災害時の非常用発電設備が未整備 奈良県水道一体化で存続予定の4浄水場
災害に備え自家発電設備(中央)がある生駒市真弓浄水場(水源は地下水)=2024年1月5日、同市真弓2丁目
奈良県域水道一体化を協議している県広域水道企業団設立準備協議会(会長・山下真知事)で、災害時の停電に備えた浄水場や送配水ポンプ施設への非常用発電設備の整備が、新たな課題として浮上している。県が「奈良の声」記者に開示した昨年11月の同協議会施設整備作業部会の会議資料などから分かった。統合後も存続予定の主要浄水場8カ所のうち、4カ所が自家発電設備を備えていない。
一体化を主導する県は協議会で協議の上、これら施設への自家発電設備設置を進めることを検討している。整備には多額の費用が見込まれるが、予定されている同企業団全体の投資規模の変更はないため費用配分にも影響しそうだ。
協議会に参加している県と26市町村の中で、ダムや川、地下水を水源に持ち、統合後も存続予定の浄水場は県営2カ所と6市町の計8カ所。このうち大和郡山市、大淀町、吉野町、下市町の浄水場は自家発電設備がない。ポンプ施設については、281カ所のうち246カ所が未整備だが、小規模の施設も多い。
県が自家発電設備の課題を取り上げたのは昨年7月の協議会の第3回施設整備作業部会。全ポンプ施設への設置は必要ないとする意見もあったが、生駒市は「停電時に水が送れなくなる」と市内ポンプ施設への設備の拡充を主張した。
その後、県は26市町村の浄水場、ポンプ施設をあらためて点検。昨年11月の第5回施設整備作業部会で、浄水場4カ所、災害拠点病院に送水するなどしている4市2町のポンプ施設約10カ所への自家発電設備設置案を提示した。
自家発電設備にはディーゼルエンジンを用いたものなどがあり、整備の費用は少なく見積もっても、大和郡山市昭和浄水場に3億2000万円(ポンプ施設を含む)、大淀町桜ケ丘浄水場(同)に3億5000万円、大和高田市の陵西配水場ポンプ施設に1億円など、計約20億円が見込まれている。
ただ「費用はもっと膨張するだろう」(協議に参加するある市の担当者)との見方もある。より現実的な設置箇所と費用見込み額は来月の第3回県広域水道企業団設立準備協議会で決定される。
県水道局県域水道一体化準備室によると、これら新たに発生する費用は従来の財政シミュレーションの範囲で行う。年間投資規模135億円に対し、同準備室は「一般論だが、従前の投資見込み額の下で整備の順番を入れ替えて調整することも考えられる」と話す。
視点)電気たくさん使う装置産業
厚生労働省が東日本大震災後、全国の水道事業者に対し実施した自家発電調査(回答数233)によると「すべての浄水場に設置」と回答したのは21.9%。「主要な浄水場に設置」または「一部の浄水場に設置」と回答したのは67%だった。自家発電設備を備えていなかった事業者は約1割。小規模な事業者ほど設置の遅れが目立ったという。
これに対し、県内で浄水場があるのは県営水道と奈良、大和郡山、天理、桜井、五條、御所、生駒、葛城、宇陀の9市と吉野、大淀、下市の3町。このうちすべての浄水場に自家発電設備があるのは県営水道と天理、桜井、生駒の3市。主要な浄水場または一部の浄水場に自家発電設備があるのは奈良、五條、宇陀、葛城の4市。残る大和郡山、御所の2市と吉野、大淀、下市の3町の浄水場には自家発電設備がない。
生駒市では市内に22カ所ある送配水ポンプ施設のうち、13カ所に自家発電設備が整備され、協議会に参加している他の市町村と比べ、群を抜いている。市の担当者は「自家発電設備の充実は一体化への参加を検討する前から課題にしてきた」という。
一体化の協議から離脱した奈良市の緑ケ丘浄水場、葛城市の兵家浄水場には自家発電設備がある。特に奈良市企業局は近年、ポンプ施設の充実に力を入れ、26カ所中16カ所に自家発電設備を設置し、他の5カ所についても可搬型発電機を準備し万一に備えている。
潤沢な国庫補助金、県支援金などを原資として容易に非常用電源の整備が保障されそうな水道一体化参加予定エリアと比べ、一体化に参加しないエリアは、水道事業本来の独立採算の形態で防災課題に挑むことになる。大和郡山市議会は一体化参加への賛否が拮抗し予断を許さない状況。
ポンプ施設の在り方は市町村ごとの地形や人口の偏在などによっても事情が変わってくるという。ある自治体の水道担当者は「高台の地区によっては、住んでいる人々が少ないこともあり、停電でポンプ施設が停止することによる断水を想定し、給水する方法を決めている」と話す。
水道は、電気をたくさん使う装置産業といわれる。東日本大震災では東京都内の一部も停電した。どの水道管にどれだけ水が流れているのか、過不足なくポンプで調整する仕組みがあるが、これら情報を測定する計器は電気で動くため「停電時に大変困った」という経験を、元東京都水道局長の増子敦さんは2022年、著書の中で披露。これを教訓に都は、主な測量水圧計などの測定箇所に3日間測定できる電池を装備した。情報収集のための停電対策というわけだ。
非常用電源とは、浄水場やポンプ施設に限った分野ではないことが分かる。 関連記事へ