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地域の身近な問題を掘り下げて取材しています

発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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群れる野鳥たち)大空へ暖地に餌求め/連載 野鳥~自然を生きる知恵・与名正三…6

紅葉した山並みを飛翔するタゲリの群れ

紅葉した山並みを飛翔するタゲリの群れ

集落近くの田んぼ上空を飛行するマガンの群れ

集落近くの田んぼ上空を飛行するマガンの群れ

麦畑から一斉に飛び立ったスズメと二ュウナイスズメの混群

麦畑から一斉に飛び立ったスズメと二ュウナイスズメの混群

餌場に集まるマナヅルとナベヅルの群れ

餌場に集まるマナヅルとナベヅルの群れ

上昇気流を利用して高空を旋回するサシバの群れ

上昇気流を利用して高空を旋回するサシバの群れ

 秋から冬にかけ、大空を飛翔(ひしょう)する野鳥の群れを見かけることが多くなってきます。繁殖期、番(つがい)だけで暮らしていた野鳥たちも、秋には餌を求めて寒冷地から暖地に移動を始めます。

 そして暖地では、それぞれ単独で獲物を探しながら冬を越す野鳥。群れになって冬を越す野鳥などさまざまです。単独で暮らす場合に比べ、群れで暮らす利点は天敵を発見しやすい、餌のある場所を探しやすいなどいくつかの理由が考えられます。

 秋から冬にかけて西日本にやって来る「タゲリ」はユーラシア大陸中部で繁殖し、日本では本州中部以南で越冬する冬鳥です。滋賀県湖北地方周辺の田んぼでは、多くのタゲリの群れを見かけることがあります。湖北周辺にはオオワシやクマタカ、オオタカなども多く、タゲリたちはこれらの猛禽(もうきん)たちに襲われないように群れで行動し、お互いに見張りと採餌を交代しながら生活しています。

 また宮城県伊豆沼や島根県斐伊川にやって来る冬鳥の「マガン」は採餌中、天敵の猛禽を発見するとお互いに大声で鳴き交わし、一斉に田んぼから飛び立ち難を逃れます。

 一方良好な餌場を発見するため、群れになって行動する野鳥もいます。例えば鹿児島県の出水(いずみ)平野の麦畑では、留鳥の「スズメ」と冬鳥の「ニュウナイスズメ」が混群となり、餌を食(は)んだり飛び回ったりを繰り返しています。

 近くにはツルの渡来地の田んぼがあり、毎年冬になると1万羽以上の「マナヅル」と「ナベヅル」の群れがやって来ます。中でもナベヅルは世界中の8割以上が出水で越冬しています。

 1種類の野鳥が1カ所に集中して群れるのは、決して好ましいとは言えません。もし鳥インフルエンザなどの感染症を発症した場合、その種が絶滅する恐れがあるからです。そのようなことにならないように、近年国も渡来地の分散化を図っています。

 最後に、秋群れになって南ヘ移動するタカの仲間「サシバ」を紹介しましょう。繁殖を終えたサシバは、群れになって日本列島を縦断しながら南下し、越冬地ヘ向かいます。長野県白樺峠や愛知県伊良湖岬などでは、たくさんのサシバの乱舞が見られます。

 本来タカの仲間は孤高であって群れで生活することはありません。単独で縄張りを持ち、他の仲間を寄せ付けない越冬地での生活が、この事を物語っています。秋の季節風に乗って旋回上昇し移動するため、一緒に行動しているように見えるのです。言わば気流という見えない乗り物に、たくさんのサシバが同乗しているような状況なのです。(よな・しょうぞう=野鳥写真家、月1回更新予定)