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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

室生ダム、計画当初の洪水調節能力確保できず 下流の河川整備遅れで放流量抑制

1974年に完成した室生ダム=2021年7月23日、宇陀市室生大野

1974年に完成した室生ダム=2021年7月23日、宇陀市室生大野

室生ダム下流の宇陀川と名張川の合流地点。2019年度から河川整備が始まった=2021年7月23日、三重県名張市黒田付近

室生ダム下流の宇陀川と名張川の合流地点。2019年度から河川整備が始まった=2021年7月23日、三重県名張市黒田付近

 100年に1度の確率で発生する豪雨に対応できるよう設計された水資源機構の室生ダム(奈良県宇陀市室生大野、淀川水系)が完成から50年近くを経て、現在も30年に1度程度の豪雨を想定した運転をしていることが分かった。下流の河川整備の遅れから放流量を抑制しなければならないためで、ダムの規模に見合った計画当初の洪水調節能力を確保できていない。

 水資源機構の関西・吉野川支社淀川本部(大阪市中央区)が昨年3月にまとめた室生ダム定期報告書から分かった。これによると室生ダムは当初、下流の宇陀川、名張川の洪水対策として、100年に1度程度の豪雨に対応できるよう、毎秒最大550トンの放流を想定して建設された。しかし、現実は、30年に1度程度の洪水に対応できる毎秒最大300トンの放流を想定した運転にとどまっている。雨量に応じた放流をしないと、ダムの貯水容量に余裕がなくなり、洪水調節を行えなくなる。

 同本部は放流量が抑制されている理由について、ダム下流の宇陀川、名張川の改修が途上にあるためとする。

 国土交通省近畿地方整備局木津川上流河川事務所(三重県名張市)によると、室生ダム下流の宇陀川と名張川が合流する地点から下流約3キロの地点の河川整備が課題で、伊勢湾台風などで氾濫した狭く、蛇行する河川が残る。対策として現在、古い堤防を除いて民家側に新たな堤防を設ける「引堤」によって河道を広げる工事が行われている。

 これら工事のうち、ダムに近い約1キロの区間は2019年年度から河川整備に着手し2025年度、工事が終了する。しかし残る1.9キロの区間は、完成の見通しがまだ立っていない。

 室生ダムは1965年度に着工、1974年に完成した。有効貯水量は1430万トン。計画された時代は、新規のダム建設が推進された。一方、流域によっては堤防整備が遅れ、国が住民らに説明してきた治水効果が十分に発揮されているか疑問が残る地域がある。

 ダムを監督する国交省木津川上流河川事務所は「治水ダムの暫定放流はそれほど珍しいことではなく、洪水対策は長い歳月を掛けて行う。たとえ下流に未整備の河川があっても、室生ダムは近年の豪雨被害を防いでおり、早期に完成させた意義はある」と話している。

 室生ダムは、奈良県が進める県域水道一体化の主要水源の1つ。

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