電話連絡があった。

 これを受け、記者が両省に確認したところ、入院処遇中の患者の自殺は11月2日現在で12人、通院処遇中の自殺者は9月30日現在、40人だった。

 法の施行後から2014年12月31日までの間、強制入院の命令を受けた精神障害者は2248人いる。退院すると、大半の人が最長3年間の治療命令(通院処遇)を受けている。入院、通院ともに命令は裁判所が言い渡す。

 ニュース奈良の声が2013年7月25日付で報じた医療観察法の自殺者36人の内訳は、入院処遇中が8人、通院処遇中が28人だった。

 社会一般の傾向から、厚労省における自殺対策の中核となっているのはうつ病対策だ。一方、医療観察法病棟に入院している701人の精神障害分類によると(本年9月1日現在)、うつ病患者(気分障害)は51人、統合失調症は584人となっている。処遇中の自殺者の精神障害分類について国は明らかにしていない。

 同法の病棟は、事件について患者が内省を深めない限り、退院することが難しく、平均在院日数が長期化している。自殺者の中には、元自衛隊員で横須賀基地の護衛艦「はたかぜ」の海士長だった男性も含まれる。直属の部隊でいじめを受けたことが原因とされる精神疾患の悪化により幻聴で苦しみ、罪のない通行人を傷つけてしまった。男性はいじめの具体的な内容を横須賀地方総監部に内部告発していた。

 医療観察法の公立病棟は、国の掲げる「司法と医療の連携」のスローガンの下、予算の措置が手厚い。厚労省が所管する標準的な33床の病棟においては、看護師43人、医師4人、精神保健福祉士3人、心理職、作業療法士を2人ずつ配置し、一般の精神科病棟の3倍のスタッフを誇る。

 対象者が退院し、通院処遇に切り替わると、主務官庁は法務省の保護観察所に変わる。そこでは福祉の専門職の社会復帰調整官が対応するが、人手が足りないという声が出ている。仮に人員が増えても、スタッフの充実した入院病棟で自殺者が増えている以上は、根本的な解決になるのか、誰も確信は持てない。

 表向きは通院処遇の身分であっても、民間の精神科病院への入院を勧められ、そこで命を絶ったケースも少なくないとみられる。

 法務省保護局総務課精神保健観察企画官室は「自殺につながりかねない症状を含む病状悪化の対策については、処遇の実施計画において病状悪化時への対応策をあらかじめ定め、その後の症状悪化に応じて必要な医療を確保するなどの対応を行なっている」とする。

 厚労省社会・援護局自殺対策推進室の担当官は「警察庁が取りまとめた自殺者の中に医療観察法の処遇中の自殺者は含まれておらず、当局としては把握していない」と話している。【関連記事へ】

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