医療観察法病棟の退院者の36%、再び社会的入院 奈良保護観察所の協議会で明らかに
傷害などの事件に及んで刑事責任能力が問われず、不起訴や執行猶予になった精神障害者を拘束し、入院治療を強制できる医療観察法をめぐり、退院できる症状に回復した場合でも、住居や保証人が確保できないなどの理由で、社会的入院を余儀なくされる人々が相当数いることが30日、法務省奈良保護観察所(奈良市登大路町)が開いた医療観察制度運営連絡協議会で明らかになった。
専用病棟のある奈良県大和郡山市小泉町、国立病院法人やまと精神医療センターを退院し、通院命令に切り替わった44人の行方について、同センターが明らかにした。36%に当たる16人が、実際は通院ではなく、一般の精神科病院に任意入院する形で再び入院していた。主な理由は、帰住先の家探しが難航したことによるという。賃貸住宅の物件によっては、生活保護受給者の身分が敬遠されたこともある。地域の暮らしに慣れる準備として、入院を促す場合もある。入院以外では、福祉施設に入所した人が10人いた。
任意入院したこれら16人のうち、その後、住居が確保できて退院した人は10人いる。しかし、残る6人のうち、4人は福祉施設に移動するにとどまり、2人は現在も入院中だ。法が掲げる社会復帰は順調に進んでいるとはいえない。
同センターの医療観察法病棟退院者の平均在院日数が967.3日と長期化した理由については、帰住先の住宅探しが難航したことも一因であるという。
退院後の通院命令を受けた人は、自由に医療機関を選択することは許可されない。県内では5カ所が指定され、精神科病院4カ所(奈良市2、三郷町1、御所市1)と橿原市内の訪問看護事業所に限られる。「県北部に偏りがある」と、同センターのケースワーカーは指摘した。
また、会議に出席した奈良市保健所の福祉担当者によると、医療観察法病棟の退院者が住まいを確保する上で、保証人探しに苦労し、「同じ保証人にばかり頼ってよいものか」と案じていた。
一方、医療観察法病棟を退院し、通院命令を受けたのと同時に7人はアパートの一人暮らしが実現し、11人は家族の理解があって同居し、指定通院医療機関に通っている。
このことから、罪の重さによって拘束の長さが決まるのではなく、地域福祉の偏在や精神障害者に対する理解の差など、当事者の責任の及ばないことで入院を強いられることが恒常的に生じている。
医療観察法の施行後、奈良保護観察所の管内で同法の対象になった28人のうち、事件前に福祉サービスなどを一度も利用したことのない人は22人に上り、全体の79%を占めている。当事者の精神障害者もその家族も誰にも相談できず、地域から孤立していた状況が浮かぶ。
厚生労働省によると、近畿管区に医療観察法の病床は80床あり、これ以外に予備の9床を設けているが、88人が入院中で、満杯に近い状態だ。対象者が増えた場合、近畿以外の遠隔地の専用病棟に移送されることになる。【関連記事へ】