野鳥の生息環境に配慮を 花畑の整備進む馬見丘陵公園 地元の愛護団体が奈良県に要望書
県に要望書を提出した後、会見する「野鳥にやさしい馬見丘陵公園をめざす会」の人たち=2022年12月7日、奈良市の県庁県政・経済記者クラブ記者室
花の公園として整備が進む奈良県営馬見丘陵公園(河合町、広陵町)の在り方について、地元の野鳥愛護団体「野鳥にやさしい馬見丘陵公園をめざす会」(事務局、竹下栄・河合野鳥の会代表)がこのほど、荒井正吾知事に宛てて要望書を提出した。野鳥の生息環境に配慮して、里山の自然を残してほしいと求めている。
馬見丘陵公園は1991年4月に開設された。広さは56.2ヘクタール。馬見古墳群の範囲と重なっていて、近隣で進む大規模な宅地開発から自然や古墳群を保全することを狙いとして設置された。なだらかな丘陵に木立や草地が広がり、大小4つのため池がある。
チューリップの花畑が広がる県営馬見丘陵公園=2021年4月、奈良県河合町、広陵町
2014年策定の県植栽計画「なら四季彩の庭」は同公園について、「四季を通じてカメラを向けたくなる名所づくり」を掲げ、「芝生広場などにチューリップ、コスモスなどを群植し、花のパノラマ景観づくりを図る」を整備方針とした。
同公園では園内全域で季節に応じて花を植え替え、年間を通して花を楽しめるようにしている。県政の目標を定めた「奈良新『都』づくり戦略」の2022年度版も、前年度に引き続き「誇らしい花の公園に整備」を目標とした。
中でも春のチューリップは現在65万株を誇り、関西最大級という。荒井知事は2019年9月の定例会で「目標は100万株」と発言している。2020年度の来園者は過去最高の約111万5000人だった。
馬見丘陵公園で見られる野鳥の写真集(2021年12月「野鳥にやさしい馬見丘陵公園をめざす会」発行)
一方で「めざす会」によると、同公園には森、草地、ため池の水辺など多様な自然環境がそろっていて、たくさんの野鳥が見られるという。同会の構成団体の一つ「馬見鳥記録の会」などの観察によると、1年間に見られる野鳥は平均110種類、これまでに確認された野鳥は約160種類に上る。
要望書提出のきっかけは、ため池の岸の竹林の伐採。2020年1月、池のカモが「激減」していることに気付いた同会の竹下さんは、同公園を管理する県中和公園事務所に対し「水鳥の休息場所がなくなる」と中止を申し入れた。
竹下さんは、別の丘で林の下草や低木が刈られていることにも気付いた。これだと野鳥の下層の止まり木が減るほか、林の中が乾燥して餌となる昆虫やミミズなどの発生が少なくなり、外敵からも見つかりやすくなるという。
加えて特に危惧するのは、公園内で進む花壇や花畑の拡大。このままでは野鳥が生息できる場所を狭め、その種類や数が減少しかねないと懸念する。
要望書は「全域を花いっぱいにするのではなく、古墳と花と野鳥・自然を楽しめる公園として全国に発信してほしい」とし、四つあるエリアについてそれぞれの特色に応じた整備、維持管理を具体的に提案している。
中でも里山の多様な自然が多く残っているという中央エリアに対しては、現状以上に花壇や花畑などの人工物の範囲を拡大しないよう求めている。また、草刈りや小低木の伐採を行う際は、野鳥や昆虫の生息環境を壊さないよう配慮してほしいとしている。
春に向けてチューリップ畑の造成が始まっている県営馬見丘陵公園中央エリア=2022年12月8日、奈良県河合町、広陵町
中央エリアでは現在、チューリップ畑の規模が拡大している。中和公園事務所などによると、2021年には草地などを利用して新たに10万株が植えられた。
要望書は12月7日に提出。県側は村井浩副知事や公園緑地課の担当者が対応した。「めざす会」によると、県側は「公園の全面を花のエリアにしたいわけではない」などと述べたという。また、公園緑地課は「奈良の声」の取材に対し、「要望書は今後の整備の参考にさせていただく」とした。
要望書提出後に記者会見した竹下さんは「公園にはすでに花がいっぱい。せめて中央エリアは野鳥を大事にするエリアにしてほしい」と訴えた。
「めざす会」が要望書を提出するのは2度目。1度目は2020年6月に中和公園事務所に対し、野鳥に配慮した公園の維持管理、整備を求める要望書を614人の署名と共に提出した。また、同会は馬見丘陵公園のホームページに野鳥の観察情報を提供しているほか、同公園で観察された野鳥の写真展開催や写真集作成にも取り組んできた。 関連記事へ