緊急貯水槽の整備、市町村間で大きな開き 奈良県水道一体化、企業団負担では実施しない考え
香芝市がJR志都美駅前ロータリーの地下に整備した緊急貯水槽の取水口=2024年2月10日、同市
奈良県域水道一体化を協議している県広域水道企業団設立準備協議会(会長・山下真知事)に参加の26市町村間で、災害時の水道施設損壊に備えた緊急貯水槽の整備状況に大きな開きがあることが、県が「奈良の声」記者に開示した昨年11月の同協議会施設整備作業部会の会議資料などから分かった。
緊急貯水槽は水道管の一部を太くして水をためられるようにしたもので、通常はきれいな水道水が流れ、災害で管路内の圧力が低下すると緊急遮断弁が作動して水槽になり、地上からポンプや手動でくみ上げて給水ができる。規模により40立方メートルから100立方メートル程度の水道水がたまる。生命を維持するために必要な飲料水は1人1日最低3リットル(総務省例示)とすると、100立方メートルの貯水槽なら1万人分の水を3日間確保できるという。
緊急貯水槽の仕組み(香芝市が貯水槽に設置した看板から)
県水道局の調べでは26市町村に合せて79カ所の緊急貯水槽がある。人口規模から見ると香芝市(人口約7万7400人)が充実しており12カ所。市内のJR志都美駅前や小学校などに設置している。同市上下水道部は「阪神大震災を契機に増やした」と話す。町では平群町の4カ所が多い。
一方、大和郡山市(人口約8万1100人)は3カ所にとどまる。市内には県営水道が断水に備えて設けた応急給水栓が1カ所ある。五條市、大淀町、吉野町、下市町はゼロ。防災との関連で水道管の老朽化度合いにも市部で相当な開きがある。
「奈良の声」の聞き取りよると、一体化の協議から離脱した奈良市は23カ所、葛城市は2カ所。
緊急貯水槽の数 (人口比で多い順) |
水道管の老朽化度合 (管路経年化率、%) |
|
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御所市 | 6 | 9.72 |
宇陀市 | 5 | 27.44 |
香芝市 | 12 | 30.34 |
大和高田市 | 7 | 17.09 |
天理市 | 7 | 26.77 |
桜井市 | 4 | 16.34 |
奈良市 | 23 | 35.16 |
生駒市 | 7 | 33.39 |
葛城市 | 2 | 7.48 |
橿原市 | 6 | 15.23 |
大和郡山市 | 3 | 30.67 |
五條市 | 0 | 36.59 |
県防災統括室は「県内市町村間で緊急貯水槽の整備にばらつきがある状況は把握してない。人口規模でどの程度整備することが望ましいのか、目標などは存在しない」と話す。
2025年度の事業開始を目指す県広域水道企業団(一部事務組合)が緊急貯水槽の計画や整備を行うのではなく、市町村の一般会計で行うとする考え方を、県は打ち出している。
その理由として県は次の点を挙げる。緊急貯水槽は、避難場所や防災拠点などで整備されることから、水道の用に供さない施設であり、災害対策基本法上、市町村の役割であるという。県はこうした方向性を市町村に示している。
また、浄水場などの水道施設に緊急遮断弁を設けるなどして、災害時に水を確保することについてはあらためて検討する。
現在、緊急貯水槽の費用面での負担区分は、市町村間で大きく異なる。県調査によると大和高田市は水道会計と一般会計とが折半し、生駒市は水道会計が負担してきた。
水道一体化の協議で耐震性緊急貯水槽増設の論議が浮上したのは昨年。磯城郡3町でつくる広域水道企業団が2034年までに田原本町内(既設3カ所)に4カ所増設することを提案した。1カ所当たり4億円で整備できるとしている。
これを受け、県水道局が県内市町村の整備状況を調査し、負担の在り方を検討していた。
企業団は発足後、浄水場やポンプ施設の非常用電源の整備に相当の支出が求められており、敷設年度の不明管約800キロメートルの対策も急がれる。加えて、緊急貯水槽の未整備地区の解消や増設を企業団の会計で負担すれば、一体化のメリットを示した県の財務シミュレーションに影響する可能性がある。
協議に参加している26市町村のうち、最後に参加を表明した大和郡山市が昨年1月、住民説明会で市民に力説したのは水道管更新のメリット。同市が整備した3カ所の緊急貯水槽のうち1カ所は、一体化の協議で廃止が計画されている市営北郡山浄水場(水源・地下水)の中にある。市市民安全課は「人口比で設置数が少ないと指摘されれば、課題になり得る」と話した。
県水道局県域水道一体化準備室は「緊急貯水槽設置の計画・整備については、市町村が行うものとする基本的な考え方は、今後のどの会議で決定するかは未定」と話している。 関連記事へ