人身拘束の広範囲な裁量を容認 医療観察法鑑定収容の国賠訴訟で原告側訴えを棄却 東京高裁判決
医療観察法の運用により必要のない鑑定入院を強いられたとして、40歳代の男性障害者が国に慰謝料などの損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が16日、東京高裁(近藤昌昭裁判長)で言い渡され、収容は妥当だったとする一審判決を支持し、原告の訴えを棄却した。
弁護団「判決は人身の自由についての根幹に触れていない」
医療観察法は、傷害などの他害行為に対し、精神障害のため不起訴や無罪になり、刑事責任を問えなかった人を収容して、強制治療を行うことなどを目的としている。
男性は2011年11月、スーパーマーケットの入り口付近において、すれ違った女性の体を押して転倒させ、頭部にけがをさせた疑いで送検された。検察官は事件の発生から754日目に医療観察法の申し立てを行い、男性は身柄を拘束され、58日間にわたって、東京都内の精神科病院に鑑定入院していた。
精神鑑定の結果、知的障害および発達障害と診断され、同法の規定する強制医療の対象にならず、釈放(地裁の不処遇決定)された。
男性は、58日間の鑑定入院について「必要のない収容だった」と訴えた。特に、うち10日間は、鑑定が終了したにもかかわらず、留め置かれていた期間だった。
いわゆる空白が指摘された10日間の収容に対し高裁判決は、処遇を決定するために裁判官と判定医が行う合議のために必要な日数であると是認し、医療観察法の身柄拘束についての広範囲な裁量を容認する判決となった。
男性の弁護団「医療扶助・人権ネットワーク」事務局長の内田明弁護士は「医療観察法は手続き規定に乏しく、憲法に抵触する運用がなされている。高裁判決は人身の自由についての根幹には何も触れておらず、対応を考えたい」と、支援する人たちに述べた。
傍聴席で判決を見守った男性の家族は「収容が決まったときは、こんなに簡単に人間の自由を奪う仕組みがあるものかと大変驚いた。裁判を通して、医療観察法を一人でも多くの報道関係者や政治家に知ってもらいたいと願うようになった」と話した。 続報へ