学園前、西奈良県民センター閉館 跡地利用で住民が要望書 県「新旧住民交流の目的達成」 住民「時間たてば施設の在り方変わる」
建物が撤去された西奈良県民センター跡地=2019年11月2日、奈良市登美ケ丘2丁目
要望書を提出し、県の担当者との面談に臨む「住みよい登美ケ丘をつくる会」の人たち=2019年11月15日、奈良市の県中小企業会館
2016年に老朽化などを理由に閉館した奈良市登美ケ丘2丁目の県施設「西奈良県民センター」の跡地利用について、住民有志でつくる「住みよい登美ケ丘をつくる会」(山口功二代表、8人)が11月15日、県の担当者と面談し、要望書を手渡した。
センターは約50年前、近鉄学園前駅周辺で進む宅地開発に合わせ、新旧住民に「対話と交流の場を提供すること」などを目的に建設された。県は閉館について「当初の目的は達成された」と説明した。「つくる会」は「時間がたてば施設の在り方も変わる。いろんな人が利用していた」と訴え、あらためて住民の交流、憩いの場となる施設を建設するよう求めた。
センターは1971年9月、宅地開発が進むまちの中心的な通りに面した場所に開館した。鉄筋コンクリート造り2階建て、延べ床面積約1066平方メートルで、ホールや集会室、和室などを備えていた。新旧住民の対話と交流の場の提供▽県政の広報、県民生活に関する相談業務▽住民の自主的レクリエーション、体育その他の文化活動についての指導―などを設置目的とした。
県青少年・社会活動推進課によると、当初は県政・職業・消費生活に関する相談業務や保健所の育児・老人福祉・健康相談業務なども行っていた。閉館前は周辺住民向けの公民館と同じような利用形態になっていたという。県は2016年3月、建物の耐震診断結果や老朽化も踏まえセンターを閉館とし、建物は19年3月までに撤去された。跡地の利用方法は決まっていない。敷地内のテニスコートや児童公園は閉館後も残った。
「つくる会」はことし6月から9月にかけ、センター跡地についてどのような利用を望むか、周辺のスーパー前などで住民にアンケートを実施。335人から回答を得、その結果をまとめて要望書を作成した。賛同する住民177人の氏名も添えた。
要望が多かったのは、小ホールや児童室、会議室。意見や提案では、「公共の建物として市民が利用できる施設にしてほしい」「以前のようなセンターにしてほしい」「会場費は無料か安く利用できるように」「地域のコミュニケーションの場に」などの声が寄せられた。
「つくる会」と県の面談は、奈良市の県中小企業会館会議室で行われた。「つくる会」から山口代表ら9人、県から森本壮一・行政経営・ファシリティマネジメント課長、東川富成・青少年・社会活動推進課長ら4人が出席した。
「つくる会」は席上、「自治会の会議の場所がなくなり、個人の家や遠くの場所を借りなければならなくなった」「投票所が遠く、タクシーを利用せざるを得ない」「趣味のサークルの場所の確保が難しくなった」「音楽や体操などの練習、発表の場がますます少なくなった」などと不満をぶつけた。
県側は、同センター跡地など、県内の低・未利用県有資産約100カ所を対象に有効活用を検討中で、県で活用しない場合は市町村に希望を聞き、なければ民間に売却すると説明。「つくる会」からの質問に答える中で、活用に当たっては、デベロッパーやコンサルティング、ゼネコン、銀行などの「専門家」に意見を聞いていることも明らかにした。
閉館の理由については、新旧住民の対話と交流という当初の目的は達成されたと説明。また、周辺で施設の整備が進み、状況は改善されているとした。地元への説明は、地元自治連合会の集まりの場を借りたほか、関係自治会長を個別に訪ねて行ったと述べた。
これに対し、「つくる会」は「意見を聞く対象から住民の声が抜けている」と批判。「時間がたてば県施設の在り方も変わる。いろんな人が利用していた。閉館を伝えるだけでは一方的、住民の立場を考えていない」と納得しなかった。
県側は「今回このような要望をいただいたので、検討の中に入れされていただく」と応じた。跡地の活用方法に関し、いつまでに結論を出すのかとの問いには「検討作業が進行中で今は未定」と答えるにとどまった。
「つくる会」は要望内容について、「高齢者や子育て世代にとって交流、憩いの場となる公的施設や公園はなくてはならないもの。周辺は近鉄学園前周辺の宅地開発で子育て世代が急増、一方で現役を退き、地域での活動のために公共施設を求める住民も増え続けている」と訴えた。
「つくる会」は、要望書への回答はいつもらえるのかと詰め寄った。県側は「回答自体をするかどうか、するとすればどういう形でするのか検討したい」と返答した。
県「奈良市にも相談しながら慎重に検討」
県がホームページで公開している「低・未利用県有資産の状況について」によると、西奈良県民センター跡地のような低・未利用県有資産は2019年4月1日時点で93件。利用については、経営的な視点で総合的に企画・管理・活用するファシリティマネジメントの考え方で取り組みを進めるとしている。
県は、低・未利用県有資産をその活用に向けて、①事業用資産(使う)②継続保有資産(保有する)③整理資産(条件整理、売る・貸す)―の3つに分類。センター跡地は「継続保有資産」に含まれている。「継続保有資産」の分類基準は「県での活用が期待できる資産、現況以外での利用が困難な資産」とされている。
2018年11月の県議会本会議の代表質問で、出口武男議員(選挙区奈良市・山辺郡、自由民主党)が、センター跡地について「今後、どのようになるのか」と質問。荒井正吾知事は「これまで、未利用の県有地の活用の結果になったのは県総合医療センターだが、旧西奈良県民センターについても、同じような考え方が適用できるのではないかと思う」と答弁した。
この答弁に関し、県行政経営・ファシリティマネジメント課は「奈良の声」の取材に対し、県総合医療センターの2018年5月の移転先となった奈良市六条山地区の土地が念頭にあるとした。同土地は県住宅供給公社が保有する塩漬け土地だったが、公社が2013年度末で解散した後、出資者の県に返還された。
県側は、要望書を持参した「つくる会」と面談した際、質問に答える中で、デベロッパーなどの「専門家」に意見を聞いていることを明らかにした。同課は取材に対し、本年度は西奈良県民センター跡地など9つの資産が意見を聞く対象になっていると述べた。ほかに県立奈良工業高校跡地などがあるという。
9つの資産について、本年度中の結論を目指すのかとの「奈良の声」の問いに対し、同課は「結論次第だが、センター跡地については、住民から意見をいただいたので、跡地がある奈良市にも相談しながら慎重に検討したい」と、こだわらない考えを示した。【続報へ】