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ジャーナリスト浅野詠子

ヘイトスピーチ規制の奈良県条例求め集会 解放同盟県連

ヘイトスピーチを規制する奈良県条例の制定を求め、基調提起をする坂本憲秀・部落解放同盟県連書記長=2025年3月25日夜、奈良市大安寺1丁目の県人権センター、浅野詠子撮影

ヘイトスピーチを規制する奈良県条例の制定を求め、基調提起をする坂本憲秀・部落解放同盟県連書記長=2025年3月25日夜、奈良市大安寺1丁目の県人権センター、浅野詠子撮影

 社会のマイノリティーなどに向けて発せられる冷酷残忍な憎悪表現(ヘイトスピーチ)が後を絶たない。部落解放同盟奈良県連合会は3月25日夜、奈良市大安寺1丁目の県人権センターで「県ヘイトスピーチ規制条例を求める県民の集い」を開いた。日ごろ、地域の環境問題や女性の権利擁護などに取り組む住民ら157人が参加した。

 同県連委員長の伊藤満さんは14年前、御所市の水平社博物館前で起きた街頭差別事件を振り返り、「『非人出てこい』と小1時間にわたるヘイトスピーチが続いた。訴訟では博物館に対する妨害行為が認定され、博物館の名誉を毀損(きそん)したとして罰金が命じられた。しかし判決は、差別があったという判断を避けた」と無念の思いを語った。

 基調提起をした同県連書記長の坂本憲秀さんは「最近では、埼玉県川口市周辺で暮らすクルド人を対象にしたヘイトスピーチが深刻化している」と述べた。インターネット上には、奈良県の被差別部落を特定する動画などが投稿されている。在日外国人や障害者、アイヌ、性的マイノリティーなどに対する憎悪むき出しの発言により、攻撃され傷ついた人たちの心は、容易に回復されないという。

 知事と同等の権限を有する政令市の神奈川県川崎市が2019年に制定した条例は、差別的言動を繰り返す者に最高50万円の罰金を科すことができる。坂本さんは「国が講じたヘイトスピーチ解消法施行後も深刻な事態は変わらない」とし、奈良県という自治体がヘイトスピーチを含む差別の定義を有し、かつ差別禁止の実効性を担保する罰則規定を設けた条例が急がれると訴えた。

 日朝親善奈良県議会議員連盟の議員、奈良朝鮮学園の担い手、社会福祉事業の運営者らも意見を述べた。

 水平社博物館事件の裁判で差別を受けた人たちの側の代理人を務めた古川雅朗弁護士は「刑事罰は導入すべきだが、表現の自由から慎重に考える人々は敵ではなく、十分な対話が大事だ。ヘイトスピーチに対する問題意識のない人々も敵ではない。話が通じるように広がっていくことが大事」と述べた。同県連副委員長の松谷操さんの音頭でがんばろう三唱をして閉会した。

 この日の集いに先立ち、県内の人権問題などに取り組む16の市民団体でつくる「県ヘイトスピーチ規制条例制定を実現する会」(加来洋八郎代表)は昨年5月と8月、同条例の制定を求める要望書を山下真知事と県議会議長宛てに提出、ヘイトスピーチ根絶に向けた思いを伝えている。

 県議会は2014年、衆参両院議長や内閣総理大臣などに提出する「ヘイト・スピーチ(憎悪表現)に反対しその根絶のため法規制を求める意見書」を全会一致で可決している。

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