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浅野善一

安堵町、奈良県に補助金返還 廃棄物排出組合への違法支出問題 県、過去の実態確認も求める

安堵町に対する県産業廃棄物処理事業県費補助金の交付決定通知書(中央)。左は町の交付申請書、右は交付決定を受けた町の請求書=住民訴訟原告の池田さん提供

安堵町に対する県産業廃棄物処理事業県費補助金の交付決定通知書(中央)。左は町の交付申請書、右は交付決定を受けた町の請求書=住民訴訟原告の池田さん提供

 奈良県安堵町が町同和地区産業廃棄物処理組合に2020年度に交付した補助金が、住民訴訟の判決で違法な支出とされた問題で、町はこの補助金のうち県費分24万円を県に返還した。県と町への取材で分かった。県はこれ以前の補助金交付についても町に実態の確認を求めている。

 今年1月9日の判決で奈良地裁は、2020年度の補助金のうち、同年8月から翌年3月までの8カ月分計216万7200円(月額27万900円)について、組合による廃棄物排出・処理の事実が確認できないと認定、町に対し、指揮監督の義務を負う西本安博町長個人に損害賠償を請求するよう命じた。町は控訴せず1月30日、判決が確定。町長は2月29日付で遅延損害金を加えた230万5425円を町に支払った。

 県費分24万円はこの216万7200円の一部。県は2020年度、町からの申請に対し、県産業廃棄物処理事業県費補助金交付要綱に基づいて、36万円を交付していた。県廃棄物対策課によると、24万円はこの8カ月分に相当する額という。

 同課は、今年3月11日の「奈良の声」の取材に対し、判決について町から報告はないと回答していた。同課によると、その後、町に聞き取りを行い、廃棄物処理の実態がなかったと判断、同月19日付で補助金を返還するよう文書で通知した。町から入金があったのは同月28日という。またこれ以前の補助金についても実態の確認と報告を求めた。

 町住民生活部長は「奈良の声」の取材に対し、県に補助金を返還したことを認めた。一方、これ以前の廃棄物処理の実態については、組合が廃棄物の収集・運搬を委託していた業者は町に対し「廃棄物は収集していたが、廃棄物の数量や種別を裏付ける記録は残っていない」という趣旨の説明しているという。町についても「支出関係書類を調べているが記録は見当たらない」とした。組合長に対しては「連絡が取れない」という。

 組合の活動実態を巡っては、住民訴訟原告の池田忠春さんが組合長から受け取ったという2021年4月5日付の手紙で、組合長は「2017年度以降、組合長の職務を行っておらず、町に対し補助金も申請していない」と述べている。手紙は裁判で証拠として提出された。

 池田さんは住民訴訟のほか刑事告発もしている。誰が補助金の交付を申請し、金を受け取っていたのか解明を求めて、人物不詳で担当の町職員を背任の疑いで告発したが、奈良地検は昨年3月、不起訴とした。池田さんは先月1日、これを不当として奈良検察審査会に審査を申し立てている。

 同組合は、合成皮革などの廃棄物を排出する靴工場などの町内事業者が排出物の収集・運搬を専門業者に委託するため、1989年に設立した。一方、町は同年、同和対策支援事業として産業廃棄物排出業者補助金交付要綱を定め、組合員が廃棄物の処理を業者に委託するための経費の一部を補助してきた。

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