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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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浅野善一

議員の出席停止処分ならぬ 奈良県香芝市議会に地裁が仮の差し止め

出席停止処分の仮の差し止め決定を受けてあいさつする青木恒子・香芝市議会議員=2022年9月3日、同市総合福祉センター

出席停止処分の仮の差し止め決定を受けてあいさつする青木恒子・香芝市議会議員=2022年9月3日、同市総合福祉センター

 奈良県香芝市議会の青木恒子議員(共産党)が市を相手方として、市議会懲罰特別委員会が決定した同議員に対する出席停止処分を、議会が9月5日の本会議で行わないよう仮の差し止めを求めた申し立てに対し、奈良地裁(寺本佳子裁判長)は同月1日付で認める決定をした。

 決定などによると、青木議員は昨年12月14日の市議会福祉教育委員会で、国民健康保険特別会計歳入歳出決算の認定などの議案に対する質疑の際、国民健康保険料の納付が困難になった市民が市の窓口に相談に来る旨の保険料収納課長の答弁を受け、「私も困った市民の方と一緒に窓口にも行かせていただいた」などと発言した。

 この後、川田裕議長が同議案に対する質疑の中で「議員が国民健康保険料や生活保護の窓口に同行することは禁止すると、以前、議会で決めた。理事者のほうも、もし来た場合にはお断りをする。それでも帰らない場合は議会に報告をいただきたい」と発言。青木議員はこれを自身の発言を問題視したものと捉え、「議員に対する圧力と感じた。パワハラのように聞こえた」と発言した。

 青木議員のこの発言が川田議長に対する侮辱、名誉棄損などに当たるとして、議員の一部が懲罰動議書を提出。市議会懲罰特別委員会は議場での陳謝の懲罰を科すことを決定し、今年2月28日の定例会本会議で賛成多数で可決された。青木議員は同特別委が決定した陳謝文の朗読を命じられたが、内心の自由に反する内容だとして拒否した。

 以降、陳謝の懲罰の議決は3回繰り返されたが、青木議員は拒否を続けた。4回目の陳謝拒否に対し、再び懲罰動議書が提出され、懲罰特別委は8月18日、出席停止8日間の懲罰を科す決定をした。青木議員は、9月5日に招集される定例会本会議で、議決により出席停止の処分が科される蓋然(がいぜん)性があるとし、8月24日付で処分差し止めを申し立てた。

 寺本裁判長は、処分がされれば議決に加わるなどの議員の中核的な活動ができなくなり、損害は後の金銭賠償によって回復されるものではないとして、損害を避けるための緊急の必要性を認めた。

 その上で、市議会会議規則に基づき議会が決めた陳謝文は、申立人のことで議員に多大な時間を割かせたことに対する謝罪など、懲罰の理由とされた発言以外の事柄を対象にしており問題があるとした。また、陳謝処分の経緯について申立人自らの評価とも異なる表現内容が含まれており、申立人の内心の自由にも関わるとした。

 同裁判長はこれらの点を踏まえ、「陳謝拒否をもって議員活動に対する制約の大きい出席停止の処分を科すのは、裁量権の範囲を超え、またはその乱用と一応認められる」とした。

 青木議員は申し立てと同時に同内容の訴訟を提起しており、今回の決定はこの訴訟の判決が確定するまでの仮の差し止めとなる。

 3日、地裁の決定を受けて香芝市総合福祉センターで開かれた報告会で、青木議員は「陳謝文の朗読拒否や懲罰特別委員会ですごくしんどいときもあった。決定が出たときは選挙で当選した以上にうれしかった。生活保護は基本的人権。議員が同行するのは当たり前」などと述べた。

 川田議長が福祉教育委で述べた議員の同行禁止は、同議長が委員長を務めた2011年2月の市議会議会改革特別委員会で決定された「行政審査事項に対する議員の関与について」が根拠とみられる。

 それによると、「税の課税や生活保護の認定等で、議員が審査事項にかかる協議の場に市民と同席することは、政治倫理条例に抵触するため、同席しない」とされている。同条例第2条第1項は「市長、議員は不正の疑惑をもたれるおそれのある行為はしてはならない」などと定めている。

 この決定の存在を確認できるのは、当時の議会だよりのほか、市ホームページでも公開されている当時の同特別委と本会議の会議録。決まりとして明文化はされていない。 関連記事へ

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