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浅野善一

奈良市、自治会交付金の返還命令2件 申請世帯数、実際の加入数と懸け離れ 2020年の不正発覚で制度見直し後

奈良市役所=2025年4月、同市二条大路南1丁目、浅野善一撮影

奈良市役所=2025年4月、同市二条大路南1丁目、浅野善一撮影

算定の在り方、今も課題

 奈良市は、自治会の世帯数に応じて交付する自治会交付金について、2020年に発覚した不正受給事件を機に翌年制度を見直したが、それ以降に市が交付金を巡って自治会に返還を命じた4件のうち、2件は交付申請の世帯数と実際の加入世帯数が懸け離れていた。「奈良の声」が市に開示請求した文書で分かった。最近も交付金を巡る住民監査請求をきっかけに世帯数の確認方法が問題となり、市はあらためて算定の在り方を検討している。

 市自治会交付金交付要綱は「地域コミュニティの推進に資することを目的」に「自治会の事業に要する経費の一部を交付する」と定めている。自治会は夏祭りなど自治会活動の費用に充てている。交付金額は1世帯につき360円で、市によると2024年度は1056団体から交付申請があった。交付金の総額は市の2025年度予算では3780万円。市の自治会数は今年3月31日現在で1117団体という。

 2020年の不正受給事件では、市内の自治会の会長代行が自治会活動の実態がないにもかかわらず、交付金を申請、受給していたとして、市は2020年6月、2016~2019年度の4年間の交付金計70万5600円について返還請求するとともに、会長代行を詐欺容疑で警察に告訴した。市によると、不起訴となったが、請求分については現在も分割払いで返還中という。

 市はこれを機に交付要綱を見直し、翌2021年度から、交付金を申請した自治会に対し、それまでは求めていなかった事業報告書や収支決算書などの実績報告書を、会計年度の終了後に提出してもらうよう改めた。事業の実施状況のほか、収支決算書の自治会費の納入状況から実際の加入世帯数を把握、年度当初の申請書の世帯数と比較して10世帯以上の差があれば聞き取りを行うことにした。

 「奈良の声」の開示請求では、交付要綱改定以降に市が自治会に対し行った交付金の返還命令に関する文書を請求。返還命令は2022~2024年に4件あり、その命令書や市内部の起案書が開示された。

 交付申請の世帯数と実際の加入世帯数が懸け離れていた2件の返還命令のうち、1件は2022年、市内にある集合住宅の団地の自治会に対し行ったもの。自治会が市に報告している加入世帯数は虚偽だとして、同年6月に住民監査請求があり、市はこれをきっかけに調査。2017~2021年度の5年間の交付金のうち、計40万7496円を不当利得と判断、利息分を加えて返還するよう命じた。

 監査結果や市の説明によると、2021年度の交付金に関し、申請書の世帯数は370世帯だったが、収支決算書の自治会費の納入世帯数は128世帯となっていた。市などに残っていた記録で確かめることができた2017~2020年度の申請世帯数についても同様に「偽り」だったとした。申請世帯数は自治会に加入していない世帯も含む団地の全世帯数だった。自治会は市に対し「新聞受けに新聞がたまっていたら声を掛けるなど、会員か否かに関わらず団地全体を見ていた」と説明したという。

 もう1件の返還命令も2022年で、市が2021年度の交付金に関し、各自治会から提出された実績報告書を点検していて判明した。市は自治会に対し、同年度の交付金のうち4万3920円を返還するよう命じた。

 市によると、同自治会の申請書の世帯数は192世帯だったが、収支決算書の自治会費の納入世帯数は70世帯となっていた。申請時点では、加入予定だった新築の共同住宅の世帯数を含めていたが、実際には加入がなかったという。自治会に世帯数の変更を申告しなければならないという認識がなかったという。

 いずれの自治会も返還命令に応じた。このほかの2件の返還命令も世帯数の変更に伴うものだが、自治会が自ら申告するなどしていた。

 こうした経緯を経て、現在あらためて世帯数の確認方法の問題が浮上している。きっかけは、2023年度に交付された自治会交付金を巡って、市内の男性が昨年6月に行った住民監査請求。男性は自身が加入している自治会について、申請書の世帯数が45世帯だったのに、収支決算書の自治会費の納入世帯数が40世帯となっていたことについて「市は必要な審査を怠り、実態を上回る交付金を支給した」と訴えた。

 会員か否かについて会費納入の有無が問題となるかどうかなどが争点となったが、監査委員は、市が実績報告書の点検で申請世帯数と自治会費の納入世帯数との間に10世帯以上の差がないことを確認していたことなどを踏まえ、両者に「差があることのみをもって直ちに過大交付とは言えない」と判断、請求を棄却した。

 一方で監査委員は意見として、申請世帯数を正確に確認するため交付申請の際に会員名簿などの提出を求めることなどを要望。また、申請世帯数と自治会費の納入世帯数の差について、聞き取りを行う基準を「10世帯以上」としていることについて、世帯数が一桁から最大1000超まである自治会を一律に論じることには限外があると指摘、交付金の算定の在り方を見直し、検討するよう求めた。

 市によると、自治会会則に会員規程がない自治会や会費を集めていない自治会もあるという。市地域づくり推進課長は取材に対し「交付申請の際に名簿など会員数が分かる資料を確認する方向で検討を進めている」とした。また、今後の交付金の算定の在り方についても「世帯数に応じたものにするのか、活動内容で決めるのか、市自治連合会とも協議しながら検討していきたい」と述べた。

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