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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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浅野善一

生活保護世帯数が15%減 生駒市、庁内連携の成果と説明 市民団体は申請権の侵害ないか懸念

 奈良県生駒市の生活保護世帯数が急減していることが、市民団体の調査で分かった。「生駒市の生活保護行政をよくする会」(代表世話人・古川雅朗弁護士)によると、2020年度の保護世帯数は517世帯で、前年度に比べ15%減少した。2016~19年度はほぼ横ばいだった。同会は、生活保護の申請率(相談から実際の申請に至った件数の割合)が下がっていることが原因だと指摘する。 県内12市の申請率

 同市の生活保護世帯数の減少については、2020年の市議会決算審査特別委員会で市の答弁があった。市は、扶養義務者への扶養照会の強化や生活困窮者自立支援制度との連携などが要因だと説明した。市は生活保護行政の成果として説明しているが、「よくする会」は申請権の侵害がないか懸念している。

生駒市の生活保護の動向
「生駒市の生活保護行政をよくする会」調べ(世帯数は月平均、2020年度は2021年1月現在の数)
年度 世帯数 相談件数 申請件数 申請率% 保護開始 保護廃止
2020 517 127 22 17.3 12 62
2019 611 175 47 26.9 30 75
2018 615 156 79 50.6 77 77
2017 604 188 104 55.3 85 80
2016 611 84 84 82

 同会は、市への開示請求で開示された生活保護の実施状況などに関する文書から、直近の5年間2016~20年度の市の生活保護の動向をまとめた。

 それによると、2016~19年度の保護世帯数(月平均)は604~615世帯で推移したが、2020年度(2021年1月までの月平均)は前年度から一気に94世帯減少して517世帯となった。

 相談件数と実際に申請に至った件数は、2017年度が相談188件に対し申請104件、2018年度が相談156件に対し申請79件で、申請率はいずれも50%台だった。2019年度は相談175件に対し申請47件で、申請率は前年度の半分の26.9%になった。2020年度(2021年1月現在)は相談127件に対し申請22件で、申請率は17.3%とさらに下がった。

 保護開始に至った件数については、2016~18年度は80件前後で推移したが、2019年度は30件で前年度の半分以下に減った。2020年度(2021年1月現在)は12件で減少が続いた。

 厚生労働省の「生活保護の被保護者調査」によると、2021年1月の全国の生活保護世帯数の対前年同月伸び率は0.2%。同月の奈良県全体の対前年同月伸び率は-2.6%だった。

 市の2019年度決算を審査した2020年9月16日の市議会定例会決算審査特別委員会の会議録によると、市は委員から、同決算で生活保護世帯数が減少している理由について問われ、およそ次のように答えた。

 「稼働能力の活用や扶養義務者への扶養照会を強化していることに加え、くらしとしごと支援センターをはじめとする庁内連携により、生活困窮者自立支援、いわゆる第二のセーフティネットがうまく働いて、生活保護に陥る前段階で自立を図れたのが大きな原因」

 「最近は、困窮している原因について相談時から直接的な対応を行うようにしている。仕事に就いていない人には就労を働きかけ、くらしとしごと支援センターやハローワークとも連携を図り、仕事に就いていただくように働きかけたり、今までは申請が出てから文書で扶養義務者に扶養照会を行っていたが、相談に来られた段階で、その扶養義務者、特に親や兄弟など、家族に一度相談してという働きかけもして、場合によってはその方たちも2回目、3回目の相談のときに同席してもらい、皆さんで支援をしながら生活を自立させていくということもしている」

 「よくする会」はことし7月28日、保護世帯数急減の調査結果と市の答弁内容を踏まえ、市に対し文書で申し入れを行った。市は8月31日、文書で回答するとともに担当者が同会との面談に応じた。

 申し入れでは、生活困窮者自立支援制度の対象は「最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者」、一方、生活保護の対象は「最低限度の生活を維持できないため保護を必要とする人」であるとし、自立支援制度の経済給付は住居確保給付金のみで生活費の給付がなく、生活保護の申請者を自立支援制度に誘導することは、申請権の侵害に当たると述べた。

 また、扶養義務者への扶養の要求については、扶養は生活保護の要件ではないとし、扶養照会が生活保護の申請をためらわせる「壁」になっているなどと指摘した。

 同会が明らかにした市の回答文書によると、生活困窮者自立支援制度と生活保護制度は対象者が異なることは認識しているとし、稼働能力を活用する意思があるのかなどを確認し、自立支援制度の対象となる人については、くらしとしごと支援センターと連携して対応している、などとした。

 また、扶養義務者による扶養の可否が保護の要否の判定に影響を及ぼすものではないとした上で、扶養できる可能性のある扶養義務者がいる場合は、相談していただくよう伝える場合もあるが、扶養義務の履行が期待できない場合は扶養照会は行っていない、などとした。

 「よくする会」によると、面談では市に対し「生活保護世帯数が減った原因の回答になっていない」と不満を伝えたという。

 就労などを支援する国の生活困窮者自立支援制度は2015年度に施行された。生駒市では2018年度に保護課の名称を生活支援課に改めた。 関連記事へ

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