コラム)「本気の政治改革」で手取り増/川上文雄のじんぐう便り…15
アイリス、枯葉、落花生(生駒産)の殻(撮影2024年11月26日)
10月27日に投開票の衆議院選挙。もし、立憲民主党の選挙スローガンが「政権交代こそ、最大の政治改革」ではなく「本気の政治改革で手取を増やす」(「手取りを増やす」でなければ類似の語句)だったら? 結果はどうなっていたでしょう。実際は、獲得議席数はかなり増えたけれど、比例区の得票数は前回より微増にとどまった。政治改革と手取り増をセットにする発想がなく、今後に課題を残しました。
国民民主党は「手取りを増やす」のスローガンで大躍進。比例区の得票数が激増、獲得議席は公示前の7から28に激増。それでは政治改革はどうなるのか。本気の政治改革をめざして、奮闘努力してくれるでしょうか。
本気の改革とは、企業・団体(業界団体など)の政治献金の禁止です。禁止には、自民党への献金の受け皿になる政治資金団体(国民政治協会)からの献金も含めます。これらを禁止することと「手取り増」は表裏一体です。「手取りを増やす」に共感した有権者にも、このつながりに気づいてもらいたいです。
「本気度」見きわめる
企業・団体の政治献金の問題点とは? 立憲民主党の主張は「資金力が強いか弱いかで、政治への影響力や発言力に差が出てしまい、資金力の弱い業界や人の声はますます政治に届きにくくなり、その分野の政策も後回しになるということが長年続いてきた」。もっとあからさまに、個別の企業との癒着、利権が発生することもあるでしょう。そちらに大切なお金が流れる。その分、国民の生活に根ざした必要事項への予算配分が減少する。「手取り増」を実現するためのさまざまな施策の財源が減る。
本気の政治改革かどうか。選挙公約のどこかに「禁止」と書いてあっても、本気かどうかは、まだわからない。選挙後の各政党の行動を注視する必要があります。
選挙公約をみるかぎり、企業・団体からの政治献金禁止について賛成の野党(立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、れいわ新選組、日本共産党、社民党―漏れがあったらおわびします)の議席数が衆議院で過半数。これらすべての政党が本気だったら、共同で禁止法案を提出して、可決することができる。
各政党の今後の発言・行動が注目されます。「全ての政党が禁止で一致する場合は反対しない」とか「自公も禁止に賛成する場合は賛成する」と発言するだけならば、その政党は本気でありません。
野党の足並みが乱れているとの報道がありましたが、野党第一党の立憲民主党の力がためされている状況があると思います。「手取りを増やす」で躍進した国民民主党の動向を特に注視したいです。
もちろん、次に参議院があるけれど、これは自公の議席が過半数なので、法案は不成立。しかし、来年の7月ごろ参議院選挙があり、争点にできる。その時は「本気の政治改革で生活向上」とか、それに類似したもので有権者に訴えます。
「手取り増の先」見すえる
ところで、「手取りを増やす」にひかれて投票した有権者に考えてほしいことがあります。その先を見すえて政治改革を考えてほしいのです。「『年収103万円の壁』上げ幅 自公国攻防」という新聞記事(毎日2024年11月23日)があったけれど、これは手取り増の枠の内部での攻防。実は、そのこと自身が壁を作っている。もっと求めていい。私たちの生活の質、日本経済・社会の質の向上を求めていい。
そのことと本気の政治改革、つまり企業・団体の政治献金禁止はつながっています。すでに書いたとおり、「資金力の弱い業界や人の声はますます政治に届きにくくなり、その分野の政策も後回しになる」。「私たちの生活の質、経済・社会の質」ということで、どのようなことを求めるのか。「たとえばこんなもの」という程度の例示にすぎないけれど(もっといいものがあるかもしれません)、以下の6つの「問いかけ」を記しておきます。
(1)経済が公正かどうか? (2)生活の質を上げるかどうか? (3)人材を無駄に使っていないか? (4)安全に配慮がなされているか? (5)地球の資源を浪費していないか? (6)働きがいのある雇用を生んでいるか?(カトリーン・マルサル「アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か? これからの経済と女性の話 」、2021年、河出書房新社、236~237ページ)。
各自が独自の「問いかけ」を加えるもよし(「職場ハラスメント〈虐待〉対策は十分か」など、どうでしょう)。あるいは減らすもよし。そのなかから「手取りは増えているか」に加えて何をいくつ選ぶか。選んだ後は、政党の選挙公約を読んで、その実現に向けての本気度がしっかり伝わってくるか、確認する。
「本気の政治改革」を放置しないで、私たちの意識を生活の質、日本経済・社会の質の向上に向ける。政治改革は、私たちの意識改革の問題でもありそうです。
【追伸】
マルサルの「6つの問いかけ」については、「川上文雄のじんぐう便り」の第13回「選挙権は1本の『蜘蛛の糸』」の末尾で詳しい説明があります。 こちら
(随時更新)
かわかみ・ふみお=奈良教育大学元教員、奈良市の神功(じんぐう)地区に1995年から在住