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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

視点)奈良県水道一体化の老朽管更新 法定耐用年数と実使用年数の違いから考える

奈良県広陵町内の川に架かる県営水道の水管橋=2023年8月3日、同町(写真の一部を修正しています)

奈良県広陵町内の川に架かる県営水道の水管橋=2023年8月3日、同町(写真の一部を修正しています)

 奈良県域水道一体化構想のメリットとして挙げられる水道管の更新。協議では、参加団体の法定耐用年数を超過した水道管の比率が高いことが問題にされてきた。一方で、より肝心なことは各団体の実使用年数に基づく老朽管の実態ではないか。早期に取りまとめ、工事の優先順位を県民が客観的に判断できる情報を公開すべきと考える。

 県内26市町村の水道と県営水道との事業統合を目指す一体化構想は、国庫補助金と県支援金の計412億円を活用することにより、参加市町村水道管の耐震化工事がスピードアップし、単独経営するより「メリットが大きい」と県は主張。事業開始予定の2025年度には水道の累積赤字団体が一掃され、市町村長の責任は軽くなる。しかし国庫補助金が切れた10年後の投資や料金水準は不確定要素が多い。

 情報公開もかなり不十分。昨年11月、一体化協議の意思決定プロセス等検討部会は、参加予定市町村ごとの統合後10年間の投資見込み額などを議論の材料にした。「奈良の声」は県情報公開条例に基づき事務局の県水道局に関係文書を開示請求したところ、耐震化のスケジュールと密接に関わる投資見込み額が不開示だった。

奈良県域水道一体化に参加予定の市町村の統合当初10年間の投資見込み額などを示した会議資料。不開示のため黒塗りされている

奈良県域水道一体化に参加予定の市町村の統合当初10年間の投資見込み額などを示した会議資料。不開示のため黒塗りされている

 一方、県営水道管路の法定耐用年数超過率は45%に達し、数字上はどの市町村より老朽化が進んでいることになる。

 そこで県水道局に対し「26市町村管路の法定耐用年数超過率は全国平均より高いと指摘するが、県自身はどのような対策をしてきたか」と質問した。すると「法定耐用年数より、実使用年数を見ていくことが大事であり、併せて埋設管路の調査を重んじている」と答えた。

 そこで考えた。こうした調査が市町村に広がれば、県域水道一体化の大型統合に参加するエリアでも、水道の自治を貫いて単独経営に挑むエリアでも、県内全体の水道管を強くするための工事優先度を決める際の判断の客観性が増すと思われる。

 埋設管路の老朽度調査はどんな内容か。普段は地中にあって見えにくい世界。まず記者は県情報公開条例に基づき、生駒市内など5カ所で2020年度に実施された調査結果を開示請求することにした。全面開示され、分量はA4判の文書約170枚に。調査の担当は県水道局広域水道センター(大和郡山市満願寺町)で、実際の作業は専門業者が請け負った。

 県水道局は2006年から要綱を設けてこの調査を行い、現在までの調査実績は48例となった。

 調査は、管体内面のさびや腐食を目視することに始まり、硬さ試験や化学成分の分析などを行うことにより老朽化の度合いを把握していく。道路工事で埋設管路を移動する際や、管路の分岐工事などで管体の切片を採取できるときなどが調査のタイミングになるという。

効果的手法とは

 調査の意義について県水道局業務課は本年6月1日付の文書で「奈良の声」に次のようなコメントを出した。

 「法定耐用年数はあくまで減価償却資産に対する課税の公平性を図るために設けられた基準。管路の更新は、実使用年数に基づき実施すべきものと考えている。県水道局は管路老朽度調査の結果や、日本水道協会と水道技術研究センターの技術資料、ならびに他の事業体などの管路更新基準を参考にして、より効率的・効果的な管路更新の実施を目指す」

 実使用年数とは、厚生労働省が2006年に示した更新基準の設定例。これによると、ダクタイルと呼ばれる強度を改良した鋳鉄のうち、管と管をつなぐ継手が地震に強く、良好な地盤に敷設されている水道管は80年の耐用年数を設定できる。

 一方、一体化参加予定団体にいまだに相当な距離数が残る石綿水道管をはじめ、コンクリート管や鉛管などは40年と短く設定され、80年のダクタイル耐震管とは2倍の開きがある。

 県営水道の埋設管路2020年度老朽度調査は、半世紀前に施工した広陵町南郷橋水管橋(1972年度敷設)など3カ所の水管橋(送水管)でも実施された。

 この調査は断水することなく、水道管内を撮影する手法が取られた。空気弁の補修弁などを介してカメラケーブルを押し込み、比較的容易に管内にカメラヘッドを挿入することができる

 空気弁の実物は、大阪市水道記念館(同市東淀川区柴島1丁目)で見学することができる。館内の解説によると、水道管の水の流れを正常に保つため、管内にたまった空気を外部に出すなどの機能があるそうだ。

水道管の空気弁について解説する展示=2023年9月16日、大阪市東淀川区柴島1丁目の市水道記念館

水道管の空気弁について解説する展示=2023年9月16日、大阪市東淀川区柴島1丁目の市水道記念館

 県水道局が実施した広陵町、安堵町、川西町の3カ所の水管橋調査では、川西町内の水管橋の溶接部にさびこぶ、堆積物などの発生が顕著であることが確認された。

 課題が見つかったのは調査の成果といえる。川西町内の水管橋は、広陵町内の水管橋と比べて施工年度が5年も新しい。

市町村水道エリアでの老朽度調査応用は

 こうした県の埋設水道管老朽度調査の取材を通し、昨年9月、一体化推進に向けた論点検討部会で使用された会議資料の一部が気に掛かった。この時点で、参加の態度を決めていなかった奈良市(翌10月、市は不参加を表明し協議から離脱)に参加を促す目的の会議だった。水道管の法定耐用年数超過率の市町村比較一覧で、奈良市の部分があえて赤色で表示され、老朽化が進んでいることが強調されていた。

 しかし、この会議資料は議論のほんの入り口に過ぎなかったのだと、このたびの取材で知った実使用年数の世界や老朽管調査を通し改めて気付かされた。

 赤色で強調表示すれば、見る人には警告の表記とも映る。安心や強靱(きょうじん)などのスローガンを掲げる一体化への参加は有利であるとアピールする狙いもあったに違いない。しかし、県自らが言うように法定耐用年数だけを目安にするのではなく、市町村ごとの実使用年数や埋設管路の老朽度調査などを比較検討してこそ、一体化か単独経営かの論議も深まっていくはずだ。

 市町村営の水道でも、水管橋内カメラ撮影などの調査は応用できないか、県水道局業務課に尋ねたところで「可能である」という回答を得た。

 県と同様に老朽管の定期的な調査を実施している県内市町村はまだないとみられる。一方、漏水などのトラブルが発生した際に調査を実施しているようだ。ある担当者は「漏水が目立つエリアは、土壌の性質との因果関係が見いだせる」と話す。調査が有意義であることがうかがえる。

 近畿屈指の給水人口を誇る大阪市水道局に聞いた。2022年度は水道管の腐食量調査が18件、土壌調査が15件行われた。

 同市水道局配水課によると、これらの業務は、水道管路事故の原因究明をはじめ、管路改良の必要性の判定、改良工法選定のためのデータ収集などを目的としている。大阪市は府域一水道構想に参加していない。

 県域水道一体化構想は、6年の歳月をかけた協議とされるが、県民に対する情報公開はほとんど前進していない。昨年秋は突然、ルールを大きく変更した。内部留保資金などの持参金が多い市町村ほど、管路更新などを有利に進めることができる方向が固まったのだ。

 奈良市が不参加を表明したことにより、参加に慎重だった経営優良団体の大和郡山市を参加させる狙いがあった。

 一体化に伴う工事の優先順位は今後、焦点となる。遠回りかもしれないが、埋設管路の調査拡充こそ、県民が納得できる工事を進めるための手段の一つとなるかもしれない。

 県水道局県域水道一体化準備室は「埋設管路の老朽度調査は、県の管路の優先順位を決める上で参考にする。奈良県広域水道企業団設立に向けた協議で、日本水道協会の水道施設更新指針などを基に工事の検討を進めたい」と話す。 関連記事へ

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