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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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浅野善一

視点)奈良公園に県誘致の高級宿泊施設「公益上必要な建築物」か 開発許可の適用除外、客室料金の高さ制度の想定外? 問う機会なく

県が奈良公園に誘致した高級宿泊施設。手前は敷地と道路を仕切る塀=2021年10月1日、奈良市高畑町

県が奈良公園に誘致した高級宿泊施設。手前は敷地と道路を仕切る塀=2021年10月1日、奈良市高畑町

 昨年6月、奈良市高畑町の県立都市公園「奈良公園」に、県が富裕層を狙って誘致した高級宿泊施設が開業した。場所が市街化調整区域であっても建築できたのは、公園施設が「公益上必要な建築物」として、開発許可の適用対象から除外されるため。宿泊施設が都市公園の公園施設として認められているとはいえ、客室料金が高く利用者が限られる宿泊施設を「公益上必要な建築物」と呼べるのか。

 同宿泊施設の誘致は、県の「高畑町裁判所跡地保存管理・活用事業」として行われた。同跡地1万3000平方メートルで県が日本庭園跡を復元・整備、公開するとともに、民間の宿泊施設を誘致するというものだった。現在、不動産会社のヒューリック(東京都中央区)が宿泊施設の「ふふ奈良」と飲食店を運営している。「ふふ奈良」のホームページが案内する客室料金は、1人当たり1泊2食付きで4万4000~10万7250円(10月3日現在)。

 県が同跡地への宿泊施設誘致を表明したのは、2012年2月策定の奈良公園基本戦略において。「奈良公園にふさわしい歴史と文化の香りが漂う上質の宿泊施設等の検討を行う」との方針を掲げた。跡地は市街化調整区域にあり、通常、開発行為(建築物を伴う区画形質の変更)は困難。県は2016年12月、跡地を奈良公園に編入し、宿泊施設を公園施設と位置付けることでこれを可能にした。

 宿泊事業を行う民間業者は公募した。県は2017年3月、ヒューリックを優先交渉権者に選んだ。「奈良の声」は県に対し、同社が当時、応募に当たって提出した提案関係書類のうち宿泊施設事業計画を開示請求したが、開示された同計画によると、平均客室料金は9万~10万円となっていた。高い客室料金は、県が求める「上質な宿泊施設」を反映したものだった。

制度対象は鉄道施設、図書館、公民館に類する施設

 市街化調整区域における開発行為は都市計画法で定められている。開発許可が不要な「公益上必要な建築物」として想定されているのは「駅舎その他の鉄道の施設、図書館、公民館、変電所その他これらに類する」建築物。公共交通、生涯学習、地域活動、電気など、いずれも住民の暮らしに関わる施設で、客室料金が高く利用者が限られる高級宿泊施設は想像しにくい。

 「これらに類する」具体的な建築物は同法施行令に列挙されていて、その中の1つに公園施設がある。宿泊施設については都市公園法、同法施行令が公園施設の一つとして掲げている。

市が事前協議で審査

 奈良市内の開発行為の許可権限は中核市である同市にある。「奈良の声」は市に対し、高畑町裁判所跡地事業の関係文書を開示請求した。請求したのは、県が同跡地に予定していた建築物に対し、市街化調整区域における開発許可を不要と判断したことについて、審査の過程、結果、判断の理由が分かる文書。市は、県が提出した開発(建築)行為事前協議書類の一部など15枚を開示した。内訳は事前協議の申し出書、申請内容書、理由書などだった。

 申し出書によると、市が県から事前協議書の申し出書を受理したのは、優先交渉権者決定後の2017年4月25日。申請内容書には、予定建築物として公園施設となる宿泊施設、飲食店、教養施設(茶室など)が列記され、予定地が市街化調整区域であることなどが記されていた。

 理由書には、高畑町裁判所跡地保存管理・活用事業の説明と建築物の配置を示した平面図があった。このほか、同跡地を奈良公園に編入した際の告示文書、公園施設が開発許可を不要とすることを示す法令を抜粋した書面が添付されていた。そして、県が「予定建築物は公園施設に該当する」と宣言した書面があった。市は県に対し、2017年6月12日付文書で開発許可申請不要を通知した。

建築物の用途で判定

 開示された事前協議書類から分かったのは、市が開発許可の適用除外の可否を判断するのに必要としたのは、建築物の用途が公園施設であるかどうかだけ。事前協議の時点で、ヒューリックが提出した宿泊施設事業計画により、平均客室料金は判明していたが、開示文書の中に宿泊施設の客室料金を示す書類はなかった。適用除外の制度において、客室料金が高く利用者が限られるような宿泊施設は、公園施設としてもともと想定されていないためであろうと想像できた。

 「奈良の声」は市開発指導課に対し、「公園施設といっても高級宿泊施設は利用者が限られる」と疑問をぶつけた。同課長は「公園施設は開発許可が適用されないのでお答えのしようがない。奈良公園の管理者である県が、都市公園の公園施設であると宣言したことに対し、市は公園施設であると確認、開発許可の適用が除外されると判定した」とした。

 「公益上必要な建築物」に開発許可が不要とされる理由は、県策定の「開発許可制度等に関する審査基準(適用除外編)」からうかがえる。同基準は、開発許可を不要とする建築物について「都市にとって公益上必要不可欠なものであり、また、大部分が国または地方公共団体が設置者であり、弊害を生じるおそれも少ないことから、本条(開発行為の許可)の適用が除外される」と解説している。

 住民の暮らしに関わる施設を地方公共団体が設置するのだから心配はない、という信頼が前提にあるものと思われる。

 県の審査基準は、独自に許可権限を持つ奈良市には及ばないが、国の都市計画法逐条解説や他の地方公共団体が策定した解説にも同様の内容が見られ、同制度について広く共有されている解釈とみられる。

県「主張は裁判で明らかにした」

 「奈良の声」は県奈良公園室に対し、客室料金が高く利用者が限られる高級宿泊施設の公益性はどこにあると考えるのか聞いた。ことし7月16日に電子メールで質問を送り、1カ月余り待って8月26日、電話で回答を求めた。

 同室長補佐は「有識者の意見を聴いて奈良公園基本戦略を作り、事業を進めた。県の主張は訴訟(近隣住民が県の宿泊施設設置許可取り消しを求めた訴訟)の中で明らかにし、宿泊施設は県の裁量として適法なものと認められた。裁判の中で公益性があるとかないとか触れられておらず、問題になったわけではない。お答えする(できる)ことはない」として、公益性については質問に応じなかった。

 訴訟では、住民は一、二審を通じて、高級宿泊施設が都市公園の自由利用の原則に反し、災害時の避難地の機能を阻害するなどとして都市公園法に違反すると主張した。これに対し一、二審いずれの裁判所も、高級宿泊施設は公園利用者の利便性を高め、奈良公園の魅力向上に寄与するものとの県の主張を採用、設置許可に裁量の逸脱はないとして請求を棄却した。住民は上告したが、最高裁はことし7月2日、これを棄却、受理しない決定をしている。

 県は、奈良市登大路町の市街化調整区域にある奈良公園吉城園周辺地区でも、公園施設として、旧知事公舎などを利用した最高級インターナショナルブランドのホテル誘致を進めている。

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