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ジャーナリスト浅野詠子

奈良県山添村に残る戦前の種痘道具 映画「雪の花」の小道具の参考に 明治開業の診療所院長が保存

野村医院旧診療所で祖父らゆかりの種痘道具「乱切刀」を手にする野村信介さん=2025年1月27日、奈良県山添村大西、浅野詠子撮影

野村医院旧診療所で祖父らゆかりの種痘道具「乱切刀」を手にする野村信介さん=2025年1月27日、奈良県山添村大西、浅野詠子撮影

 幕末、治療法がなかった天然痘の予防接種、種痘を広めた町医者を主人公にした、松竹の1月24日封切りの映画「雪の花―ともに在りて―」(小泉堯史監督)に登場する種痘道具の小道具は、奈良県山添村大西の診療所院長・野村信介さん(67)が保存している戦前の「乱切刀(ランセット)」が参考にされた。

 野村さんは、曾祖父が明治時代に開業した野村医院を継承する4代目。1897年建築の旧診療所建物(国登録有形文化財)を保存し、明治の注射器をはじめ100年前の血圧計、象牙の聴診器など、地域医療に貢献した多数の医学資料を同建物の中で保管。太平洋戦争中に往診で使われた自動車も残っている。

野村さんのホームページに掲載されている種痘道具「乱切刀」の写真。松竹の小道具担当者が山添村内に保存されていることを知るきっかけとなった

野村さんのホームページに掲載されている種痘道具「乱切刀」の写真。松竹の小道具担当者が山添村内に保存されていることを知るきっかけとなった

 松竹から連絡を受けたのは2023年。小道具の担当者が訪ねてきて、「乱切刀」を手に取って「忠実に再現し、撮影に役立てたい」と貸し出しを願い出たという。

 「乱切刀」は、曾祖父と祖父(共に明治生まれ)の両方が使っていた可能性があるという。長さ9センチ。人体に痘苗(天然痘ワクチン)を接種するための道具で、先端の尖った刀部分が3センチ、これを収めるさやの部分はべっ甲でできていて6センチ。

「映画で『乱切刀』が出てくる場面はほんの一瞬。監督の小泉さんはコンピューターグラフィックスを使わないと聞き、画像細部へのこだわりが伝わってくる」と野村さん。

 映画の原作は吉村昭の同名小説。松竹の小道具担当者は、野村さんが開設しているホームページから医院が保存する「乱切刀」を知ったという。野村さんは、三重県での勤務医を経て、7年前に医院を継承。現在、村議も務める。

 野村さんは「医院が保存するものの中には、腰や肩の激痛を緩和する電池式電気治療器があり、山添村の昔の農作業がいかに重労働だったかが忍ばれる。映画の主人公、笠原良策は、多くの悲劇を目の当たりにして慟哭(どうこく)したと思う。祖先の道具を大事に保管して映画の封切りを迎え、うれしい」と話す。

戦前の医療器具が多数保存されている野村医院旧診療所=2025年1月27日、奈良県山添村大西、浅野詠子撮影

戦前の医療器具が多数保存されている野村医院旧診療所=2025年1月27日、奈良県山添村大西、浅野詠子撮影

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