奈良県行政書士会の会長選挙、無効確認求め会員が提訴 告示全員に伝わらず、メルアド登録一部 「立候補の機会奪われた」
奈良県行政書士会=2024年2月8日、奈良市
奈良県で行政書士の業務を行うのに加入が必要となる県行政書士会の昨年5月の会長選挙を巡り、会員の1人が会を相手取り、選挙の無効確認と330万円の損害賠償を求めて奈良地裁葛城支部に提訴した。
提訴は2024年1月12日付。訴えによると、会は選挙の告示連絡を電子メールで行ったが、会がアドレスを把握している会員は一部で、情報は会員の全てに伝わっていなかったという。原告は会長選挙への立候補の機会を奪われたとしている。
行政書士は行政書士法に基づく国家資格で、建設業許可や自動車登録、法人設立、営業許可、在留資格など、官公署に提出する書類の作成や提出代行を業務とする。
行政書士会は同法で都道府県ごとに設立が義務付けられた団体。会員の品位保持、業務の改善進歩を図るため、会員の指導、連絡に関する事務を行うことを目的としている。行政書士の資格を持つ人が実際に業務を行うには、都道府県の行政書士会を経由して、日本行政書士連合会に行政書士名簿への登録を申請しなければならない。連合会は都道府県の行政書士会で構成される。
県行政書士会によると、同会の2月9日現在の会員数は479人。会長の任期は2年で、訴状によると、昨年5月26日が選挙実施日とされていた。告示日は不明だが、同年4月3日付で一部の会員に告示内容と同一の情報がメールで送信されていた。立候補の届け出期間は同月12、13日とされたが、届け出は現会長の黒田敬子氏のみで、同氏が無投票当選となった。
原告側はメールによる告示連絡について、県行政書士会会長選挙規則に違反しているとする。選挙規則は、県の認可を得た会則の規定に基づいて別に定められている。
規則によると、会長は会員の中から選挙するとされ、選挙の告示については、あらかじめ定めた選挙期日の40日前までに、選挙期日や立候補の届け出などに関する事項を、会の事務局(奈良市)に会員が認識しやすい方法で掲示。併せて「告示と同一の内容を記載した文書を告示の7日前までに会員に送付しなければならない」と定めている。
原告側は規則の「文書を送付」の規定について、「規則が制定された時点ではメールを連絡手段として想定しておらず、文書の送付に該当すると解釈できない」と主張する。行政書士会は原告に対し「告示と同一の内容をメールで送付しており、規則に違反していない」と反論したという。
さらに原告側は「(文書送付の手続きは)全会員が事務局を現実的に訪れる可能性が極めて低いことを前提に、告示手続きの効果を実質的に担保するために極めて重要」と指摘。その上で「行政書士会は(文書を)選挙の告示内容の送付の目的以外で把握している、一部の会員のメールアドレスのみに送信した」と主張する。
原告は取材に対し、選挙が行われたことを知ったのは立候補届け出期間後の昨年5月10日すぎ、郵便で同月26日開催予定の定時総会の議案書を受け取ったときとする。原告が行政書士会事務局に確認したところ、連絡の紙からメールへの切り替えは、郵便だと高くつくためとのことだった。前回の会長選挙でも告示内容の連絡はメールで行われたという。
原告側は損害賠償について「有効なメールアドレスを登録しておらず、選挙に関する連絡を受け取れなかった。会長選挙に立候補するかどうか検討する機会を奪われ、被選挙権を侵害された」としている。
原告は昨年5月、県行政書士会を監督する県に告示連絡の問題について伝えた。原告がその後、県への開示請求で得た文書によると、行政書士会事務局から県に対する説明は次のようなものだった。
選挙の告示について、メールも文書も送付できていない会員は一定数いる。選挙の連絡を含め紙での連絡をメールに切り替えることは、(昨年5月から)4年ほど前に1年かけて会員に伝えた。しかし、全員のメールアドレスは登録されておらず、希望があれば有料で文書を送付している。メール送信も規則の「文書を送付」に含まれると解釈しているが、意見もあるためメールと併せて無償で紙の文書を送付するか、規則にメール送付を明記するか対応を検討している。
担当の県市町村振興課は取材に対し「規則は(紙かメールか)文書の送付の仕方まで規定していない。会則は認可の対象だが、規則は団体内部の決まりのため、どこまで関与するかという問題もある。今後、行政書士会から相談、報告があると思うので、必要に応じて助言したい」としている。
県行政書士会広報部担当の若林かずみ副会長は取材に対し「(行政書士会の考えは)裁判の中で主張する」と述べた。 続報へ