買収の相手方いったん不開示の判断 奈良市、風化する土地開発公社問題
奈良市の土地買収機関、市土地開発公社(2013年解散)が1997年に文化施設整備事業の名目で取得した同市高畑町の元興福寺子院(旧最勝院)の土地の地権者について、記者が市情報公開条例に基づき本年7月、開示請求したところ、市はいったん、個人情報の保護を理由に不開示になると、正式な決定通知前に連絡してきた。
これに対し記者は、最高裁の判例に基づき開示は妥当であると指摘した。市は判断を改め、先月、地権者の氏名と買収価格を記載した市土地開発公社の「公共用地取得完了報告書」を開示した。
土地開発公社が、土地を買収した際の相手方の氏名については、最高裁は2005年10月の判決で、開示が妥当との判断を示した。開示できる理由は、土地の取引は通常、法務省法務局の登記簿に公示され、誰でも見ることのできる情報であり、保護すべき個人情報に当たらないとの判断からだ。
自治体が情報公開制度を運用する上で、一つの目安となる比較的有名な判決であり、ホームページでこの判例について解説している市役所もある。
この判決は、土地開発公社が買収した土地の価格の公開も妥当とした。公示地価などの指標から類推できるはずの価格だからだ。判決が出るまで、多くの自治体が個人情報の保護を盾に、隠す必要のない買収土地の価格と相手方の氏名の開示を拒んでいた。
奈良市は1990年代、公有地拡大推進法に基づき設立した市土地開発公社を迂回させ、市民の見えないところで不明朗な土地買収を続けた。公社は解散したが、誰も責任を取らず、後年度の財政に悪影響を及ぼしている。使われることのなかった土地の取得に要した借金の残高は、まだ112億円あり、返済は2032年まで続く。
奈良市政で、特に土地開発公社の仕組みが1990年代に乱用されてきた背景には、外郭団体に対する情報公開の遅れもあった。教訓を何も残さないのであれば、今後、税収が好調になったときに形を変えて繰り返されることがないとは言い切れないだろう。今回の氏名開示を巡る一件は、問題の風化を思わせる出来事だった。 関連記事へ