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地域の身近な問題を掘り下げて取材しています

発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一
フリージャーナリスト浅野詠子

大阪府内の精神科診療所アンケート 医療観察法について「よく知らない」が半数近く 患者受け入れに難色の傾向も判明

 傷害などの事件で不起訴や無罪、執行猶予になった精神障害者を強制治療できる新型の人身拘束制度、心神喪失者等医療観察法について、「ほとんど知らない」とする大阪府内の精神科診療所が42%に上ることが、大阪精神科診療所協会が実施したアンケート調査で分かった。医療観察法を担当する指定通院機関になってもよいかという質問に対しては、「引き受けない」と回答した診療所は62%に達している。法が施行されて丸10年が過ぎたが、地域の精神医療の担い手にあまり理解されず、敬遠されがちな制度であることを浮き彫りにしている。

 アンケート調査は、同協会に所属する府内285カ所の診療所を対象に昨年から実施。本年3月、取りまとめた結果を協会員に公開した。回答した診療所は78件にとどまり、回答率は27.4%と低いながらも、地域の精神科診療所の意識を知る貴重な調査となった。

 医療観察法の申し立ては検察官が行い、強制入院などの命令は裁判所が行う。入院中の処遇方法は厚生労働省が決め、その指揮下で国立病院機構や自治体病院の敷地に設けられた特別病棟で治療が行われる。強制通院を統括するのは法務省となる。こうして官庁がいつくにもまたがり、非常に複雑な仕組みになっている。

 今回のアンケート調査では、「医療観察法についてよく知っていますか」という質問に対し、「よく知っている」は9%、「まあ知っている」は48%だったのに対し、「ほとんど知らない」と回答した診療所は42%あった。

 医療観察法は、2001年、大阪教育大学付属池田小学校で発生した児童無差別大量殺害事件とのつながりがある。犯人に精神科の入院歴があったとするセンセーショナルな報道がなされ、事件直後に、法案が練られた。犯人は詐病の常習で、起訴後の精神鑑定では人格障害と診断された。犯人のように薬物治療に反応しにくい人は、この法律の対象とはならず、従って同種の通り魔事件を防止する仕組みではない。

 大和郡山市内に重装備の医療観察法病棟建設が浮上した際、地域住民が案じた恐ろしい病棟とはいえない。一例を挙げれば、入院を口うるさく勧める家人を殴ってしまった、ストレスが高じて紙を燃やしたなどの類いの行為も、法律の適用を受けている。

 正確な情報が不足すれば、地域の偏見にもつながるが、今回のアンケート調査では、精神医療に携わる専門家の側にも忌避感が強いことが浮き彫りになった。

 医療観察法の強制治療が終了することを「処遇終了」といい、患者の社会復帰の第一歩となるが、「処遇を終了した患者を受け入れるか」という質問に対し、「受診した以上、受け入れる」と回答した診療所はわずか13%だった。「基本的に受け入れるが、ケースによる」とする条件付き受け入れは35%にとどまる。これとは反対に、「ケースによるが、基本的に受け入れない」とする診療所が31%、「受け入れない」と回答した診療所は17%にも上った。

 通院したいと希望する人を断ってしまうとしたら、医師法の応召義務や障害者差別解消法などに照らして問題が残るとの意見もある。

 また、医療観察法を担う「指定通院医療機関になってもよいか」との質問に対し、「引き受けない」と回答した診療所は62%にも上る。「ケースによる」として消極的に賛成する意見の28%を大幅に上回った。

 2005年、「司法と医療の連携」という高らかな国のスローガンの下で施行され、手厚い看護の病棟、社会復帰の促進が宣伝されている医療観察法。しかし対象となる患者の強制入院の日数は長期化しており、患者一人一人の長い人生を支えるような制度設計になっていないといえる。

 精神科医の間でも賛否がある。医療観察法の特別病棟に患者を送らないことを願って、鑑定入院中に可能な限りのケアをし症状を軽快させ、地裁の不処遇決定(釈放)に結びつけようとした医師もいる。

 今回の診療所アンケートの結果については、制度の情報公開が不十分なことも背景にありそうだ。

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