記者余話)奈良県水道一体化巡り知事自ら作成のグラフ 43日間の開示延長を振り返る
奈良県庁=奈良市登大路町、資料写真(浅野善一撮影)
奈良県は昨年度から情報公開制度を「有料化」した。面白半分で公文書を大量に請求するなどの不届き者がいることから、利用者全員が費用の一部を負担することになった。では別の角度から公開制度を見てみる。
山下真知事は2023年7月、初当選後に最初の参加日となった県広域水道企業団(一部事務組合)設立準備の第1回法定協議会で自身が作成した水道広域化の将来試算を示す1枚のグラフを示した。
「将来は純資産がマイナスになる。持続可能性に一抹の不安がある。料金の初期設定が安すぎるからそうなるのでは」と厳しく批判した。「たとえ開始時期が1年遅れても合意形成が大事」とまで言い切った。
このグラフを入手するため記者が県情報公開条例に基づき、開示請求したところ、43日間、決定の期日が延長になった。
結果的に文書は開示されたが、県水道局の担当者はこのグラフについて「誤りがある」と断った。
山下知事は、純資産の算定式を間違えていた。資産と資金期末残高を混同し、また、純資産と負債を混同している表記もあった。
一目で不正確と分かるグラフを示して「県域水道一体化構想は甘い」などと言われても、会場にいた26市町村長は戸惑ったに違いない。
結局、県幹部の説得を受けて、知事はわずか3カ月足らずで前荒井正吾知事が敷いた一体化路線を踏襲(26市町村水道と県営水道の2025年4月からの統一料金による事業開始)。知事が主張した3年に1度の料金見直し構想もどこかに消えた。
その上、山下知事はこうした重要な会議の一部で、報道陣を閉め出した。2025年6月から、県の行政文書を開示請求すると1件300円の手数料が発生することになった。知事は定例会見で「有料化」の必要性を強調した。二つの出来事は、「知る権利」に微妙な陰を落としているという点でつながっていそうだ。
誰でも利用できるオープンな仕組みであれば、邪悪な愉快犯だけでなく、人格に障害を負って繰り返し大量請求する者も現れることだろう。福祉職や心理職の協力が要る場面も出てくるかもしれない。それらも含め、情報公開制度の費用を民主主義のコストとしてどう捉えるか、県議会はもっと注視すべきだ。