身近な公立幼稚園「残して」と署名提出 奈良県橿原市の統廃合計画で耳成西の保護者ら
橿原市教育長(左)に耳成西幼稚園の閉園時期の見直しを求める署名を提出する保護者ら=2023年9月4日、同市小房町の市教育委員会
奈良県橿原市立耳成西幼稚園(同市上品寺町)の保護者や地域住民が、幼稚園の統廃合に伴う5年後の閉園予定に抵抗している。同園PTAの村井啓史会長らが9月4日、市役所を訪れ、閉園時期の見直しを求める1080人の署名を亀田忠彦市長など市の関係機関に提出した。
耳成西幼稚園は園児数34人(4、5歳児、2022年5月時点)。市と市教育委員会が今年3月に明らかにした市保育所・幼稚園適正配置実施計画によると、直線で北西約1.2キロにある真菅北幼稚園(同市大垣町)との統合が予定されている。2027年4月、真菅北の敷地に民間が運営する公私連携幼保連携型認定こども園を開園し、耳成西は2028年度末で閉園する。真菅北の園児数は86人(3~5歳児、同)。
橿原市が閉園を予定している耳成西幼稚園=2023年9月15日、同市上品寺町
橿原市が認定こども園への移行を予定している真菅北幼稚園=2023年9月15日、同市大垣町
統合で真菅北の敷地を利用する理由は、同園の軽量鉄骨造りの園舎が耳成西の鉄筋コンクリート造りの園舎に比べて建築が古く、2025年度に築50年を迎えるなど建て替え時期が迫っていることに加え、新しくこども園を整備する上で十分な広さがあるためという。また、市北部で保育所や認定こども園の整備を望む声があったという。
これに対し耳成西幼稚園PTA本部役員らは統合への不安として、(1)民間運営の認定こども園になじめない園児が出てきたとき転園できる公立幼稚園が徒歩圏内からなくなる(2)通園で保護者の負担が大きくなる(3)子育て世帯が住宅探しで最重視するのは教育施設までの距離(4)地域住民にとって公共施設や教育施設が果たす役割は大きい―などを挙げ、市に対し、民間運営の認定こども園が地域に定着するまで、公立の耳成西幼稚園を選択できる試験的期間を期限なしで設けてほしいと訴えている。
署名集めは、同園PTA本部役員が中心になって取り組んだ。地域の小学校PTA役員や自治会も協力したという。市役所を訪れた村井会長らは、集めた署名と要望書を亀田市長の代理者のほか、吉田徳弘教育長と奥田英人議会議長に手渡した。吉田教育長に対しては「地域の声を反映した計画になるようぜひ再度検討していただきたい」と伝えた。同教育長は「思いはうかがった。検討はさせていただく」と答えた。
市保育所・幼稚園適正配置実施計画は少子化や施設の老朽化、財政の観点から、15ある市立の幼稚園とこども園について、2028年度までに11園に再編するとしている。現在、計画の中で具体化しているのが耳成西と真菅北の統合と認定こども園への移行で、来月中旬にはこども園を運営する公私連携法人の公募が予定されている。
耳成西幼稚園PTA本部役員は「(統廃合に関する)情報が個々の園児の保護者や未就園児の保護者、地域住民に行き渡っていなかった。計画ありきだ」と反発する。昨年9月に市教委が耳成西、真菅北両園の保護者、地域住民を対象に開いた第1回説明会での参加者の反応は「そんな話、なぜいきなり」というものだったという。
市と市教委は計画を決定するに当たって、2019年11月、識者や関係団体の代表、公募委員で構成される市保育所・幼稚園適正配置検討委員会を設置した。審議は公開で行われ、会議録が市ホームページに掲載された。2021年3月には、統廃合の対象園や組み合わせを示したパブリックコメントを実施して市民の意見を聞いた。検討委はパブリックコメントの結果も踏まえ同年6月、計画の方向性について答申。市と市教委はこれを踏まえ実施計画を作った。
このうち、検討委は6回開かれたが、会議録によるとうち3回は傍聴者がなく、残る3回は傍聴者の有無に関する記載がなく不明。パブリックコメントでは27人から意見が寄せられた。また、市は答申を受けて以降、地域の自治会役員や市立幼稚園、こども園の保護者代表を対象に、園の適正配置について市の考え方を説明してきた。
しかし、同園PTA本部役員は「市は検討委やパブリックコメントについて市の広報紙やホームページで広報したというが、保護者や住民は誰も見ていない。自治会役員は年齢が高く、子育ても終わっていて関心が低い。市からの説明について地域住民への回覧はなかった」とする。
市はこうした声を受けて、今年1月の3回目の説明会開催に当たっては、耳成西の地元の全戸に案内ちらしを配布した。説明会は5月までに4回開かれた。また、統合に関する資料を作り、自治会に対し班ごとに回覧してもらえるよう相談しているという。
市こども政策課長は取材に対し、「真菅北の認定こども園への移行は反対がないので計画通り進める。耳成西の統合については理解を求める努力をしているが、(2029年度以降も存続を求める)1000人以上の署名を受けてどう対応するか検討中」と述べた。