探る)リニア駅誘致ライバル2市の共同要望 「知事の“オール奈良で”に賛同」 奈良市長述べる
左上から時計回りに、2022年8月30日の定例会見に臨む仲川げん奈良市長、同市のリニア駅誘致を訴える看板、2022年3月18日の大和郡山市議会定例会で共同要望について答弁する上田清市長、同市のリニア駅誘致を訴える看板
リニア中央新幹線の「奈良市付近」中間駅の誘致を競ってきた奈良、大和郡山の両市長が今年2月18日、一転、「結束」をうたう連名の共同要望書を荒井正吾知事に提出した。きっかけは何だったのか。仲川げん奈良市長は「奈良の声」の取材に対し、「知事の“オール奈良で”との話に賛同した」と述べた。
共同要望の目的は候補地の一本化ではなく、まずは奈良県への駅誘致の実現に向け両市が結束を図ることとされる。
しかし、両市のどちらから声を掛けたのか、または知事の意向があったのか、両市と並んで駅誘致に名乗りを上げている生駒市には声を掛けなかったのか、なぜ急いだのかなど、県民には分かりにくい面がある。本記事で共同要望に至る過程を明らかにしたい。
【共同要望書】
奈良県知事 荒井正吾様
リニア中央新幹線「奈良市附近駅」の設置に関する要望書
リニア中央新幹線は、東京・名古屋・大阪の三大都市圏を超高速で結ぶ国家的プロジェクトであるとともに、奈良県の発展にとって、またとない大きな飛躍の機会です。
全国新幹線鉄道整備法に基づく1973年の「基本計画」及び2011年の「整備計画」では、「奈良市附近」が主要な経過地として明確に記されています。
現在、事業主体であるJR東海が東京・名古屋間の建設工事を進めていますが、国においても、リニア中央新幹線の整備効果をより早期に発現するため、2016年に、大阪までの全線開業につき当初の2045年から最大8年前倒しを可能とする制度改正が行われました。
これまで奈良市及び大和郡山市では、それぞれの候補地への駅設置を求め、各々で要望活動を行ってきました。しかし、駅位置やルートの確定に向けた環境影響評価手続きの開始を見据え、今後、二次交通等を含めたアクセスや駅周辺のまちづくりの具体的な検討に着手する観点からも、本県の候補地として一致結束して取り組むことがますます重要となっています。
そこで、こうした情勢に的確に対応し、リニア中央新幹線の整備効果を奈良県全域の発展に生かし、ともに未来を切り拓く観点から、「奈良市附近駅」の設置を要望いたします。
貴職におかれては、奈良県民長年の悲願であるリニア中央新幹線「奈良市附近駅」の設置実現に向け、引き続きご尽力いただきますよう、強く要望いたします。
令和4年2月18日
奈良市長 仲川げん
大和郡山市長 上田清
仲川市長は8月30日の定例会見終了後、「奈良の声」のぶら下がり取材に応じた。「奈良の声」は、定例会見への参加は認められているものの、質問は認められていない。
市長によると、駅誘致の取り組みの在り方ついて知事から話があったのは今年1月。市長が年始のあいさつで訪ねた際、知事から「自治体同士が綱引きをしているような、ばらばら感があり、JR東海に対してもネガティブな印象になっている」と懸念が示されたという。
市長が「みんなで誘致しようという気持ちは私たちも持っている」と応じたところ、知事から「それなら大和郡山市長にも声を掛けて、それぞれがばらばらに誘致の看板を掲げるのではなく、原案の奈良市付近という表現に留め、タッグを組んでオール奈良でウエルカムという雰囲気を出した方が良いのでは」との提案があり、賛同したという。
仲川市長は「知事の方から大和郡山市にも声を掛け、大和郡山市もそれで良いということになったようだ」とした。両市と県3者の事務方の担当者で協議する中で、看板デザインやスローガンの統一が検討され、取り組みの第一歩として共同要望書の提出が決まったという。
要望書の文面は県
要望書の文面を考えたのは県だった。「奈良の声」が今年5月、両市と県それぞれに対し、リニア駅誘致に関し2021年度以降に3者の間で行われた協議の内容について、開示請求したところ、この間の電子メールの送受信内容が開示された。
それによると、今年1月末、県リニア推進・地域交通対策課から奈良市観光戦略課と大和郡山市企画政策課に対し、共同要望書の案、共同要望の趣旨などをまとめた資料、報道向けの想定問答が送信されていた。県は両市長に対し直接、案の説明も行っている。
県による要望書作成の経緯について、奈良市観光戦略課は「共同要望は初めてのことで、県に助言をお願いした。両市がそれぞれ提出してきたこれまでの要望書を反映してもらい形にしてもらった」と説明。大和郡山市企画政策課は「要望書はどちらの市に偏ってもいけない。両市ではまとめるのが難しく、客観的になるよう上位団体の県に仰いだ」と話す。
これに対し、県リニア推進・地域交通対策課も「市町村から国や県への要望書を見てもらえないかと相談を受けることはある。上下関係でなく、相談を受けたら文面を調整するのが自然」とする。
誘致推進団体へは事後報告
駅誘致に向けて活動してきた両市それぞれの団体では、要望書提出は事後報告の形になった。
仲川市長が会長を務めるリニア中央新幹線奈良駅設置推進会議は、共同要望の2カ月前の昨年12月21日に、奈良市内への誘致を求める要望書を知事に提出したばかりだった。市観光戦略課によると、会議の開催は例年12月だが、2022年度は開催を4月に早め、共同要望書提出について報告したという。同課は「共同要望は市長名で行っており、総会を待つ必要はなかった」とも述べた。
「『奈良県にリニアを!』の会」(会長・亀田忠彦橿原市長、会員・県内36市町村)も昨年10月に、大和郡山市への駅誘致を掲げた提言書をまとめたばかり。市企画政策課によると、今年8月9日に開かれた総会で、上田清市長は、共同要望について事前に会に諮らなかったことについて、申し訳なかったと謝罪。亀田会長も、皆さんを不安にさせた責任を感じると述べたという。
生駒市への声掛け
生駒市に声を掛けるかどうかを巡っては、奈良市が県に対し、今年1月末のメールで、共同要望について県から生駒市にはどのように連絡しているのかを尋ねている。県から生駒市への連絡はなかったとみられ、小紫雅史生駒市長は今年2月22日の月例会見で、共同要望について事前に連絡はあったのかとの質問に「奈良市からあった」(市ホームページから)と答えている。
仲川市長も、今年4月のリニア中央新幹線奈良駅設置推進会議で「生駒市へは私から情報提供し、よければ一緒にやりませんかという提案はさせていただいている」(会議録から)と報告している。
なぜ急いだのか
共同要望書が知事に提出された2月18日には、両市長からの発表はなかった。同月21日の県の新年度予算案発表会見で、知事の口から明らかにされた。知事は、リニアとの関連を強く意識したという予算編成の特徴を説明する中で、要望書を紹介した。
県と奈良市のメールでのやりとりによると、遅くとも2月10日には、18日の要望書提出と21日の新年度予算案発表会見での公表が決定していた。
なぜ急いだのか。仲川市長は「何かを控えているから急いだというわけではなく、知事が国交省やJR東海と、多分、定期的に意見交換されている中で、私が知事からうかがったのは、JR東海としてはそろそろというタイミングなのに県内がまとまっていないのはちょっと気になる、というようなことだった。それなら早い方が良いだろうということだけ」と説明した。
真意ただす市町村も
大和郡山市に対しても上田市長への取材を申し入れたが、市は「個別の取材には応じられない」として認められなかった。代わりに中尾誠人副市長が9月15日、取材に応じた。
中尾副市長は共同要望に至る経緯について「駅について他の地域ではどんどん決まっており、残っているのは奈良だけ。県内の他の首長からも両市が一緒になれたらとの声があった。上田市長と仲川市長は定例市長会で席も近い。それで少しでも早く共同要望書を持っていこうとなった」と説明した。
また、「『奈良県にリニアを!』の会」の提言書が掲げてきたのは「1番目に早期開通、2番目に県内への中間駅設置、3番目に大和郡山市への設置。共同要望したのは最初の二つだけ」との見解を示した。ただ、他市町村からは「どういうことか」と真意をただす反応もあったという。副市長は「大和郡山を応援するという考えでやっておられた」と述べた。
同市では市の担当者が市町村に説明して回ったといい、副市長は「事前に総会を開くか、回覧するなどしておけば良かった」と反省も口にした。
知事は9月7日の定例会見で、2023年から予定されている三重、奈良、大阪の駅の環境影響評価で駅の位置がほとんど決まるとし、奈良の駅の候補地について「JR関西線に接続する平城山駅付近、JR新駅付近(奈良市八条・大安寺地区)、近鉄橿原線とJR関西線が交差する付近(大和郡山市本庄町)の三つをJR東海に幾度か打診している」(県ホームページから)と述べている。 関連記事へ