民生委員内定者13人が就任辞退 奈良・香芝、人選巡り市との関係こじれ 昨年12月改選
香芝市役所=2022年10月、同市本町
昨年12月1日の民生委員(児童委員を兼務)の全国一斉改選で、奈良県香芝市の民生委員に内定していた13人がそろって就任を辞退していたことが分かった。民生委員の人選を巡って市との関係がこじれた。市の民生委員は現在、定数103人(うち6人は主任児童委員)に対し83人(同5人)。改選前の98人を大きく下回る欠員状態となっている。
民生委員制度は民生委員法で定められている。配置は市町村ごとで、市町村長が委嘱した委員で構成される民生委員推薦会が候補者を選考し、都道府県に推薦する。都道府県知事はこれを受け、地方社会福祉審議会の意見を聞いたのち厚生労働大臣に推薦する。
香芝市は人選に当たって、ほかの多くの市町村と同様、地域の事情に通じている各自治会長に候補者の選出を依頼している。自治会長は本人の承諾を得て、候補者を市に推薦。これを民生委員推薦会が承認、県に推薦している。推薦会の委員は14人で、市議会議長や民生委員、自治会長、市社会福祉協議会長、市の関係部長らが就いている。
「奈良の声」が市への開示請求で入手した民生委員推薦会の会議録や自治会長提出の候補者推薦書によると、推薦会は昨年9月までの3回の会議で、約40人の自治会長が選出した91人を候補者に決定、県に推薦した。13人もこの中に含まれていた。
同市の民生委員は3つの地区でそれぞれ地区協議会を組織しており、問題はこのうちの一つで起きた。
就任を辞退した人によると、13人はいずれも再任予定だった。在任期間は長い人で5期になるという。この人たちが問題にしたのは、一部の地域の候補者が推薦会委員の直接の推薦で決まったこと。候補者の選出を依頼している自治会長に、事前に意見を聞いていなかった。人選に関し地域の事情を知る自治会長の判断が考慮されなかったことから「自治会長の判断を無視したもの」と反発した。
同地域では、自治会長が選出した候補者が定数を満たしていなかった。自治会長は取材に対し、候補者の決定については「事後に市から報告があった」と述べた。13人はこの一件を巡る市の対応に不満を募らせた。
同市では推薦会委員による候補者推薦は珍しく、会議録によると、9月30日の3回目の会議はこれの承認を得るため臨時に開かれたものだった。8月1日の2回目の会議以降に自治会長から随時提出された推薦書の承認は、委員長に一任されていた。13人が市に辞退の意思を伝えたのはこの臨時会議の終了後だった。
自治会から候補者を推薦してもらうやり方は、推薦会関係者による推薦だけでなく多方面から幅広く人材を確保するための手段として、県民生委員・児童委員選任要領にも例示されている。
一方、推薦会委員の推薦で民生委員再任となった人は取材に対し「新生の民生をつくり上げようと頑張っている」と述べる中で、地区協議会のこれまでの活動に対する批判も口にした。問題の背景には、協議会の活動や組織運営の在り方を巡る考え方の対立もあったとみられる。
市社会福祉課長は取材に対し「就任の辞退があったかどうかは選考過程に関わるので答えられない。欠員は重く受け止めている。現在、自治会と連携して人材の発掘に努めている。欠員はほかの民生委員でカバーする。民生委員は全国的に見ても欠員が出ている。香芝市だけが顕著なわけではない」と述べた。
12月1日の改選で県全体の民生委員は定数3063人に対し2912人。充足率は95.1%。全国平均は93.7%。一方、香芝市の充足率は80.6%。改選前は95.1%だった。
民生委員法によると、民生委員は厚生労働大臣が委嘱する非常勤の地方公務員(特別職)で任期は3年。住民の生活に関する相談に応じ、助言や関係機関につなぐなどの援助を行う。活動に必要な実費は支払われるが報酬はなく、実質的にはボランティア。
香芝市では、子育て支援事業や寝たきり・1人暮らしの高齢者の調査などの活動のほか、保育所入所時の就労証明や児童扶養手当申請時の証明に関する事務も担っている。