視点)大淀町の参加、改めて考える 奈良県域水道一体化 協議団体で最も安い料金、豊富な自己水
大淀町の水道水源の吉野川=2023年8月11日、同町
企業団議会定数の行方案じる意見
奈良県域水道一体化計画を巡り、山下真知事が前知事時代の水道料金試算の見直しをするが、協議団体で最も料金が安く、自己水源豊富な大淀町の議会の一体化参加への判断が改めて注目される。
町営桜ケ丘浄水場は、日本一の多雨地帯、大台ケ原に源を発する吉野川の川沿いにある。下流の下市町には県営水道取水施設(主水源・大滝ダム)があり、県営水道と同じ吉野川から水を取っていることに変わりはない。
県営水道だけに依存せず、自己水源の比率が高ければ水道料金が低廉な傾向であることは、奈良市、葛城市、大和郡山市などで実証されている。ほかに料金の安さの要因が何かあるのか。
大淀町上下水道部の担当者は開口一番、「吉野川からすぐ近くのところに浄水場があることだ」という。加えて、北野台、南大和など町内で積極的に行われたニュータウン開発に呼応し移住してきた人々も、水道事業の基盤を支えることになったという。
今春の統一地方選で町議会の改選があった。新人議員は話す。「(一体化の受け皿の)企業団議会になると、私たちの町議会から一体何人の議員を出すことができるのだろうか。住民の声がどこまで反映されるのか心配だ」
一体化の構想を県が打ち上げたのは2017年10月。それから5年もたって、企業団議会の定数の議論が始まったが、記者が開示請求で得たその会議資料の主要部分が黒塗りだ。それまで県が重視してきたことの一つは、奈良市(一体化不参加)の水道料金より金額を下げる試算を例示し、給水人口最大の同市に何とか参加してもらう算段だった。
県水道局が開示した一体化協議の企業団議会のたたき台資料
こうした試算により、統合しても水道料金の抑制効果が期待できない葛城市(一体化協議から離脱)と大淀町に対しては、別料金のセグメント方式を荒井正吾前知事のときに容認している。
この企業団議会検討資料の中に「先行団体との比較」という一覧があり、大阪広域水道企業団(用水供給事業、一部で家庭などへ水道水を届ける事業)の定数を例示している。給水人口約600万人に対し、わずか33人の議会定数しかない。
しかし、大阪の事例を他県の水道企業団と単純に比較するのは無理がある。給水人口最大の大阪市が参加していない。2位の堺市も事業統合の枠組にはまだ入っていない。大東市、羽曳野市、河内長野市が近隣市との事業統合協議から離脱し、和泉市議会は今年3月の定例会で周辺市との事業統合案を否決した。府域一水道構想は、奈良県の水道広域化の検討にあまり参考にならない。
企業団議会の在り方は、料金試算と同じぐらい重要な事項だ。大淀町の岡下守正前町長は昨年の一体化協議で「水道の広域化はガバナンス(協治)が大事だ」との趣旨で意見を述べていた。
県が描いた吉野川流域4市町水道広域連携はご破算
県が2017年に公表した一体化構想では、県営水道を受水していない吉野川沿いの五條市、大淀町、吉野町、下市町の4市町と県による水平連携型の統合を目標に掲げていた。
2019年、県が策定し、県議会が議決した「新県域水道ビジョン」では、この連携を基に、吉野町営飯貝浄水場を廃止し、大淀町の浄水場が吉野町などに水融通するという構想を掲げた。
しかし2020年の一体化の協議では、これらの計画が消えていた。県が代わって提示した資料は、4市町の各浄水場を存続する方向になっていた。
大淀町の担当者は振り返る。「理論上、北野地区などの高台から吉野町上市方面などへ、大淀町が浄水した水道を送ることはできると思う。それよりも、4市町の水道料金の格差が著しく、県が示した広域化プランはメリットを見出すことが難しかった」
4市町とも、一体化の大水源・大滝ダム(川上村)のすぐ下流に当たる。ダムが着工した当時、伊勢湾台風クラスの激甚災害が再び発生してもびくともしないと国は説明していた。ところが、和歌山県側の下流の紀の川には堤防が未整備の地点が残っており、約束された150年確率の治水はいまだ達成されていない。
県は吉野川分水を絶賛し、大滝ダムに対していいことずくめの評価をしてきた。国土交通省近畿地方整備局は50年もの間、工事を続け、アユの釣り場にも影響した。
一体化に参加している26市町村中、水源・大滝ダムに最も近い4市町が、企業団議会において単純に人口比だけで少ない人数が割り当てられることも予想される。
山下知事は大淀町に対し、セグメント方式継続の方針はまだ伝えていない。大淀町の水道担当者は「まずは第2回目の法定協議会で提示される内容を待つ」と話す。 関連記事へ