敷設年度不明の水道管800キロ 奈良県水道一体化、更新の優先順位で課題 2022年度県調査
ある市の敷設年度別の水道管の延長とその管種別内訳を示すグラフ。1970年代前半以前はほとんど情報がなく、その大半が左端の不明管に表れているとみられる(開示された県広域水道企業団設立準備協議会の資料から)
2025年度の事業開始を目指す奈良県広域水道企業団設立準備協議会(会長・山下真知事)の参加市町村内に、敷設年度が不明な水道管が計約800キロメートルあることが、県水道局が県情報公開条例に基づいて「奈良の声」記者に開示した同協議会資料などから分かった。敷設時期は、防災に関わる統合後の水道管更新の優先順位を決める上で重要で、特定作業が急がれる。
資料は、県水道局が2022年度前半に市町村の水道管の敷設年度別の延長やその管種別の内訳を調査し、棒グラフなどで表したもの。各市町村の水道管総延長キロ数とこれに占める敷設年度が不明な水道管の割合が示され、さらに不明管の割合が13%以上の市町村についてはそのキロ数が示されている。「奈良の声」がこれを基に算出したところ、同協議会に参加している26市町村と県営水道を合わせた管路の総延長は約7200キロメートル、不明管の総延長は約800キロメートルになった。
算出に当たって、同資料作成後に一体化の協議から離脱した奈良市と葛城市は除いた。一方、資料作成時点で協議に参加していなかった大和郡山市は「奈良の声」が直接、同市に数字を確認した。
敷設年度が不明な水道管は、給水人口規模が小さい県中部、南部の市や町に偏在する。不明管の大半が非耐震の老朽金属管で、次いで非耐震の樹脂管も多いとみられる。
「奈良の声」が市と町に聞き取りをしたところ、敷設年度が不明になった背景はさまざま。紙媒体の情報の未作成、紛失、誤廃棄などがあり、また、デジタル化に移行する上で敷設年度が脱落したこともあった。合体した簡易水道の情報が乏しかったケースもある。経営規模が小さく、地理情報と併せた電子化(マッピングシステム)が遅れるほど、不明管の調査が後手になる傾向が見られた。
荒井正吾前知事時代の県政の奨励で、市町村が自己水源の直営浄水場を廃止、県営水道100%の受水に移行する作業が優先したことも一因だ。県水道局によると、全国の不明管の状況が分かる資料はないという。
県の2022年度の調査時点で不明管が3割を超えていたのは7市町。平群町は34.8%。町の担当者によると1970年代前後、町内で大規模ニュータウン開発が行われた際、水道管の諸元が十分に記録されなかった。「敷設年度が不明でも、新興住宅地のエリアは開発の年度を特定することが容易で、現在調査を進め、数字は大きく改善する」と話す。
山間地域に水道を送る下市町は46.2%。不明管の埋設記録について、誤廃棄か、未作成かをたどることは困難という。町の担当者は「現在、残された設計図などと照合し、年度の特定を急いでいる。現地調査も実施中で、水管橋は空気弁から、埋設管は水道弁の周囲などから敷設年度の特定に努めており、数字は改善する」と話す。
三宅町は35.9%。同町を含む磯城郡3町広域水道企業団は「三宅町は、上水道と下水道の業務に対し計2人だけの職員体制だった。人手が少ない上、町営浄水場を廃止する業務を優先したため、管路の情報整理に手が回らなかった」と話す。
御所市は33.6%。市の担当者は「精査中であり、想定していたより新しい敷設年度が判明することもある。これまでグレーゾンにあった管路を不明管の分類に入れる方針。これにより不明管の比率は上昇するが、正確な報告が大事」と話す。
広陵町は35%。倉庫火災で敷設年度が入った原本が焼失したが、位置や口径などは電子データにおおむね残るという。このほか三郷町は74.4%、王寺町は74.3%。
「奈良の声」による聞き取りでも、複数の市や町は数字に変化がなかったが、三郷町は間もなく30%程度に減少、王寺町はゼロになった。このため不明管が3割を超えるのは現時点で6市町。
県調査で敷設年度不明管がなかったのは県営水道、橿原市、香芝市、天理市、宇陀市、斑鳩町、大淀町。ほとんどなかった(0.6%以下)のは生駒市、大和郡山市、桜井市。
9月に迫る一体化参加・不参加の議会の最終判断採決
県広域水道企業団設立に向けた基本計画は、2024年度中に敷設年度が不明な水道管の情報を明らかにし整理することを決めている。
一方、今年9月には一体化への参加・不参加を市町村議会が最終判断する重要議案が市町村長から提出される。特に大和郡山市議会は賛否が拮抗し、予断を許さない状況になっている。
こうしたことから、不明管の調査、整理は少なくとも8月中に完了していなければ、議会への情報提供は十分とはいえない。
荒井前知事時代から県が主導してきた一体化協議。一つのヤマ場は2021年1月、統一料金による事業の開始を2025度と決め、県と27市町村が覚書を締結した。この時点で、敷設年度の不明管の総延長は相当な距離に上っていたが、互いの実情がよく見えない状態の中で合意がなされたことになる。
この間、県の情報提供は不十分で、県情報公開条例がうたう「県民の知る権利」も十分には保障されなかった。最優先されたのは、水道広域化に交付される国庫補助金を満額10年間受け取るために逆算された2025年度の事業開始で、山下知事も継承している。経営基盤の弱い団体の参加が多く、県も多額の交付金を準備している。
県内全体の水道管耐震化率は、浄水場と配水池を結ぶ送水管が56.6%、配水本管は34.6%、本管から家庭近くの給水管に送水する配水支管は15.1%(2019年奈良市作成資料)。
県内の敷設年度の不明管は口径の小さい水道管が多いが、一部に送水量の比較的多い口径125ミリから250ミリまでの水道管も含まれるとみられる。厚生労働省によると2018年の大阪府北部を震源とする地震(最大震度6弱)は、敷設年度が古いほど破損割合が高い傾向にあった。
県水道局県域水道一体化準備室は「古い管路から更新する必要があるため、古いかどうか分からない状態は課題。当該市町村の側で情報を整理してもらう」と話している。 関連記事へ