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地域の埋もれた問題に光を当てる取材と報道


第3回「奈良の声」読者会の報告~読者が開く読者の集い

ジャーナリスト浅野詠子

視点)渇水を機に考える 大滝ダムに傾斜した奈良県の大型水道統合

水が枯れ水没した旧国道169号や橋脚が姿を現した大滝ダム貯水池=2026年4月12日、奈良県川上村、浅野詠子撮影

水が枯れ水没した旧国道169号や橋脚が姿を現した大滝ダム貯水池=2026年4月12日、奈良県川上村、浅野詠子撮影

 記録的な少雨により奈良県民の水がめ、大滝ダム(川上村、国土交通省)の貯水率が低下し、給水制限が行われている。ダム完成前の21年前にも、同じ吉野川(紀の川上流)の大迫ダムで渇水が心配された。以来、急速に進んだのは、県の推奨による水道施設の合理化で、比較的渇水に強いとされる地下水を水源とする奈良盆地の浄水場が現在までに11カ所、廃止されている。

 大滝ダムの貯水池横断橋、武光橋。この地点に立つと、水没した旧国道169号や旧橋が姿を現す。

 21年前の2005年6月、春からの少雨により県は渇水対策本部を設置した。大滝ダムは当時、地滑り発生に伴う対策工事により完成が遅れていた。すぐ上流にある大迫ダム(農業用水、県営水道)の貯水率は36%まで低下。県は県営水道の送水を10%カットする給水制限を実施し、夏を乗り切った。

 その6年後、県営水道の財務をテーマに県の包括外部監査が行われた。吉野川に完成した大滝ダムについて監査人は「給水能力の増加をどう活用するか」という視点を前提にし、渇水の経験は問わなかった。

 荒井正吾知事(当時)の肝いりで、県内の広い地域を対象に大型水道統合の協議が2018年、始まった。28市町村の首長が協議に参加(うち2市は後の統合に参加しなかった)、県は奈良盆地からすべての地下水浄水場を廃止する合理化案を打ち出した。

 ダウンサイジングやファシリテイーマネジメントなどのカタカナ語が並ぶ当時の会議資料。浄水場廃止などに伴う「(運営費の)削減額は800億円」(後に修正)と明記されていた。

 大滝ダムは統合後の主要な水源に位置付けられたが、2005年の渇水が統合協議で話題に上ることはほとんどなかった。

 県広域水道企業団(特別地方公共団体)が設立され、水道統合が実現した2025年度、少雨により、頼りにしていた大滝ダムに水がたまらず、貯水率は一時、数パーセント台まで低下。給水制限に至ったのは、一つの試練だ。

 30年に1度の渇水などともいわれるが、大滝ダムは2013年に完成したばかり。運転歴は13年しかない。

 2005年の渇水では、大和川水系にある県営のダムが堅実に水をためていた。渇水対策本部が設置された時点で、初瀨川上流の初瀬ダム(桜井市)はほぼ満水、布留川上流の天理ダム(天理市)も70%の貯水率を保っていた。

 一方、県は、水道統合の効果額を算定する上で、これら2ダムを水道水源とする2つの市営浄水場を廃止する方針を打ち出し、企業団はこれを継承した。

奈良盆地には多くの地下水浄水場があった

 県水・大気環境課が2008年度に取りまとめた資料によると、当時、奈良盆地には水源を地下水とする市町村営浄水場は少なくとも18カ所、存在した。

 以来、県が市町村に対し、直営の浄水場を廃止して県営水道(水源・ダム)の水を買う方が経営にプラスと助言してきたため、統合段階で地下水浄水場は7カ所までに減っていた。今後はさらに、水道統合の効果額を出すなどの目的で、同企業団は豊井浄水場(水源・天理ダム)、櫛羅浄水場(水源・御所市内の地下水)など5カ所の主要浄水場を廃止する方針だ。

 同企業団は地下水浄水場については最終的に2カ所を残す。うち1カ所は生駒市の真弓浄水場。奈良市の統合不参加により、潤沢な同市の水道水を生駒市に導水する構想がつまづくなどした。もう1カ所は大和郡山市の昭和浄水場。統合参加に慎重な市を参加させる上で、市民の地下水浄水場存続要望に応じた形にしたようだ。

 大和郡山市の2018年6月の市議会定例会。理事者側は「地下水は一般的に供給が安定しており、渇水、地震、台風等自然災害に対して有利であると考えられている」と答弁していた。

 1960年代に奈良盆地中西部で始まった西大和ニュータウン開発に携わった奈良市の元会社員は「奈良の水道はおいしいとPRしたこともある」と回想する。

 近隣の王寺町はかつて、年間約120万トンの地下水をくみ上げ、自前の浄水場に導水し、町内に給水していた。周辺でも広陵町は120万トン、斑鳩町は100万トン、河合町は34万トン、平群町は16万トン(いずれも2008年度、県調べ)の地下水取水量があったが、いずれの浄水場も廃止された。

 ほかにも三郷町内の「とっくりダム」(治水・砂防などの多目的ダム、国、県、町の合併施工)は2018年度をもって水道水源としての利用に終止符。今年4月には大和郡山市の北郡山浄水場(水源・地下水)が廃止になった。生物接触ろ過施設(3池、1日最大処理量9600トン)を有し、2001年秋の完成時、市は「環境に配慮した21世紀の浄水システムにふさわしい施設」と説明していた。

 桜井市の倉橋ため池(農業用水、1957年完成)や地下水、初瀬ダムを原水とする外山浄水場は来年度、廃止される。

 人口が今より多く、大滝ダムが運転を開始していなかった時代。奈良盆地の市町村は、自己水を開発し、併せて県営水道(水源・室生ダムなど)を受水しながら単独で水道事業を営んでいた。

県が絶賛する吉野川分水

 小規模市町村が抱える赤字水道を一掃した県主導の大型水道統合。荒井前知事の行政手腕が発揮された。統合に当たって、資産を多く供出した市町村ほど優先的に水道施設を耐震化できるルールにした。

 県は昨年、大迫・津風呂の2ダムがためた水を奈良盆地に引く吉野川分水のパンフレットを作成し、ウエブ版も公開している。

 分水は吉野川流域に雨がたくさん降ることを前提としている。水道統合の母体である旧県営水道の原点でもある。パンフレットは、少雨気候の奈良盆地に水を送れるようになったことを「300年の悲願成就」と絶賛する。現在、節水のため、消防の放水訓練なども自粛されている中、分水の美談は別世界のことのよう。

 山下真知事は先月22日の定例会見で「農繁期を迎える中、このままの水道の使用状況が続けば、配水池の貯水分が枯渇して、地域によっては水が出にくくなる、あるいは、断水が発生するといった県民生活や事業活動への影響が心配される」と述べて節水を呼び掛けた。

 吉野川分水のパンフレットは、節水の啓発に水を差す懸念はないのだろうか。

 作成した県農村振興課は、紀の川渇水連絡会(事務局、国交省)のメンバー。同課は「パンフレットは、奈良盆地に住む人々に吉野川分水の歴史や意義を知ってもらおうと作成した。分水は都市部ではあまり知られていない。渇水の対策とは趣旨が異なる取り組みで、節水の啓発に水を差すような懸念はない」と話す。

 分水の基幹施設である農林水産省の大迫ダムは1973年の完成。村への財政支援が法令に基づき手厚くなった大滝ダム事業と異なり、地元、川上村に対する国の支援は乏しい時代だった。村が要望したわけでもないダム建設に翻弄された行政と村民の苦境を村が記録した「大迫ダム誌」は貴重。完成から3年後、水没世帯の戸主の名を刻んだ記念碑除幕式に南本典保村長、大谷一二議長(後の村長)の姿はなかった。

地滑り、放流抑制、貯水率低下

大滝ダムの建設で水没する前の川上村中心部。高台では移転先の造成が進む=1987年ごろ、浅野詠子撮影

上の写真と同じ位置から写した現在の大滝ダム貯水池。水位が下がり水没したダム建設工事用の土砂運搬道(右下)が姿を現した=2026年4月22日、浅野詠子撮影

【写真上】大滝ダムの建設で水没する前の川上村中心部。高台では移転先の造成が進む=1987年ごろ/【写真下】上の写真と同じ位置から写した現在の大滝ダム貯水池。水位が下がり水没したダム建設工事用の土砂運搬道(右下)が姿を現した=2026年4月22日(いずれも浅野詠子撮影)

 川上村は、日本を代表するスギ、ヒノキの産地の一つ。これらの木は優良住宅材として知られる。一方で大迫、大滝の2ダム建設により650世帯が立ち退きとなった。村民と国家が激しく対立した時代はすでに遠く、村政が「水源の村」を掲げて久しい。

 大滝ダムは工事に半世紀が費やされた。着工当時、大洪水を受け止める器として、併せて、都市部で需要がうなぎ登りの水道水の水源として、国は有用性を盛んに宣伝した。まるで夢の公共事業である。県は多額の負担に甘んじた。

 大迫ダムを巡っては1982年、豪雨に伴う緊急放流で釣り人や川原のキャンプ客ら7人が流され溺死。大滝ダムを巡っては試験湛水中の2003年、貯水池に面した集落で地滑りが起こり、白屋地区では37世帯が立ち退くに至った。いずれの場合も遺族や住民が国を相手取って裁判を起こし、国の事業に瑕疵(かし)があったことが認定された。

 大滝ダムは伊勢湾台風の被害を契機とし、150年に1度の豪雨に備えることを名目に建設された。大規模構造物の出現で歴史ある集落と清流が水没した。しかし、下流の和歌山県側の紀の川に堤防が未整備の区間があることから、洪水調節の放流量を抑制せざるを得ず、治水に課題を残している。2020年6月、「奈良の声」の報道によって明るみになった。

 今年2月の県広域水道企業団議会定例会では、地下水浄水場の価値に言及する意見が複数の議員から出た。

 一方、浄水場の廃止計画を見直すと、新たに発生する浄水場の更新、耐震化費用などにより、現行の料金水準は上昇する可能性もある。

 料金が上昇すれば、利益は内部留保として積み上がり、将来の水道を強靱(きょうじん)にする原資になる。公営水道の内部留保は「公共的必要余剰」と呼ばれることもある。

 これからの水道水源の在り方は、企業団議会でしばらくくすぶりそうだ。

 ただし、水道の消費者である県民が、いつまでもかやの外にいてよいのかどうか。水道統合に参加した26市町村のうち、住民説明会を開いたのはわずか2市。ほかの市町村は「議会の了解を取り付ければ十分」という対応で済ませた。

 こうした住民への説明に消極的な姿勢は、統合後の企業団に受け継がれるだろう。水道が暮らしから遠くなる。渇水と同じくらい深刻な事態かもしれない。

筆者情報

給水制限で水源の在り方に関心 奈良県広域水道企業団議会、当局は「浄水場の廃止計画見直さず」と答弁

質問が相次いだ奈良県広域水道企業団2月定例会の一般質問=2026年3月31日、奈良市登大路町の県議会議場、浅野詠子撮影

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