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ジャーナリスト浅野詠子

奈良県情報公開制度「有料化」追随の動き 県広域水道企業団や香芝市でも

奈良県庁=奈良市登大路町、浅野善一撮影

奈良県庁=奈良市登大路町、浅野善一撮影

 奈良県は昨年6月から県情報公開条例に基づく開示請求1件につき300円の手数料を取るようなった。これを受け、今年4月から事業を開始する県広域水道企業団も同額の手数料を制度化した。香芝市も300円の手数料を取るための条例改正案を開催中の市議会3月定例会に提出している。

 都道府県の中で奈良県は、情報公開の制度化が最も遅かった。トップの神奈川県(1983年施行)の比べ、13年も遅れを取った。運用の歴史が浅いのに、「有料化」にかけては先頭を行こうとしている。県法務文書課は、近年の都道府県の事例としては岩手県の手数料(1件300円、2023年から)以外に把握していないとしている。

 手数料を導入した山下真知事はかつて生駒市高山地区の開発計画見直しを求める住民投票運動や公費監視団体「見張り番」への参加など、情報公開制度を利用する側から経験している長の1人だ。

 昨年9月の知事定例記者会見で、県への開示請求は2023年度に3010件あり、その半数近くが乱用的な請求だったことを明らかにした。

 一方、これから事業が始まる広域水道企業団に、こうした悪意の請求者が現れるかどうかは分からない。水道統合に参加した26市町村の大半が、情報公開制度の手数料は無料。直営を廃して、特別地方公共団体の企業団に参加するに当り、住民サービスが低下しないよう努めることを理事者側は議会に伝えている。

 手数料を定めた県水道局・県域水道一体化準備室は「企業団の参加市町村(26団体)の情報公開条例はばらつきがある。広域団体である県並みの条例が妥当であり、企業団議会の理解も得られた」と話す。

 企業団議会(吉田雅範議長、定数38)は2月20日の臨時会で、専決処分されていた情報公開条例を異議なく承認した。議員から手数料の在り方について質疑はなかった。

 記者は昨年10月、ある一部事務組合にどの程度の金額の国庫補助金が交付されているのか、国との橋渡し役をした県に対し開示請求した。県のアプリを利用し、オンラインで申請した場合は1件200円。請求文書は4件と数えられ800円を支払った。複写は13枚。白黒で1枚10円。複写代は1件当たり200円までは手数料が充当されるが、以前の制度なら130円を払えばよかった。

 近畿では和歌山県が2013年、他の府県に先駆け、手数料の制度化に踏み切った。やはり同県も大量請求などの乱用に悩まされていたという。制度化に当たって、仁坂吉伸知事(当時)は、有料化と同時に情報公開相談員の制度を創設。県民らが知りたいと思う公文書を特定する上で職員が助言できる仕組みで、現在、出先機関も含め168人の相談員の氏名と連絡先を県のホームページで公開している。

 情報公開制度の運用は、自治体のカラーが出ることもある。元総務相の片山善博氏が鳥取県知事時代、県民らの開示請求に対し「文書不存在の決定を安易にしてはならない」と職員に訓示し、不存在の決定が予定されていた部署に知事自らが立ち会って点検したこともあった。

 記者の経験では、奈良県から文書不存在の通知があった文書が後に見つかったことがあった。県情報公開審査会の判断により、黒塗りの不開示部分が開示されたこともある。改正後の県条例では不存在(行政処分)の場合も手数料がかかる。正当な不存在なのか誤廃棄だったのか、作成の努力を怠ったのか、県民はなかなか知ることができない。

情報公開制度、都道府県で最後だった奈良県

 奈良県の情報公開条例施行は1996年。青森県と最下位を争っているといわれたが、青森の条例施行は9カ月早かった。

 条例の制定年を比較すると、愛媛県が最後になるが、同県はそれまで要綱で運用していた。奈良県の情報公開制度が遅れた最大の要因は、県議会が強く要請してこなかったからだ。

 国の行政文書の公開制度はさらに遅く、2001年の法施行となった。その前夜には霞が関の各官庁で相当量の公文書が廃棄されていたといわれる。

 国の手数料は300円で、収入印紙で納付するのが原則。請求する文書が30枚を超えると白黒1枚当り10円の印紙で納付する。記者はかつて10円、20円単位の印紙を最寄りの小規模郵便局で買い求めることができず、遠隔地の本局まで出掛けたことがある。

 また、国公立医療でも、大阪府立病院などでは情報公開手数料はかからないが、独立行政法人の国立病院機構などは金融機関からの現金納付となるため、300円の手数料に加え、400円の振り込み手数料がかかる。

 香芝市は有料化の理由について「制度の利用適正化に向け、既に手数料が定められている国や奈良県に倣った」としているが、県の動きに同調し、有料化が広がる懸念はないだろうか。

 中核市の奈良市はかつて悪意ある大量請求の被害を受け、2012年、権利の乱用を禁止し、乱用が疑われる請求を拒否できるよう条例を改正した。担当の総務課は「請求件数の目立った増減はないが、職員採用試験の結果や再任用の経緯の情報など面白半分の開示請求はある。手数料の導入は検討していない」と話す。

 大和郡山市は2020年、何人も開示請求ができるよう条例を改正。担当の総務課は「手数料の導入は検討していない。請求件数の目立った増減はなく、悪意の大量請求や面白半分の請求は起きていない」と話す。

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