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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

下流の堤防未整備で放流量抑制 奈良・川上、大滝ダム治水効果に課題

紀の川左岸の無堤防区間(向こう岸)=2020年6月12日、和歌山県九度山町

紀の川左岸の無堤防区間(向こう岸)=2020年6月12日、和歌山県九度山町

吉野川の大滝ダム(写真奥)=2020年6月12日、奈良県川上村

吉野川の大滝ダム(写真奥)=2020年6月12日、奈良県川上村

ダム放流の解説パネル=川上村の大滝ダム学べる防災ステーション

ダム放流の解説パネル=川上村の大滝ダム学べる防災ステーション

 近畿最大級の治水構造物とされ、紀の川上流の吉野川に半世紀の歳月をかけ、2013年に完成した奈良県川上村の大滝ダム(国土交通省)には、下流の和歌山県などに堤防のない「無堤」区間が約6キロあることが、「奈良の声」の取材で分かった。堤防の整備の遅れは、ダムの本来の治水効果に影響する可能性がある。

 大滝ダムの事業費は青天井といわれ、3640億円まで膨らんだ。同ダムは計算上、豪雨時に洪水調節をする際に毎秒2500トンの一定量を放流できる造りになっている。しかし、下流河道の未整備により、例年の台風シーズンにおいては毎秒1200トンの放流にとどめて運転している。それは、ダムの貯水量が増す速度を速める。水位を最も下げる8月15日から2カ月間の洪水調整容量は6100万トン。

 国交省近畿地方整備局和歌山河川国道事務所河川管理課によると、「無堤」と呼ばれる堤防未整備区間は、和歌山県九度山町、奈良県五條市上野町など6地区に存在し、未整備区間の合計は5.8キロに及ぶ。

 九度山町では、未整備区間の近くに世界遺産・紀伊山地の霊場と奥駈け道に登録されている慈尊院があり、景観に配慮した堤防整備の検討会議が始まったばかりだ。

 河川整備の遅れは、近畿地方整備局が本年1月21日、大阪市中央区の合同庁舎で開いた、管内ダムの洪水調節機能の強化に向けた協議の場でも指摘された。会議に出席した奈良県職員の復命書を、記者は県情報公開条例に基づき開示請求し入手した。

 復命書によると、出席した流域関係者が「現在の放流量の抑制はいつまで続くのか、ダム本来の効果の現れはいつになるのか」と質問した。同整備局は、下流の堤防がすべて整備されるおよそ20年後と回答した。

 同整備局紀の川ダム統合管理事務所の大滝ダム担当職員は取材に対し、「支流も含め、紀の川流域全体の整備予算であり、特定の堤防だけを早期に整備することは難しい」と話している。

豪雨前の事前放流限定的 「効果に疑問」と和歌山県批判

 一方、同復命書からは、近年の豪雨被害を受けて国が推進する、ダムの事前放流による治水効果が、大滝ダムでは当面、限定的であることも分かった。

 会議では、大滝ダムの事前放流については、紀の川ダム統合管理事務所の柳瀬勝久所長が説明した。下流の安全性を考慮し、事前放流は最大流量が毎秒115トン、貯水位を約1.5メートル下げ、130万トンの容量を確保することを示した。この数字は、大和川水系の小規模なダムが予定している事前放流の量とほとんど変わらないとみられる。

 一昨年の西日本豪雨では、大滝ダムの放流警報に対し、河畔のキャンプ客らが速やかに移動しなかったことや、河川敷が駐車場として利用されていることなどにより、事前放流が抑制されたという。

 柳瀬所長が示す大滝ダム事前放流の方針に対し、和歌山県職員は「どれだけの効果があるのか疑問」と批判。さらに「取りあえずやれば良いのであれば、実施しない方が良いのではないか。本当にやる気があるのか」などと強く反発した。

 政府は昨年12月、ダムの事前放流を推進する方針を発表した。国が事前放流を重視する背景にはこの年の10月、台風19号の豪雨によって洪水調節容量を使い切る見込みとなった6ダムが緊急放流(異常洪水時防災操作)を実施、ダムへの流入量と放流量を同じにする操作を行い、多数の流域住民が避難する事態を招いた。一昨年の西日本豪雨では、愛媛県内の肱川のダムが同様な操作を行い、増水により犠牲者が出た。

 政府のダム治水機能強化検討会議は今月、全国の一級水系の955ダム(多目的ダム335、利水ダム620)が予定の事前放流をすると、水害対策の効果は倍増すると発表した。しかし、ダムごとに事情は大きく異なる。国交省河川環境課の話では、下流の堤防未整備などの理由で、治水の効果を当初の計画通りに発揮できないダムは全国に10数カ所ある。

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